第18話 A級昇級試験⑤(終)

「すげぇ、すげぇよ陽向!」


 そう言って洋治はみんなの方に戻ってきた陽向の背中を叩く。


「い、痛いですって!」

「わはは、悪い悪い」


 洋治は悪びれた様子もなく、そう言って一歩前に出る。


「次は誰がやる!!」

「俺がやるぜ!!」


 洋治はそう言って陽向が居た場所まで歩く。するを気配、魔力を解き放った。


「ほう、魔物を呼び集める気か」


 風間試験官が察したように呟く。すると俺の探知系スキルにも反応があった。

 三体のA級相当の魔力を持った魔物が洋治に相当なスピードで寄ってきている。


 これだと同時に三体の魔物と戦う事になるが大丈夫なのだろうか?

 そう思い風間試験官を見ると、次の瞬間言葉を発した。


「誰か洋治と一緒に試験を受ける奴はいないか!! 後二人!!」


 なるほど、やはりどうしても一対一で戦わせるつもりなんだな。


「じゃああたしが!」

「私も私もー!」


 すると芽衣さんと加奈さんが、手を上げて応えた。


「よし!! じゃあ洋治の隣に着け!!」


「「はい!」」


 芽衣さんは腰からナイフ二本を、加奈さんは背中から大剣を抜いて洋治の隣に着く。そして構えた。

 洋治も「来るぞ」と言ってから腰から魔剣を抜刀し、構える。


『GURAAAAAAAA』

『ゴッゴゴゴ!』

『ウラァアアアア』


 現れたのは、緑色の鱗に大きな羽。そして金色の瞳孔――飛竜と、全長6mはある砂でできた体、サンドゴーレム。そして漆黒な皮膚に大きな大盾と剣を持った豚の魔物、オークジェネラルが現れた。

 どれもA級の魔物だ。


 すると洋治が、飛竜に手を掲げ氷魔法を飛ばす。注意を引く狙いがあるのだろう。

 その氷魔法を受け、痛くも痒くもなさそうな飛竜は目線だけを洋治に寄こす。


 芽衣さんはオークジェネラルを、加奈さんはサンドゴーレムに狙いを定めたようだった。


 そして三人が一斉に動き出すのが開戦の合図となったのか、オークジェネラルが咆哮を上げ、サンドゴーレムは砂塵を放った。飛竜は駆けだす洋治を目で追い、旋回して洋治の後を追った。











◇◆◇◆◇


 洋治は加奈と芽衣の二人に、飛竜との戦いの余波が当たらないように距離を取る為駆け出した。

 それに飛竜は付いてくる。だが、付いてくるだけではない、飛竜は風魔法の《ウィンドカッター》を幾つも飛ばしてくる。


「ふぅー! あぶねえ!」


 そう叫びながら洋治は《ウィンドカッター》をひょいひょい避けていく。


「さて、ここまで来れば大丈夫だろ」


 そう言って洋治は立ち止まる。そして襲い来る《ウィンドカッター》を魔剣で斬った。横に割れた《ウィンドカッター》の残骸は地面に激突し、土ぼこりを上げる。

 命中したと思い、攻撃を止めた飛竜は血の匂いがしなくて訝しむ。


 瞬間、洋治が土埃の中から飛竜目掛けて飛び出した。

 飛竜は驚き、距離を取ろうとするが間に合わない。洋治の浸食氷剣は飛竜の顎下から胸を浅く傷つけた。


 だがこの程度では本来飛竜は死なない。――はだ。


 洋治は地面に着地し、もう奴は死んだとばかりに飛竜に背を向ける。

 飛竜は斬られた怒りを露わにし、洋治の背中を串刺しにしようと飛竜の鉤爪が迫る。


 が――もう既に浸食が始まっていた。それに飛竜は気づいていない。


 傷から飛竜の表面と体内に、急速に氷結が浸食していた。それは、鉤爪が洋治に届く前に脳まで届いてしまった。


 その巨体が徐々に黒煙に変わるのを背に、洋治は皆の元へ戻っていく。



 『侵氷』の三谷洋治、A級合格。




 洋治が飛竜を引き付けている間、芽衣はオークジェネラルの攻撃を捌き、避け続けていた。攻撃パターンを見極める為でもあるが、一番はもう一つの事。

 

 魔物にも感情はある。芽衣は魔物を動揺、焦らせるのが得意だった。

 オークジェネラルのせっかちと言う本質を見抜き、全攻撃を捌き避けつつ猪口才ちょこざいな攻撃しか加えない。


 するとオークジェネラルは鬱陶しく感じると同時に焦ってくる。どうしたことだろうか、オークジェネラルの攻撃が粗くなっている。当然隙が増えた。

 これを芽衣は狙っていたのだ。


 ここから芽衣の猛攻が始まる。

 手始めに自慢のナイフで守備の甘かった顔をズタズタに斬りつけ、相手の余裕と視界をなくす。

 慌てた瞬間を見逃さず追撃。剣を持っていた方の腕を切り落とした。こうするともう相手に殆どの攻撃手段はない。


 醜い悲鳴が上がる。


 芽衣はオークジェネラルが混乱している間に懐に入り込み、大盾を蹴とばす。そしてガラ空きになった胴体をナイフで幾重にも斬りつける。

 するとダメージに耐えられなくなったのか、オークジェネラルは地面に倒れ込んだ。するとそれを狙っていたのか、芽衣は地面に横たわったオークジェネラルの首を刎ねた。


 

 『残血』明篠あけしの芽衣、A級合格。




 加奈対サンドゴーレムの戦いは一瞬で決着がついた。


 身の丈ほどもある大剣を持ち構えながら、サンドゴーレムに肉薄した加奈は横薙ぎと縦斬りを一瞬で行い、サンドゴーレムの中にあった核を斬り一瞬で黒煙に変わったのだ。



 『大剣姫』松井加奈、A級合格。











《side:芳我竜真》


 三人共やるなぁ。洋治は飛竜なんかに後れを取ることはないと思っていたけど、やっぱりだった。……だけど魔剣の能力頼りな所があるな。

 女子二人も随分強い。

 特に加奈さんは、サンドゴーレムの核の場所が分かっているような動きをしていた。【弱点看破】みたいなスキルを持っている可能性がありそうだ。


「いいぞ!! 三人共、暫定A級だ!!」


「っっしゃ!」

「やったぁ!」

「いえーい!」


 洋治はガッツポーズで喜び、女子二人はハイタッチして喜んでいる。


 その後も淡々と試験が進み、勿論俺もA級を一体倒した。拳で。

 結局暫定A級になった受験者は俺含めて六名。けが人が出たので、皆まとめて脱出結晶でダンジョンの外、地上に戻ることになった。




 地上に戻ると、怪我をした受験者は治療テントに入ってくれと言われ、怪我をしていた受験者の男たちは肩を貸しあって入っていった。

 試験官は治療はすぐ終わるので、残った受験者はバスの中で待機しろとの事だった。


 バスの昨日座っていた席に座る。すると洋治も同じく昨日の席に座った。


「お疲れ様や、竜真」

「お疲れ~」

「そうだ、これ、使わなかったから返すわ」


 そう言って洋治がマジックバックの中から出したのは《通常級回復ポーション》だった。


「いやいや、持っていてくれ。準S級ダンジョンで使うだろ?」

「ああーそうだな。有難う」


 洋治はまたお礼を言ってマジックバックの中に入れる。そして代わりにまたトランプを取り出した。


「やろうぜ、昨日の続きだ」


 俺達はわいわい騒ぎながらトランプで遊んだ。途中から通路を挟んで左側に座っていた風間試験官も混ざってトランプを楽しんだ。


 それから二十分が経った頃、浮かない顔の怪我を負った受験者達がバスの中に乗り込んできた。

 まぁ、試験に落ちたんだそりゃ浮かない顔もするか。そう思い視線を外して、トランプに目を移す。


 その後バスがダンジョン省本部に到着するまで俺達はトランプで遊んだ。


「お前ら、降りるぞ!! 疲れたかとは思うが、あともう少しの辛抱だ!!」


 その言葉に従って俺達は降りる。今回はマイク使わなかったな。

 すると風間試験官が言う。


「残念ながらこの試験で、不合格になった者はここで帰宅してくれ。後日不合格の通知と報酬が送られるはずだ! 今後の試験に期待しているぞ! お疲れ様だ」


 風間試験官はそう言って俺達を先導して歩いてダンジョン省の建物の中に入った。

 すると待機していたであろう記者やカメラマン、野次馬共が集まってくる。

 それを振り切って、エレベーターに乗って二階まで上がった。


 エレベーターを降り、風間試験官先導の元とある部屋に入った。


 そこに居たのは大剛長官とネット記事なので見た事のある、浜路はまみ大臣と小山内おさない長官が居た。

 俺達はパイプ椅子に座らせられると、浜路大臣が壇上に上り、演説台の後ろに立つ。


「諸君、まずはA級合格おめでとう。そして試験お疲れ様。諸君らが戦っていた様子は後々確認させてもらい、後日A級合格通知を送らせて頂く。ダンジョン省ホームページにも今回の合格者の名前を乗せさせて貰う。それを拒否したい場合は、申し出てくれ。二つ名での発表にしよう」


 大臣は一拍置いて話し始める。


「諸君らは今を以て、探索者の0.5%にも満たないA級探索者となった。A級探索者として、規律を守り探索者の模範となるよう探索に励んでほしい。……疲れているだろうから私からの言葉はこれで終わりにしよう。大剛君、小山内君何か言葉はあるかね?」

「浜路大臣と同意です」

「私もです」

「では、改めてお疲れ様だ、諸君」


 そう言って浜路大臣は軽く頭を下げ、壇上を降りた。


「おし、退室するぞお前ら」


 風間試験官の声量が畏まった場所だからか少し小さい。いつもそうしてくれ。


 退出した俺達は、またエレベーターに乗りその中で風間試験官が告げる。


「コレを降りたらもう解散だ。お前ら本当にお疲れ様!! 解散した後は忘れずに受付に更新行けよ? そうじゃないとA級になれないからな!」


 すると合格者たちが疎らに「有難うございました」と言う。

 そしてエレベーターの扉が開いた。


「じゃまた」

「おう、またな!」


 洋治とそう言って別れる。

 またしても記者が群がってくるが、俺は間を縫うように移動しロビーを移動する。

 そして近くの受け付けに並ぶと、直ぐに列が消化されて俺の番がくる。横と背後のカメラマンの圧が凄い。


「A級の更新に来ました」


 俺はそう言いながらカードを差し出す。

 受付嬢はカードとモニターを交互に見ながら確認する。


「はい、確認できました。少々お待ちください」


 受付嬢はそう言って裏に引っ込んでいく。

 待つこと五分近く、やっと受付嬢が戻ってきた。


「更新完了いたしました。こちらがA級探索者カードです」

「ありがとうございます」


 俺は受け取り、記者のインタビューっぽいのを躱し、人の間を縫ってロビーを出た。そして路地裏に入ると、人が来ないうちに澄鳴家に転移する。


 玄関に立っていた守衛らしき人が俺の顔を見るなり、驚いて玄関の中に入っていく。

 玄関で待つこと少しして、正道さんらが現れた。


「ささ、お入りください」

「お邪魔します」


 俺は玄関に入っていく。

 すると試験結果が気になっていたのか真之介さんが、すぐさま質問してきた。


「それでどうじゃった? 受かったか?」

「受かりましたよ」


 俺はA級になったカードを真之介さんに見せる。


「おお! よくやった、流石竜真殿じゃ」

「あと、後日合格通知が届くそうです。……ってあれ? 俺の住所ってどこになってるんですか?」

「ん? それ関係は正道に任せたから知らんわい」


 俺達の視線が廊下を歩く、正道さんに向く。


「一応、住所はうちになっています。明日か明後日には届くことでしょう」

「……分かりました」


 なんか勝手に俺、澄鳴さん家の居候になっとる!?

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