第13話 ダンジョン省にて

◇◆◇◆◇


 ダンジョン省本部の前に黒塗りの高級車が停まった。


「ん? なんだ?」


 ダンジョン省に用事があった者達、たまたまそこを通り掛かった者達が何が出てくるんだと、わらわら集まって野次馬の壁を築き上げた。


 するとその車の助手席から男が降りてきた。その男の名前は澄鳴正道。A級探索者である。


 野次馬たちはそのA級探索者の登場に、浮足立ち始める。


 そして後部座席の扉が開かれた。


「あれは……」

「嘘っ!? 引退したS級の水無月真之介じゃない!?」


 誰かがそう叫んだように後部座席の扉から出てきたのは、引退したS級の一人、そして“天槌てんつい”の異名で知られる水無月真之介だった。


 その久しくテレビにも出ていなかった姿を見て野次馬達は息を飲んで、スマホを向けた。


「おいっ! また出てくるぞ!!」


 誰かがそう叫び、後部座席に野次馬達の視線が向く。


 そこから出てきたのは長身、黒髪のイケメンだった。

 その登場に女性たちは色めき立つ。反対に男性は「誰だコイツ?」的な視線を浴びせるのだった。




《side:芳我竜真》


 えぇ……なんでこんなに人集まってんの?


 俺は黒塗りの高級車に乗せられて、ダンジョン省の本部までやってきていた。

 今は後部座席に真之介さんと座りながら、外の様子を伺っている状況だ。


「なんでこんなに野次馬が集まるんです?」

「まぁ、よくある事です。……先私から出ます」


 絶対よくあるとかじゃなく、この車のせいだよね!?


 正道さんはそう言って助手席の扉を開けて、外に出た。……途端に外が騒がしくなった気がする。正道さんって有名人だったのか?


「じゃあ、次は儂が」


 そう言って真之介さんが扉を開けて外に出る。すると余計に騒がしくなった。なんならスマホも向けられてるぞ? 


 次は俺か……この二人の後に出るのは気が引けるが、そんなことを思っていたら探索者資格は手に入らない。……行くか。


 俺は開かれていた扉から車の外に出る。すると一気に野次馬の視線が俺に刺さった。思えば、この世界でここまで自分に注目を向けられたことは初めてな気がする。


 俺はそれを無視して正道さん達と共に、ダンジョン省本部に入っていく。

 野次馬達は省内まで付いてきていたが、俺達がエレベーターに乗るとその追跡も途絶えたようだった。


 目的の四階に着くと、正道さんを先頭に足音の出ない上質な絨毯敷きの廊下を歩く。

 ここ絨毯にする必要あったのか? と思いながら歩いていると、正道さんが扉の前で止まった。そして三回ノックする。


「どうぞ」


 そう男の人の声が聞こえたと思うと、扉を正道さんが開けた。そして中に入っていく。


 中に入ると立って出迎えてくれたのは、大剛たいごうさんという男の長官だった。この人は探索者庁の長官らしく、俺が今回特例で探索者資格を取得するにあたって、その魔力登録と見極めに来たそうだ。


 それを聞いて俺の身が引き締まる。


「よろしく頼む」

「はい、よろしくお願いします」


 俺は大剛さんと握手を交わす。


 この人……強いな。少なくともこの間、晶の事を勧誘してきた奴らよりかは遥かに強いぞ。間違いなくS級はあるだろうな。微かに大剛さんからオーラが出ているのが分かる。


 俺は手を離す。すると納得顔で大剛さんは話し始めた。


「ふむ、なるほど。確かに芳我君はこの国トップを優に超すほどの実力がありそうだ。……よし、魔力の登録をしよう」


 俺と同じ様に握手をする際に、相手の力量を測ったようだ。

 取り敢えずは、魔力登録をしてくれそうで安心。


「では芳我君、探索者カードを出してくれ」

「はい」


 俺はポケットの中に入れていた探索者カードを出す。


「よし、ではそこに魔力を流した後、私に渡してくれ。魔力の流し方は分かるだろう?」

「はい」


 返事をすると同時に大剛さんにカードを渡す。

 すると大剛さんは、机の上に置いてあった魔道具のようなものにカードを差し込んだ。

 あの魔道具で俺の魔力をカードの金属に記憶させるのか……面白いな。


 そして十数秒してカードを抜いて俺に渡してくる。


「これで魔力登録は完了だ。後は試験を受けるだけのようだが、試験を受ける許可は私の方から出してある。今日からでもA級試験を受けられるだろう。……頑張りなさい」

「はい、ありがとうございます」


 俺はカードを受け取ると、そう頭を下げてお礼を言って俺達は大剛長官の元を後にする。

 また足音の出ない絨毯の上を歩いてエレベーターに戻ってくる。


 エレベーターに乗ると緊張を解いたのか、話し始める。


「いや、良かったですね。無事に登録できて」


 そう言うのは心底安心した様子の正道さん。


「そうじゃなあ」


 そう頷く真之介さんも心なしか安心した様子だ。


 それにしても今日からでもA級試験を受けられるのなら、受けといた方がいいか? 

 それに、今日を逃したら次いつの試験になるか分からない。ので今のうちに受けよう。


「俺は今日、A級試験を受けることにしました。お二人はそのまま帰りますか?」

「そうじゃな」

「では、一階で別れましょう。A級試験受かったらまた澄鳴家に伺います」

「了解じゃ。では頼んだぞ」


 真之介さんがそう言ったタイミングで丁度一階に着き、エレベーターから降りる。

 すると残っていた野次馬だろうか? その視線が俺達に一斉に向く。

 その視線を無視しつつ、俺だけ試験受付へと足を進めた。


「あの~すみません、A級試験を受けたいんですけど……」

「承りました、探索者カードはお持ちですか?」

「はい、これです」


 俺は探索者カードを受付嬢に渡す。

 すると受付嬢は目を見開いて、パソコンとカードを交互に見ていた。


「……はい、大丈夫ですよ。試験資格はあるようですし、問題ありませんね」


 そう言って受付嬢はカードを返してくる。


「よかったです。いつから試験ですか?」

「試験官が到着してからですので、14時ほどになるかと思います。それまで二階の七番待合室でお待ちください」


 後三十分か。

 俺はロビーに設置されてある時計を見てそう思う。


「分かりました」


 俺は従って二階にエレベーターで上り、七番待合室に入った。


 するとそこには、六人ほどの受験者らしきガチ装備の人たちが居た。中には筋トレしている人や、素振りしている人もいる。

 部屋がそれなりに広いので、素振りの風圧がこっちまで届くことはなかった。

 

 ジロジロと無遠慮な視線を受ける。それを無視しつつ、空いている席に座った。

 

 


 そのまま待つこと二十五分。

 その間に三人ほど受験者が増えた。これで俺合わせて十人だった。

 

 すると部屋の扉がバン!! と開けられる。それに俺達受験者の視線が一気に集まる。


「おうおう! 受験者全員いるようだなァ!」


 そう言ってガラの悪そうな男は大股で、部屋に設置されていたホワイトボードに近付く。そのホワイトボードに乱雑に文字を書くと、それをバン!! と手で叩いた。


「俺の名前は風間かざま裕介ゆうすけ!! 今回のA級試験の試験官だ!! よろしくゥ!!」


 そして威圧を放ってきた。

 まぁ、このくらいならレジストする必要はないだろう。


 そう思い周りを見ると、険しい顔をしている人や歯を食いしばっている人、挙句の果てには泡を吹いて失神している人もいた。


 こんなんで本当に試験受けられるのか? と思っていると、風間試験官が口を開いた。


「ここで失神なんてした奴は失格だからな! この部屋に置いていく! ……それと、そこの武器無し!! お前は見込みがある!! ダンジョンの目的地に着いたらお手本として一番に戦ってもらうからな!!」


 そう言って風間試験官は俺を指さしてきた。そのせいでまたしても俺に視線が集まる。なんかライバル視的な視線だ。


「よし!! じゃあ行くぞ!! 俺の後に続け!!!」


 その言葉に答えるように俺達受験者は試験官の後に続いて待合室を出た。そしてエレベーターまでの廊下を歩き、全員でエレベーターに乗った。

 それなりに大きなエレベーターだったので乗れたが、もう少し小さかったら全員乗れなかっただろう。


 というかエレベーターの中の狭い空間でも視線向けてくるのは何なのか。


 一階に着くと、待機していたか記者陣が群がる。それを無視して試験官の後に付いて歩く。


 そのまま省の建物を出て、駐車場に。そこにあったのはロケバスっぽいバスだった。窓には黒いカーテンがあり、それに窓のガラスにはスモークが掛かっていた。

 これは中の探索者を見えなくするためだろう。


 そんなことを思いながら続々とバスの中に乗り込んでいく。

 俺はバスのドアに近い、右側の窓側の席に座る事になった。因みに試験官はドアに一番近い、左側の席に座ったようだった。


『注目!! 今から俺達が向かうのは世田谷区にあるA級ダンジョンだ! 着くまでにお前たちには二人一組になってもらう!! 隣の席の奴と組むなり、好きに組んでくれ!!』


 試験官からバスのマイクを使って、そう伝えられた。

 というか音割れが酷い。十分声がデカいのに態々、マイクを使う必要あったのか? と思う。


 それにしてもペアか……隣の席の人と組むしかないのか。態々通路を挟んで左側の奴と組むのはなんか面倒だし、後ろの席の奴と組むのも席を挟んでだとやり辛い。

 やっぱり隣の席の人と組むしかないか。


 そう思い、目を隣の席の人に向けると目が合った。


「お前さん、俺と組まな――」

「喜んで」

「お、おう。随分と食い気味な返事だな。まぁ、よろしく」


 そう言って男は左手を差し出してきたので、握手する。


「俺の名前は三谷みたに洋治ようじってんだ。お前さんは?」


 そう言って洋治は探索者カードを見せてきた。そこにはB級と書いてある。

 おお、ちゃんとした実力者の様だ。これ安心。


「俺の名前は芳我竜真です」


 俺はそう言いながらポケットからカードを取り出して見せる。


「お、カッケェ名前してんじゃんよ。これから竜真で呼ばせてもらうわ。って、ほう……E級か」


 洋治は俺のカードを見るなり、意味深ににやりと笑い目を細めた。


 これは予想外の反応だな。E級って知られたら正直な所、見下されるか馬鹿にされるかと思っていたが。


「驚かないんですね?」

「ああ、このバスに乗れている時点で、竜真は試験を受ける資格があるって省から認められてるはずだ。それに……風間試験官の威圧を涼しい顔して受けてたじゃねぇか。あの時点で俺は竜真の実力はA級以上だってわかったからな」

「なるほど」

「それと、過去にE級からA級に飛び級した探索者は何例かあるからな。何も驚くことはねぇ。……期待してるぜ」


 そう言って俺の肩を叩いてきた。

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