第14話 A級昇級試験①

 ビル群が流れていく様子を窓から眺めながら、俺は溜息を吐いた。

 もうダンジョンは近いな。どんどん強いダンジョンの気配が濃くなってきた。


「竜真、どうした? そんな溜息なんて吐いて。試験が心配なんか?」

「それもあるけど――」

『お前ら注目!! もうすぐダンジョンに着く!! 今のうちに最後の準備をしておけよ!!』


 俺の声を遮るように試験官の声がスピーカーから車内に響く。


 すると洋治は肩から下げていたバックに手を突っ込むと、そこから剣を取り出した。

 まさかそこから武器が出てくるとは思わず、俺はそれを見て目を丸くする。


「マジックバックですか? それ」

「おうよ。……竜真は見た所武器は持っていないが、拳で戦うのか?」

「あーうん。そうしようかな」

「……? そうか」


 洋治は少し不思議そうな顔をして、視線を自分の剣に戻した。俺も釣られるように洋治の剣に視線を移す。

 

 洋治の剣の鞘には華美な銀の装飾が施されており、よく見ると刀身だけではなく鞘にも魔力が宿っている事が分かる。【鑑定】してみると、柄には《凍結耐性》《耐久力増加》《清潔》《強靭》《修復》が付与されている事が分かった。

 現代でここまでの付与をできる鍛冶師は中々いないらしいので、ダンジョン産なのだろう。

 

 鞘に《凍結耐性》がある事から、この件は氷の魔剣なのだろうか? 鑑定すれば分かるが、取り敢えずそのことを洋治に聞いてみると。


「おお? 良く分かったな? もしかして俺の事知ってた? かぁー俺も有名になったもんだねぇー!」


 となんだか自己解釈して、にやにやとしていた。なんだコイツ。

 ともかく、氷の魔剣で合っていたようだ。


「それは違うけど……この魔剣の名前はあるんですか?」

「あるぜ、こいつの名前は《浸食氷剣アルべリア》! 俺の大事な相棒だ!」


 浸食氷剣……なんか厨二病臭いな? 


「そんな、あからさまにうわぁ……って顔するなよ。仕方ねぇじゃんか、こいつを鑑定してもらった時、既に付いてた名前がこれなんだよ!!」


 え? 俺そんなに顔に出てた!?


「ああ、顔に出てる」

「マジですか……気を付けます」

「そうだな、気を付けた方がいいぜ。それと、俺に敬語は要らねぇ! なんかむず痒いからな」

「そういうなら、わかった」

「よし」


 そんな会話を終え、洋治が剣を少しだけ鞘から抜き状態を見ている。それを横から静かに眺めていると、静かにバスが止まったのを感じた。

 A級ダンジョンに着いたのか。


『着いたぞ!! 前の席の奴から順に降りろ!! 降りたらダンジョン前に、他の奴らの邪魔にならない様に集合だ!!』


 相変わらずうるさい試験官の声がスピーカーから聞こえる。もうマイク使うなよ。


 俺と洋治は比較的前の席だったので直ぐに降りる。そして特に更衣室に寄る事も、トイレに行くこともないので、そのままダンジョン前に行く。

 試験官含め全員が準備を済ませた状態だったようで、俺達がダンジョン前に着くと後ろから何人か来るだけで全員が集まった。


「よぉし!! 全員集まったみたいだな!! では今からダンジョンに入る!! 目標は二十五階層だ!! 行くぞ!!」


 試験官はそう言って腕を振り上げ、ダンジョンに入っていく。

 それに応えて「おー!!」と言っていた少女が一名。彼女には羞恥心という物が備わっていないのだろうか? 周りから「なんだコイツ」的な目で見られているのが分かっていない。何故かとても共感性羞恥を感じた。


 ダンジョンに全員が入ったのを見計らって、試験官は声を上げる。


「今から十層まで走るぞ!! 道中の魔物は一撃で仕留めていけ!!」

「え?」「あ?」「は?」「へ?」


 受験者たちが驚きと疑問の声を上げる中、それを無視して試験官は走り出した。そして徐々にスピードを上げる。

 俺と洋治は顔を見合わせ、


「取り敢えず、追いつくしかないよな?」

「そうだね」


 試験官に追いつくように走り出した。

 他の受験者も俺らに釣られてかどうかは分からないが、走り出した。


 試験官は先々にいる魔物の攻撃を巧みに躱して、俺らに寄こしている。

 試験官に一撃と言われているので、迫りくるC級上位の魔物、リザードマンを拳で一撃殴る。


 ――ドパァン


 すると拳の当たった先が弾けたように破裂し、衝撃音が鳴る。完全に即死だ。


「おまっ、何した!?」


 洋治がその光景を見ていたのだろう。目を丸くして俺に追いつくように走りながら近づいてきた。


「何って、殴っただけ」

「殴っただけって……普通ああなるか!?」

「なったからしょうがない」

「……絶対その拳俺に向けるなよ? フリじゃないからな!!」


 洋治は苦々しい顔をして、前から来るオークに肉薄し一閃。オークが真っ二つに割れた。そしてよく見ると傷口が凍っているのが分かる。あの魔剣の力なのだろう。


 その調子で俺達受験者は後続に流されるC、B級の魔物を狩り続けた。

 ダンジョン入場時から、後ろから強い気配の人間が離れて二人ほど追いかけてきているが、何者なのだろうか? 特に害意は感じないし大丈夫だろうが。……なんかデジャヴだな。


 七層――火山地帯――に降りて直ぐ俺と洋治に近付く気配があった。後続の受験者からだ。


「ねーねーお二人さん! 凄いねー、疲れる様子もなく魔物を屠れるなんて。二人がどんどん魔物を狩ってくれるおかけで、私達は殆ど疲れずにここまでこれたんだけど……そろそろ変わってくれないかな? 身体を解したいんだよね~」

 

 そう声を掛けてきたのは、先程の羞恥心皆無の少女だった。人懐っこい笑顔を浮かべて俺達にそう提案してくる。


 俺と洋治はそういう事ならと、減速して彼女に魔物を譲る。


「ありがと~」


 そう言った瞬間、試験官がオーガという魔物の攻撃を避けて彼女にオーガを寄こす。


 すると彼女は背中に背負っていた大剣を抜き、そのままオーガを袈裟斬りにする。

 大剣がそのまま地面に減り込むわけでもなく、地面に着く前に振り上げられて鞘に戻された。

 細い体とは裏腹に大剣を持っていた事にも驚いたが、まさかオーガを真っ二つにしてしまうとは。大剣に振り回されていない証拠だ。


 その後も彼女の後に続いて、後続の受験者が魔物を狩るのを目にした。




 ――そして十層。

 熱帯雨林のような景色の中、試験官が徐々に減速していき立ち止まった。そして振り返る。


「おお!? 誰も欠けずに付いてこれたようだなぁ!! よくやった! ここでいったん休憩を挟む!! 各自休め!」

「「「はぁ~~」」」


 三人ほど試験官の指示を聞いて、その場にへたり込む。まぁ、歩いて一日の距離を走ってきたんだ、疲れもするか。

 洋治は一息吐いたものの、その場に座り込むことはしないようだ。


 本当にこの試験どうなっているんだ? 急に走らせて、これで置いていかれたら魔物にやられて、最悪死ぬこともあり得る。有望な探索者を死なせるような試験にしておいて、これが本当に認められているのだろうか?

 ……ちょっと質問してみよう。


「風間試験官、もしこの十層までの走りで置いて行かれた人はどうなっていたんですか?」

「ん? ああ、心配には及ばない!! 俺達の後ろには実は試験官が二人ほど付いてきていてな? ついて来れなかった奴は、二人の試験官が地上まで送り届ける手筈となっているんだ!!」

「なるほど! それなら安心ですね」


 後ろを振り返ると、俺と試験官の話を聞いていたのかあからさまに安心している面々が居た。


「だが、気を抜くなよ!! 今仲間から念話が入ったが、十層のボスが復活しているようだ!! それを俺達で斃す!! 十分後から移動だ、しっかり休んでおけよ!!」


 それに受験者達が返事を返し、各々飲み物や間食用の食べ物を取り出して食べるなり休憩していた。

 それを横目に俺は十層のボスの気配を探る。……いた、十層の中心だ。

 ドーム状の遺跡の中にそのボスはいるようだ。


 ボスをスキルを使って俯瞰視すると、その正体が分かった。

 あの本体から無数に伸びる触手のような蔓に、迷彩柄の体。魔力総量からして奴の種族名は植躁装甲蟲しょくそうそうこうちゅう。A級上位の魔物だ。

 【鑑定】をしてみると、更なる事が分かった。


=====

個体名:レズドラ 性別:オス 年齢:生後4時間 種族:植躁装甲蟲(亜種)

称号:『植物を統べる者』『■と遭遇せし者』

HP:635,205/635,205  MP:828,339/828,339


あらゆる植物を操る装甲蟲の亜種。

攻撃方法は植物の蔓を硬化させて鞭のように操って攻撃する。

弱点は目と装甲の隙間。

=====


 どうやら植躁装甲蟲の亜種だったようだ。亜種だからと言ってそこまで強さが変わる訳ではないが、他の攻撃手段を持っている可能性が高い。注意しなくてはいけないのだ。

 しかもダンジョン中ボス兼、ネームドなので、その力は底上げされているであろう。だとしたらS級に近いのかな。


 S級に近いとなると、この面々で斃せるのか? 試験官三人が参加するのであれば倒すこともできるだろうが、この面々だと少し厳しいかもしれない。

 俺は彼らがC、B級の魔物と戦っている様子を観察していた。皆、C級は一撃で斃せていたようだが、B級となると二撃目を入れる人が半数だった。


 そんなことを考えていると、試験官が声を張り上げた。


「よし!! じゃあ休憩は終了だ!! 今から走ってボス部屋まで向かう!! 皆遅れず付いてくるように!!」


 そう言って試験官は走り始めた。ダンジョンに入った時とは違って、最初からとばしている。そのせいで試験官が踏み込んだ地面が盛り上がっていた。


 俺達もその試験官に続く。するとあっという間にボス部屋に着いた。


「A級ダンジョンの中ボス……」


 誰かがそう呟き息を飲む音が聞こえた。


 そしてこちらに接近する気配が二つ。これは例の試験官だろうから無視する。


「よし、揃ったな!」


 風間試験官は横に着いた試験官二人を確認して、頷く。


「じゃあ行くぞ!! ボス狩りだ!!」

「「「「おう!!!」」」」


 これには俺と洋治も声を上げて、試験官達と共にボス部屋の中に入っていった。

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