第12話 主のダンジョン探索
その後俺達は帰路に着いた。
和也には「今回の戦利品の分配も全て和也でいい」と言って報酬を上げた。すると目を煌めかせてお礼を言っていた。
この後和也は、昼ご飯がまだなのでまたしても牛丼屋にでも寄ってご飯を食べると言っていた。誘ってくれたが、俺は主がまた懲りずにダンジョンに行っているんじゃないかと踏んでいるのでやんわりと断った。
歩道の上をふよふよ漂いながら、主の気配を探る。勿論、東京都に存在するE、D級のダンジョンの中も。
すると見つけた。
はぁ……やっぱりダンジョンの中に潜ってる。昨日と同じE級ダンジョンの中だ。そして二層。
俺はそのダンジョンの中に転移すると、急いで主の所へ向かう。
入り組んだ迷宮のようなダンジョンを高速で移動し、主の後ろ姿を見つけた。
姿を見る限り、傷は負っていないようだ。友人らしき女性も傷は負っていない。
俺は主の周りをふよふよ浮かびながらそう思う。
一先ず安心……かな。だが、なんで昨日怒られたのに懲りずにまた潜っているんだ?
昨今の女性は男から自己防衛ができるように、D級までランクを上げるっていうのは本当だったのかな?
そんなことを考えながら、俺は主の周りに漂った。
主達が十字路に着くと、友人らしき方――
「こっちが三層に続く道みたい」
「わかった」
明奈さんがそう言って右の道を指す。それに頷いて元気よく主が返事をした。
二人とも結構警戒しながら進んでいる。
E級ダンジョンだからって、あまり警戒しない若者が多いらしい。それに比べて主様ときたら本当に偉いねぇ。
曲がって少し歩くと魔物に遭遇した。二人は直ぐに戦闘態勢に入り、短剣を構えた。
現れた魔物はスモールスライムと言う、E級上位の魔物だ。水色がかった半透明の体をしている。弱点は体内にある魔石だ。
スライムと言えば最弱の魔物をイメージするが、ダンジョンのスライムはそうではなかった。最弱のスライムと呼ばれるのはスモールスライムだけ。通常種のスライムはS級だった。
だがそこに居るのはスモールスライム。主達でも十分倒せるはずの魔物だ。
お手並み拝見だな。
《side:透霧明日香》
「行くよ! 明奈!!」
「うん!」
私達は連携を意識しながらスモールスライムに接近する。
私が速さを生かして肉薄すると、スモールスライムは小さい触手を私に向けていくつも伸ばし、後退する。
その触手を短剣で切り裂きながら、私は接近する。だけど、本命は私じゃない。
「今!!」
私に意識を集中させていたスモールスライムは、横から回り込む明奈に気付いていなかった。
そして今、私の叫び声と共に明奈の短剣がスモールスライムに振り下ろされた。触手を躱しながら見ると、あの小さい魔石を見事に真っ二つにしている。流石は明奈!
短剣に付いたスライムの粘液を払いながら明奈に近付くと、丁度スモールスライムが水溜りのようになって黒煙に変わるところだった。
私はリュックサックの中から懐中電灯を出し、辺りを照らす。すると小さな魔石が一つ落ちていた。
「魔石!」
私の横で照らした場所を一緒に探してくれていた明奈が魔石を拾って、見せてくる。
「これで今日三個目? 結構いい感じじゃない?」
「だよねだよね! でも、もうそろそろお昼にしない? お腹空いてきたー」
確かにそうね。今は何時かは分からないけど、お昼はとっくに過ぎていそう。
「分かった。じゃあレジャーシートを広げてお昼にしよっか」
そうして私達は一戦終えた後の食事に移ることにした。
《side:スマホ君(芳我竜真)》
予想以上の腕前でびっくりな俺。
まず主、触手を捌く時の剣扱いが素人とは思えないほど上手かった。主を鑑定してみると【剣術/Lv.1】を持っている事が分かった。
E級探索者でスキル持ちって中々いないからな……主は直ぐにD級に上がりそうだ。
主の友達の方もすごい。彼女は剣術スキルの他に【瞬剣/Lv.1】というスキルも持っているようだった。
瞬剣というのは恐らく、スモールスライムの魔石を真っ二つにしたとき使ったスキルだろう。
名前の通り、瞬く間に対象を剣で斬るスキルだ。レベル1でも相当に強力なスキルである。
お二人とも有望だなぁ。
そう思っていると二人はレジャーシートを広げて、弁当を食べ始めた。
しっかり周りを警戒しているようだが、まだ粗い。
俺は主達の食べている弁当の匂いに釣られた、獣系魔物を念力で
そして主達は食べ終えたのかレジャーシートをしまい、歩き始めた。
そのまま何も危なっかしい場面もなく、三層に降り狩りを続ける主達。
二体だろうが三体だろうが、普通に屠っている。
……主達、探索者の才能あるんじゃね? この間の朝、「私も探索者目指そうかな……」と言っていたのは本気なのかもしれない。
主達の才能なら努力すればB級までは確実に行けるだろう。
そんなことを思っていると主達が立ち止まり、そして引き返し始めた。地上に戻るのだろう。
主達は途中から駆け足になって移動していた。戦利品の換金が楽しみなのだろうか? いやいや、和也と同じ基準で考えちゃだめだ。彼女たちが和也のように金にがめつい訳じゃない筈だ。
地上に着くともう空は夕焼けに染まっていた。
主達は真っ先に仮設更衣室で汗を流し、着替えをした。その後ダンジョンテントに向かって、武器の返却と換金を始めた。
それなりの収入になったらしい、主達はハイタッチして喜んでいた。
その後主達はダンジョン広場を後にして、帰り道の途中で友人と別れたようだった。勿論俺は主についていく。
家に帰った主は、お母さまに挨拶をし、二階に上がって自室のベットに座りスマホをいじり出す。
そう言えば、今日の朝ドアノブ……いや晶は話しかけてこなかったな。またどこかのダンジョンにでも行っていたのだろうか? あっ、もしかしたら昨日言っていた、仲間の所に行っているのかもしれないな。
そうだ、晶の気配を探れば晶の言う仲間とそのいる場所が分かるんじゃないか?
そう思い、俺はまず東京都に【気配探知】を広げる。
う~ん、中々見つからないな。東京にはいないって事なのだろうか? まぁ、探してどうこうするわけじゃないし、今探さなくてもいいか。
そうこうしていると、主はスマホを持って一階に降りて行った。夕食の時間なのだろう。
俺は特に空腹を感じるわけじゃないが、何か食事をとりたい気分なので魂のまま外へ行き、路地裏で芳我竜真に変身する。
何食わぬ顔で路地から出て、適当なファミレスに入る。
店内は夕食時も相まって結構混んでいた。
店員に案内されて席に着いた後、案内してくれた店員からまた声を掛けられた。
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらの呼び出しボタンを押して下さい。……あの、連絡先交換して頂けませんか!!」
店員はスマホを両手に持って差し出すようにして、頭を下げてきた。
連絡先交換?? 注文に必要なのか? でもネットにそんなことは書いてなかったぞ? というか、俺スマホ持ってないんだが。
「すみません、俺、スマホ持ってないんです。なので連絡先交換はちょっと……」
俺は苦笑いしながらそう答える。
「あっ……そうですよね、すみません……」
店員は少し気まずそうな顔をした後、「し、失礼しました!」と言って去っていった。
なんなんだ? 変な店員だったな。
そう思いながら、俺はメニュー表を開く。ハンバーグプレートにご飯が付いたものを頼んで、数分すると届いた。
「おお、美味しそうだ」
俺はそう呟き、ハンバーグをナイフとフォークで一口大に切り取る。そして口に運んだ。
美っ味い!!! 口の中に入れた瞬間、肉汁が弾けて口の中に広がって……! それにお米も! このハンバーグとお米のなんと相性のいいことか。
俺はあっという間に食べ終えると、伝票持ちレジに向かう。
支払いを終えると、俺はほくほく顔でファミレスを後にした。そのまま路地に入って自分の身体をしまい、主の家に戻った。
主の家に戻ると、主はお風呂に入っていたので俺は主のスマホに戻ってネットサーフィンをして暇をつぶす。
そんなことをしていると、念話が入った。
『竜真殿、探索者資格の取得が出来ました。ですので、明日の午前十時にお越しください』
『わかった、わざわざ知らせてくれてありがとう』
『いえいえ。ではこれで』
そう言って念話が切れた。
もう取得できたのか……思った以上に霊能力者の権力は強いのかもしれない。
主はお風呂から出た後、歯磨きをして自室に戻り、スマホで友達にメールをしてから就寝した。
今の時刻は10時20分近く。結構いい時間帯に寝たのではなかろうか。
俺は主が寝た後、やはりネットサーフィンなどして時間をつぶしたたのだった。
翌日。
俺は人型で澄鳴家に来ていた。
もう三度目になるだろうか、この景観を見るのは。流石に慣れた。
俺の顔も覚えられているらしく、屋敷の警備をしている人達は突然囲んでくることはなかった。その代わりに「昨日はすまなかった」という言葉と共に歓迎された。
昨日は謝罪するとき、敬語だったが今は敬語ではなかった。それは恐らく自分達よりも目上の正道さんや真之介さんがいないからだろう。
「当主様、真之介様がお待ちだ」
そう言って案内されたのはいつもの大広間。そこには正道さんに未羽さん、真之介さんとその他大勢の従者? の方々が集まっていた。
俺は定位置の座布団に招かれ、座る。
「さて、ようこそお越し下さった、竜真殿。こちらが、探索者カードです」
そう言って渡されたのは、正真正銘の探索者カードだった。
それを受け取り、まじまじとカードを見つめる。確かにそこには芳我竜真の文字があった。
あれ? これって俺が名乗らなかったら勝手に名前決められてたとかあり得そう。
カードとその人物の照合方法は、免許証のように顔写真が貼ってありそれと顔を見比べて判別するのではなく、カードの一部、四角の銀色の金属にその人物の魔力を登録して、それとその人物の魔力とカードに登録された魔力を照らし合わせて、本人かどうかを確かめるらしい。
だが、このカードには魔力が登録されていない様に思う。それを指摘すると正道さんが。
「はい、よくお気づきになられましたね。その魔力を登録する為に私達と共に、ダンジョン省本部に向かってほしいのです」
「え……マジですか」
「はい」
「……分かりました」
という事で、俺がダンジョン省本部に行くことが決まった。
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