第5話 霊能力者
それからも順調に魔物を倒し続けて20分。和也に疲労の色が見え始めた。やたらと息を切らしている。
『大丈夫か? 和也』
「はぁ……大丈夫じゃないかも……疲れた」
和也はそう言って洞窟の壁に体を預けるとステータスを開く。
そのステータスは可視化状態にしたのか俺にも見えた。
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個体名:
称号:『■と邂逅せし者』
Lv.21
HP:56/370
MP:131/180
筋力:31
頑丈:24
俊敏:30
体力:37
魔力:18
精神力:71
知力:27
運:29
SKILL 【双剣術/Lv.1】【念力/Lv.2】
装備:《鉄のナイフ》×2
=====
『おお、レベル上がってるじゃないか。おめでとう』
「これでレベルが上がったのは一週間ぶりか……」
和也は達成感の滲む顔で、少し微笑んだ。
顔は良いだけあって、儚いイケメンに見えるな。なんか腹立つ。
『そうなのか。……って、HP結構削られてねぇか!? 和也、そんなに攻撃食らってたっけ?』
「……いや、これは疲労度だよ。魂さん」
『そうか、疲労度……。疲労度でこんなに削れるものなんだな。よしちょっと、待ってろ――《回復魔法》×6』
俺がそう唱えると、和也の周りを囲むように緑色の魔法陣が現れた。そして魔法陣は回転しながら薄っすらと輝き始め、発動する。
「なんだこれ……あったかい」
和也の身体のあちこちにあったかすり傷が全て完治していく。それに気付いた和也は目を丸くしてその様子を見入っていた。
そして最後の傷が完治し、和也はステータスに目を向ける。
=====
HP:370/370
=====
和也はHPの数値を見て再度目を丸くした。そして俺に目を向ける。
『疲労は回復したようだな。……あれからもう一時間は経過したようだし、もうそろそろ帰ろう』
「そうだね。ありがとう」
和也はそうお礼を言うと、立ち上がり駆け足で道を戻り始めた。そのスピードは行きの比ではなかった。
帰路の接敵は無かった。なぜなら先回りして進行方向にいる敵を念力で圧殺していたからだ。
だが魔石は拾わなかった。もう十分魔石を拾えているからな。その数、14個。これ以上取るとまずい、マジで和也の顔覚えられる。
もちろん、先々に居る魔物を殺している事は伝えていない。魔石を絶対拾おうとするからだ。
途中「なんか全然魔物いないね?」と聞いてきたが、『確かにな』と誤魔化した。
和也はその後更衣室に直行し、ナイフを鞄の中にしまい、鞄を担いで外へ出た。
そして現在、俺達はテント売却窓口で換金していた。
「ではこちらの用紙にサインをお願いします」
「はい」
和也は用紙にサインをして封筒を受け取る。そして会釈をしてその場を離れた。
広場入り口にいる警察官に会釈をして、広場を抜ける。そして近場の公園に向かった。
その途中で和也が念話で話しかけてくる。
『本当に半々でいいんだよね?』
『戦利品の分配の話か? その件だが……今回は全額やる』
『え? マジで? ……っしゃあああ!!』
和也は念話で叫びつつ、胸の前で小さくガッツポーズする。
『そのお金で胸当てとか買うといい。今のお前は防御面で心配がある』
『わかった!』
『……この辺で俺は帰る。何かあったら念話で話してくれ。じゃあな、次もよろしく頼む』
『……ああ! これからもよろしく!』
俺達は公園に着く前に歩道で別れた。和也は進行方向に。俺は振り返り、今来た道を戻り始めた。そちらの方角に主の高校があるのだ。
そんな俺を物陰に隠れもせず見ている者がいた。俺に気付かれていないとでも思っているのだろうか。でも高校に着くまでに撒かないとな。
そいつの横を何食わぬ顔で通ろうとすると、そいつの何かの気配が増した。
魂が警鐘を鳴らしている。何か攻撃を仕掛けてくるつもりだ。それも実体のない俺に有効な。
「《
俺はそう呟いたのを聞き逃さなかった。だが、何も起こった気配がない。
俺は感知・視認系のスキルを全て使用した。すると見えた。
俺の周りに幾重もの鎖が、今にも俺を捕まえようと迫ってきている。しかもこの鎖は実体がない。つまり物理攻撃は無効化される。魔法も同様だ。
技の名前からして、恐らく俺を捕まえるものだろう。そして、この感じには覚えがある。前世の記憶が教えてくれた、これは霊能力だと。
ならば霊能力は霊能力で対処するまで!
一時瞬間発動【霊槍】!
俺が心の中でそう唱えると、目の前に薄緑に輝く槍が現れ、鎖を散り散りに砕き切っていく。
その間、約0.001秒。
術者の人間には見えないであろう速度だ。
術者の娘が目を剥いてこちらを見てくる。まさか自分の術が破られると思っていなかったのだろう。
俺はさも何もありませんでした、という顔で素通りしようとする。
すると俺の魂に念話の経路が開かれた感じがした。
ほう、あの娘念話が使えるのか。そう思った瞬間、念話で声が掛かる。
『待ちなさいっ! あの男に何を吹き込んでいたの!! この大悪霊!』
『へっ? 悪霊? 俺の事か?』
思わず念話に声が出た。振り返ると霊能力者の娘が速足で追いかけて来ていた。
何故俺が悪霊? 悪いことなんてしていないと思うが。あっ、ダンジョンに無断で入るとか少しの心当たりはあるけど。
『そうっ、あの男を誑かして何をするつもりだったのと聞いているの!!』
『いや、特に何も? 君に教える筋合いはないんで。それじゃ』
『あっ、ちょっと! ……《
『それは効かないって』
俺はまた【霊槍】を発動して鎖を砕く。
『——っ! 何をしたの!!』
『騒がしい娘だな』
『何をしたって聞いているのっ!!』
『霊槍を使ったんだよ』
『なっ――それは王霊級の……』
『ん? 王霊級? 気になる単語が出たな』
察するに、恐らく霊術の級だろうか? この世界ではそういう言い方をするんだな。この霊槍は前世の世界では確か――最上級霊術だったか。
『……教えないよ。貴方の目的を教えてくれたら話すけど』
『そうか、じゃあいい』
『待ちなさいって!! お願いだから……』
急に消え入りそうな声でお願いする霊能力者の娘。
俺は心優しいスマホだ。そこまで言われて無視するわけにはいかない。
俺は振り返り、立ち止まった娘の元に近寄る。
『もう一度聞く、何故俺が悪霊だと?』
『それは……あなたがこの世の者とは思えないオーラを持っていたから……』
この世の者とは思えない……? そりゃ前世違う世界の住人ですもん。
『オーラ? 俺の存在感の話か?』
『簡単に言うとそう……普通善良な霊や魂はそこまでのオーラは持っていないもの』
『それだけで決めつけていたのか? 現に俺は悪霊じゃないぞ?』
『それは分からないじゃない! じゃあ悪霊じゃない事を証明して見せて』
結構な無茶ぶりだ。
『えぇ……。そもそも俺は転生者だからこの世界の常識に疎いんだ。いきなり証明とか言われても』
『え……あなた転生者なの……?』
『ああ』
『……』
急に押し黙る霊能力者の娘。
転生者と聞いて顔色変えたな。言っちゃマズかっただろうか。
『……今、迎えを頼んだ。私と一緒に来て』
『え、嫌です。家に帰ります』
『……お願い』
めっちゃうるうるした目でこっち見てくるやん。うっ……俺は負けんぞ。
『霊でも食べれるお菓子あげるから……』
『行きます(即答)』
『……え?』
『行きます(断固)』
という事で俺は黒塗りの高級車の中に――魂だと車貫通するので、魂を実体化させて――乗り込み、霊能力者の娘に鷲掴みされながら話を聞いていた。
というか妙に力が籠っているのは気のせいだろうか? 少し痛いのだが。
どうやら霊能力者の娘は
そして未羽という少女が「一緒に来て」といった理由は、家に着いてから話すそうだ。
若干不穏な感じがするなと思いながらも、まだ見ぬお菓子に思いを馳せる。
「ねえ、幽霊さん――いや、魂さんは名前とかあるの?」
未羽が思い出したかのように話しかけてきた。
前世の名前か……記憶から引っ張り出そうにも、靄のような物が掛かっていて全く思い出せない。しいて俺を呼ぶときの言葉は「魂さん」だな。
『いや、魂さんとしか呼ばれたことはないな』
「そう……じゃあ前世の名前は?」
『悪いが、前世の記憶は殆ど持ち合わせてはいないんだ。覚えているのは前世の戦いの知識だけだ』
「ふーん。聞くけど、転生者って嘘じゃないよね?」
『嘘じゃないな』
「……まぁ、家で調べれば全て分かる。嘘だったら一家総出で祓う」
『おお、怖い怖い』
俺がおどけた様にそう言うと、未羽は少し頬を膨らませた顔になった。それを確認してか運転席の人間から俺に向かって微弱の殺気が飛ぶ。
霊力を高めていない所を見ると、戦う気はないのだろう。
それから澄鳴家に着くまで何度か会話があった。
「魂さんは霊槍の他に何か霊術は使える?」
『う~ん、大抵のものは使えるっぽい?』
「なんで疑問形」
『試す機会がなかったからだな』
「ふーん。……そういえば、魂さんからは怨気が感じない」
『怨気ってなんだ?』
「怨霊や悪霊が持ってる、怨念の力のこと。それが魂さんからは全く感じない。本当に悪霊じゃない……かも?」
『そりゃな、俺は悪霊じゃない』
「信じられない」
この時やっと未羽は俺を離してくれた。魂の形が変わったらどうしてくれるんだよ。まぁ、変わることはないだろうけど。
「お嬢様、もうすぐ到着です」
「分かった」
運転手の男装女がそう教えてくれる。
窓の外を見ると、いつの間にか大分山の方まで来ていた。木々の間から立派な屋敷のような物が見えている。あれが、未羽の実家だろうか? 主の住む家の土地の五、六倍はあるかもしれない。
黒塗りの高級車は速度を落とし、屋敷の門の中に入っていく。
『え、未羽さんの家すごくね?』
「でしょ」
ふふん、と鼻をならして胸を張る未羽さん。凄いドヤ顔だ。
そんな横顔を眺めていると、車が停まる。男装女が運転席から出て、未羽さん側のドアを開ける。
未羽さんが先に出て、その後に俺が続く。
すると玄関の方に十数人立っている見える。お出迎えだろうか?
近付くと真ん中に立っていたイケオジが深々と頭を下げ、話しかけてきた。
「ようこそ御出で下さいました。私は澄鳴
正道という男は俺を見て名乗り、怪しく微笑んだような気がした。
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