第3話 初の委託換金
『取引内容を決めた。三つある』
「は、はい。三つ……」
真剣な眼差しで俺をじっと見てくる。
『一つ、今回俺の持っている素材や魔石を換金、または装備品に仕立てて渡してくれないか。そして換金する際はダンジョンテントの所で換金するのではなく、ダンジョン省の支部などで換金してくれ』
「何でですか?」
『俺の持っている素材や魔石の中に、このダンジョンでは取れないものがあるかもしれないからだ』
「なるほど」
『そして俺が出した中に高ランクの素材が混じっていると換金する際、職員がお前にあらぬ疑いを掛けるかもしれない。だからなるべく和也のランクに合わせた素材を換金してもらうつもりだが、俺も知識が浅い。出す素材の中に高ランクの物が混ざっていたら遠慮なく言ってくれ』
「分かりました」
和也はうんうんと頷いて話を聞いてくれる。一瞬、高ランクの素材と聞いて目を輝かせていたが、まぁ……しょうがないだろう。
和也にとって素材は、超激レアドロップ品だろうからな。
『そして二つ目。これはさっきのものとほとんど同じ内容だが、これからも実体のない俺に代って、素材や魔石を換金又は装備品に仕立ててくれ。さっきは言い忘れたが、もちろん手数料は払う』
「分かりました!! てか俺に不利な条件じゃ全然ないじゃないですか!」
『そりゃあな。これからも長い付き合いになる気がするんだ。不利な条件を叩きつけておいて、働かせるなんて俺の意に反する』
「……魂さん、あなたは神ですか?」
『いや、全然一般魂ですけど』
「……そうですか」
手数料と聞いて浮かれている和也だ。俺の事を神だなんて言ってくる。本物の神様に失礼だろうが。
『三つ目、これからは俺と一緒にダンジョンに潜ってもらうことにする。時間や日時のすり合わせは念話で行う。これから念話のスキルを取得してもらうぞ』
「えぇ!?」
『ん? そんなに驚くほどの事でもないだろう。さあ、やるぞ』
「わ、分かりました……」
『では、いま俺が話しているのが念話だ。お前の魂に直接思念を伝えている。……自分の魂を意識してそこから念話の経路口を探すんだ。見つけたらそこに思念を流し込むんだ』
「……」
和也は胸に手を当て、念話の経路口を探している。
ほぼ魂の俺からしたら経路口を探すのは簡単だったが、人間の場合はどうだろう?
和也の魂を見てみると、あまり成長していないのが分かる。一回も転生していないのだろう。
これに関してはドアノブに教えてもらった。大雑把に言えば、転生者の魂は大きくもう既に魂として育ち切っているので大きく、器――生物の体――から生まれる転生を一回も経ていない魂は魂として育っていないので小さい。
和也と俺の魂を比較するのは少し失礼かもしれないが、和也はピンポン玉くらいの大きさで俺はバスケットボール大だ。
この世界の長寿の方々の魂も俺と同じ大きさなことから、魂の育ちの上限はバスケットボール大なのだろう。
そう言えば、何故ドアノブはこんなことを知っているのだろう? ふむ、アイツの謎が深まるばかりだ。
さて、人間の和也にいきなり念話の経路口を探るのは酷だったかもしれない。他にもすり合わせの方法はあるのでそれを――
『できて……ますか?』
『……マジか。よくできたな、順応力が異常だ』
『……褒めてますよね?』
『あぁ』
俺は和也にステータスを見せるように言う。するとそこには、しっかり【念話/Lv.1】の文字が。
それに和也は立ち上がって喜んでいた。
『じゃあ次は、換金する物の選別をしよう。俺がこの場に出していくから、和也のランクに合わないアイテムがあったら教えてくれ』
『待ってました! でもどこから出すんですか?』
『見ていろ』
俺は前世の記憶からか感覚的に使えたスキル……? いや魔法か。の一つを発動する。
すると俺達の前に暗黒が口を開いた。
「っ!?」
和也が驚いている。確かドアノブと一緒にダンジョンに行った時も驚かれた。「お前だけ、そんな便利なもの使えるとか裏山~」とか言ってた気がする。
「ななななんですか、コレ!?」
『異空間収納だ。これが使えると中々便利だぞ』
「いやいやいや、知ってますけども……この異空間収納って死ぬほど魔力吸いますよね? なんで平然と使ってるんですか!?」
『え、そうなのか?』
「逆になんで知らないんですか!?」
え、これそんなに魔力使うの? ダンジョンに狩りくるときにはよく使ってるけど、魔力切れとか起こしたことないし……そもそも魂の状態で魔力切れとか起こるのか?
『ま、まぁそれは置いといて、アイテムの選別をするぞ』
「あ、そうでした……」
俺は異空間収納の中から、E級、D級のアイテムを出す。異空間収納内は夜の暇な時間を使って整理整頓している。だから俺の知識が間違っていなければ、ちゃんとE、D級のアイテムが出ているはずだ。
それを見た和也は「ふぉおおおおおお!」と変な声を出していた。
「魔石だ! 素材だ! 宝の山だぁあああああ!!」
めっちゃ興奮している。
魔石などはコトッカツッと子気味いい音を出して、一つずつ地面に落ちていく。
『興奮するのはいいが、ちゃんと確認してくれよ』
「分かってますって!」
本当にわかっているのだろうか?
俺は大体魔石、素材合わせて約30個ほど出したところで異空間収納を閉じる。すると「あれ?」と声を出して、和也がこっちを見てきた。
「これでもう終わりですか?」
『いや、まだまだあるぞ』
「え、じゃあなんで……」
『一気に換金しすぎると、盗人だと勘違いされるぞ』
「あぁ……おっしゃる通りですね」
『あ、言い忘れていたが、敬語は不要だぞ。俺達は主従関係じゃない、取引相手だ。なんなら友達でもいい』
「敬語は不要だと言われましても……魂さんは俺の命の恩人だし、敬うべき相手なので……で、でもそこまで言うなら敬語はやめる」
『それでいい。これから俺達は友達だ』
和也はなんだかんだ言って、俺が友達というと嬉しそうな顔をした。なんだこいつ、ツンデレか? 男のツンデレはいらないぞ。
『おっと、入れ物を忘れていた。流石に手で持っていくのは危ういだろう。そこでこれを使え』
俺が異空間収納から取り出したのは、巾着袋より一回りほど大きな麻袋だった。
これはこっそりB級ダンジョンに潜った時に、魔物からドロップしたやつである。
確か、【衝撃吸収】や【火炎耐性】【凍結耐性】等と言った効果が付与された物だったはずである。
それを和也に渡すと、アイテムを入れように指示する。
全て入れ終わったのを見て、俺は話し始めた。
『さて、じゃあ換金をお願いするとしようか。この中にDランク以上の魔石や素材は無かったか?』
「なかったよ。これで大丈夫だと思う」
『よし、じゃあこのダンジョンを出て協会支部に行こうか』
「おーけぃ!」
和也が立ち上がると同時に周りの隠蔽魔法を解く。するとすぐ近くにいたであろう、ゴブリンが単体でナイフを振り上げ駆け寄ってくる。
「うわっ、ゴブ――」
――グチャ
「ひっ」
ゴブリンが捻り潰されたように地面にへばりつく。それを見て和也は顔面蒼白だ。
「も、もしかして、魂さんが殺りました?」
『あぁ、念力で握り潰した』
「うわ、えぐぅ。あ、魔石探さないと」
和也は引き気味に驚いた後、呟いてゴブリンが霧散した辺りの地面を探し始めた。
こんなに薄暗いとやっぱり見つけ辛そうだ。
俺は念力を使い、先程と同様に魔石を転がす。すると和也はシュパッとした動きで魔石を捕まえた。
「あった! 魔石だ! ……もしかして、さっきのゴブリン二体の時も魔石を転がしてくれたりしてた?」
『いぇす』
「……ありがとう」
『感謝されるほどの事はしていない。……お前は今度からダンジョンに行く時は懐中電灯を持っていくべきだと俺は思う』
「そうだね」
『その魔石はお前のものだ。換金するなり好きにすると良い』
「……本当にありがとう!!」
和也のお礼に俺は無言で答える。
俺がふよふよ進み始めると、それに気付いた和也がニヤニヤ顔を止め、少し小走りで追いついてきた。
そのまま何のアクションもなくダンジョン入り口まで戻ってくる。人の出入りが激しい。和也との会話は避けた方がいいだろう。だが念話なら大丈夫だ。
『先に言うが念話で話してくれ。和也がこのダンジョンで手に入れた戦利品は、ここでは売らない方がいいだろう。なぜなら、支部で売る際に言い訳を吐けなくなるかもしれないからだ。怪しまれる可能性すらある』
『言い訳がつけなくなるって……どうして?』
『テントの売却だろうと、支部の売却だろうと省の記録に残るからだ。ここで売って、支部で売ると職員は気付くはずだ。あれ? 今日中に既に一度売却しているなと。普通、別々の場所で素材を売る必要はない。纏めて一ヶ所で売ってしまえばいい。それが、二ヶ所で売却されていたら職員は怪しく思うだろう。それを回避するためにここでは売らない方がいい。分かったか?』
『元々、支部で売るつもりだったからね。分かったよ』
和也はテントから顔を覗かせた職員に会釈をしながら、その場を後にした。
それから約一時間後、俺達はダンジョン省八王子支部に来ていた。
ダンジョンから支部までそう遠く離れていないが、彼は徒歩だったのでそれなりの時間を要する結果となったのだ。
目の前にそびえたつビルは見るもの全てに威圧感を与えるような、圧倒的な近代建築だった。その一棟丸々、ダンジョン省の支部だ。
和也は何回か来た事あるのだろうか? このビルを前にして、割と平然としている。ところが俺はなんだかんだ、支部には来たことはなかったので、その近代的な建築に圧倒されている。
『さぁ、入りましょ。こんな入り口付近で止まってると周りの人に迷惑ですし』
和也が真面にそう話してくる。俺はそれに『あ、あぁ』と返事をし協会の中に入っていった。
支部一階内はモダン風な印象で、所々に観葉植物が飾ってある。
それらを横目に俺達は、売却窓口へ向かった。
売却窓口は三つあり、そのどれもが三、四人ほど並んでいる。
真昼間の正午を過ぎたあたりの時間なのに盛況なことだと思う。
和也は比較的、処理の速そうな窓口を選び並んだ。そして待つこと約十分後。
「いらっしゃいませ、探索者カードはお持ちですか?」
「はい」
和也は胸ポケットに入れていた探索者カードを取り、受付嬢に渡した。
「拝見致しました。篠原和也様ですね……では、買取をご希望される物をこちらの方にお乗せ下さい」
受付嬢が指示した方には、大きなカウンターテーブルがあった。それは窓口と繋がっており、窓口同士の距離が結構離れているのはこれが原因だ。
和也は巾着袋からざらざらっと、魔石やらドロップアイテムを出した。
それを見て受付嬢は目を丸くする。
「おひとりでこれを? 相当頑張られたのですね」
そこで和也は言い訳の為の嘘を吐く。
「いえ、これは仲間と一緒に集めたものです。俺は換金役を任されたんですよ」
「そうでしたか、承知いたしました」
納得顔で受付嬢は頷くと、魔石やドロップアイテムを手袋をはめた手で丁寧に機械の中に入れていく。
おお、あれがネットで話に聞く鑑定装置か。確か、量産型の鑑定魔道具なんだっけ? それでも相当な精度の鑑定ができるらしい。ネットによると、鑑定スキルLv.8程のものらしいのだ。
俺は上からゆらゆらと鑑定されていく様子を見守る。その途中で受付嬢が口を開いた。
「篠原様のお受け取り方法は、お振り込みとなっておりますが、そのままで宜しかったでしょうか?」
「あーいえ、現金でお願いします」
「畏まりました」
そんな確認のやり取りが終わり、俺はまた鑑定装置に目を向ける。
鑑定が終わると、奥にあった印刷機が動き出した。
受付嬢は印刷し終わるのを見計らって、奥の部屋に引っ込んでいった。
すると数分して奥の部屋から受付嬢が封筒と紙をもって、戻ってきた。
「こちらが今回の明細書と、現金になります」
そう言って、受付嬢は現金を取り出すと紙幣カウンターに入れた。
するとカウンター作動し、モニターに金額が映し出される。
『二十九万!?』
和也は声を抑え、念話で驚く。
モニターに表示されたのは、二十九万三千円。そして封筒に入っていた端数の九百四十一円。それを受付嬢が読み上げた。
「こちらでよろしければ、こちらの用紙にサインか判子をお願いし致します」
「は、はい」
和也は緊張した面持ちで用紙にサインをした。
「はい、確かに。ではこちらを」
受付嬢はお客様控えの明細書と封筒を渡してくる。和也はそれを受け取り、会釈をしてこの場を去った。
―――――――――――――――――――
売却品の明細
G級魔石×13 14,732円
F級魔石×9 29,153円
ゴブリンのナイフ×2 30,000円
ビッグラットの肉×1 2,056円
ビッグマンティスの鎌×3 105,000円
リトルベアの爪×2 113,000円
―――――――――――――――――――
合計 293,941円
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