第八夜 デパート・ウィンドウ・ショッピング

 気が付くと、どこかのデパートの中にいた。

 まるで高級ホテルを思わせるような大きな場所の内装には、天井から釣り下がった弱い直接照明と壁を利用した間接照明はついているが、人はいない。売り場に仕切りはなく、自分の視線ほどの高さの棚が整然と置かれている。その棚は段が二つあり、そのほとんどに反物のような布が巻かれた状態で三角形に積み上げられていた。

 あちこちの壁や棚の上に飾り扇も置かれていることがあるので、ここはどうも和風の何かを売っている場所らしいと頭の片隅で考えつつも、自分はあてもなく奥へと歩みを進めた。

 進んでいると、売り場の奥まで来た。その壁際には一つの棚があった。その幅は他の棚と比べて二倍ほどもあった。また、段は二段ではなく、それらに加えて床のすぐ上にもう一枚板があるように感じた。というのは、その板があると思われる場所に、ある建物とその周辺の風景を再現した、一畳ほどもあるジオラマが置かれていたからだ。自分はそのジオラマに見覚えがある……というレベルではない既視感があった。それは自分の通っていた小学校だったのである。人は一人もいなかったが、建物や風景は細かく再現されていた。

 どうしてこんなものがここにあるのだろうか。そんな疑問を抱きつつも、自分はなんとなくジオラマに手を伸ばそうとする。しかしその時、それはガラスケースに入っており、仮に伸ばしたとしても全く届かないことに気づいた。自分は二、三回まばたきをし、ほんの少し動きを止めた。そして、その手をガラスケースに押し当て、顔をケースに近づける。もう訪れることのない学びは、静かに懐かしさをただよわせていた。

 ジオラマを見続けること数分、ふと右側に上の階へと続くらしいエスカレーターがあることに気づいた。自分は後ろ髪をひかれつつも、上の階へと足を進めた。

 それからのことは、あまりよく覚えていない。起きた時覚えていたのは、静かにデパートの中を見て回り、楽しんでいたことだけであった。

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