第七夜 クリアー・ミュージアム

 気づくと、建物の中にいた。

 コンクリートはむき出しで、天井もコンクリート製。床にはよく建物に敷かれている短い起毛のスクエアマット。無機質だと感じなかったのは、おそらく光が通っていたからだと思う。天井から吊り下がっているライトも影響しているのだろうが、何より大きな光を放っていたのは窓。壁のほとんどを占めているそれは、膨大な光を内部に投射しているが、驚くべきは対面にも同様の構造があること。対面した一対の窓から入る日光は、自分たちに過剰なほどの明るさを提供していた。

 そんな明るい場所で、自分は階段の踊り場……を、もっと広くしたようなところに立っていた。

 そこはモールにあるような雰囲気の、自分が寝転がってもなお余裕がある大きさの正方形をした場所だった。自分が最初に向いていた方向には例の窓があったが、自分から見て左手にあった角を挟むように上りと下りの階段が一つずつ設置されていた。左前には下りの階段、左後ろには上りの階段。両方とも、鉄製の手すりを持っており、その床には踊り場と同じく短い起毛の紺色マットが敷かれている。また、ステップの間には隙間があり、この建物がより日光を通すのに一役買っていた。

 自分はそんな建物の雰囲気に圧倒され、しばらく立ち尽くしていた後、直感的にここを美術館だと思った。

 首を左へ回し、階段の上を見ていると、ほかの人影が自分から離れた方向に向かうのが見えた。人もあまりいないうえ、目印や看板もなかったので、自分はとりあえずその人影と同じ方向に向かうことにした。


 ◇ ◇ ◇


 歩いていくうち、あちこちである人物の肖像画のようなものの複製画が飾られていることに気づいた。

 その人物は老齢の男であった。あごには白く短いひげをたくわえており、銀縁の眼鏡をかけている。絵は胸の部分から上しかなかったが、白いシャツに赤色のチョッキを着ているように見えた。その瞳は優しい光をたたえており、恐ろしげな印象は受けなかった。そして、その肖像画が多く吊り下げられたり、壁に貼られたりしていることから、どうもこの建物はその人物に焦点を当てて展示を行っているらしいことにも同時に気づいた。

 すれ違う人は少なく、どうもこの建物にいる人はまばらであるようなので、人のいない手近な展示物に近づいてみる。美術館によくある大きなガラスを隔てて向こうにあったそれは見たところ、典型的な形をした黄土色のツボのようなものであった。

 なんとなく自分は

「この人物は芸術家なのだな」

 と考察した。


 ◇ ◇ ◇


 それからも自分は建物の展示を見て回った。中には、男の半生を文章にした展示もあった。

 そのうち、なんだか通路が異常に狭くなっているように感じてきた。見ると、確かに通路は狭くなっている。いるのだが、先ほどまでいた空間と違い、壁が高くなって、天井まで続いているために狭く感じることに気づいた。その先からは光があふれてきているので、足早に向かってみると、最初にいたような明るい場所に出た。

 違うのは足場の形。右手方向に、人二人がぎりぎり通れる広さを保って続いている。それ以外は最初に見たようなもので構成されていた。

 大窓から入ってくる日光をまぶしいと感じつつも、通路に沿って進んでみると、先には下りで、途中で右に直角に折れている階段がある。その途中にも展示があったので、時折立ち止まって読みながら進んでいくと、やや狭苦しい階段を抜けたところで広い空間に出た。

 そこでは、自分のいる階段は丁字型になっており、自分から見て右手にはさらに下る階段、対面には上る階段がある。さらに下る階段は大広間のような場所に続いている。広間はやはりまばらではあるが、今まで見たどこよりも多くの人がいた。そして左側には、最初にあったような大窓があり、やはり訪れる人々に明るさを提供していた。

 その後も、自分がこの建物を楽しんでいるうち、目が覚めた。

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