第16話 好感度最低

目を開けると、そこにはおびただしい数の魔物がひしめいていた。


俺の前方には、魔界のゲート。

右手の魔法紋は、禍々しい光を放っている。


そして、シオンが血だらけになりながら、必死で魔物と戦い続けている。


ザビルとカエデの姿はない。

どうやら、逃げられしまったようだ。


最悪だ。


まさか、こんな事になるなんて。

この、魔法紋が危険だと分かっていたのに。


後悔している暇はない。

そんな事より、どうにかしてゲートを、閉じなければ。


俺は、右手の魔力供給を途絶えさせようと、必死に魔力を、操作した。


徐々に、ゲートが閉ざされていく。

ゲホッと、咳き込むと吐血した。

冷や汗を拭いながら、なんとかゲートを閉じる事に成功した。


早く魔物を一掃しなければ、シオンが主人公が俺のせいで、死んでしまう。


乱れる呼吸を抑え、自分に出来る最大火力の魔法を紡ごうとした時、世界が凍りついた。


比喩でも何でもなく、本当に凍りついたのだ。

魔物達も、氷像になっている。



「ま、魔法騎士団だ・・・本当に、来てくれた。」


シオンの呟きが、音をなくした空間に、やけに大きく響いた。


「魔法騎士団・・・・?」


「レイアス・ブラック。これは、貴様のせいなのか?」


呆然としていると、隣から冷徹な声が聞こえた。


いつの間に隣にいたのか。


見上げると、そこにはルシルがいた。


「お、俺は、そんなつもりは・・・」


以前あった時も、冷たい目で見られたが、その非ではない程の、凍てついた眼差し。


俺のせいではないと、言いきれないか。

いや、確実に俺のせいだろう。

俺の意志ではないだけで・・・

自分の罪を認めようとした、その時・・・


「レイアスおじさんは、魔王の手下に操られただけだ!」


一番の被害を、受けたはずのシオンが、俺の事をかばってくれた。


「シオンと言ったか、だが、状況を見れば、この男が魔物の召還をしたようだが。」


「違う!レイアスは、僕を助けてくれた、彼は悪くない!」


「本当にそうか?ほら、見てみろこの禍々しい紋章を」


そう言うと、ルシルは俺の右手を取った。


「これは、悪魔との契約の証。悪魔と契約した者が、魔王の仲間ではないと?」


「っ!!!!レイアスおじさん、違うよね?」


焦ったように言うシオン。


・・・こんな事になったのは、全て俺が未熟なせいだ。

だけど、絶対に魔王の見方ではない。


「俺は、魔王の手下などではない!誓って違う!この魔法紋は、無理矢理付けられた呪いのようなものだ!」


「信じられないな。そんな戯れ言で、言い逃れ出来るとでも?」


「信じて貰えないのは、承知のうえだ。だが、本当に俺は違うんだ。」


ルシルは、レイアスに元々嫌悪感を抱いていたようだし、信じて貰うのは難しいかもしれない。


「僕は、レイアスおじさんの事を信じるよ。

だって、僕の命を必死に助けてくれた、あの姿に嘘はなかったから。」


俺は、思わず涙ぐんだ。

シオン、なんて優しいんだ。

俺のせいで、カエデは連れさらわれてしまったのに。

彼女は、絶対に救いだしてみせる。


俺は、シオンの方をチラリと見た。


彼は覚悟を決めた顔をして、ルシルに向き直り言った。


「ルシルさん。それよりも、これは本当に聖剣ですか?」


シオンは、ずっと握りしめていた聖剣をルシルに掲げて見せた。


「!!!!!これは!お前が抜いたのか?」


「僕が、抜きました。」


「直ちに、国王様に報告を。教会にも、連絡を取ってくれ。」


ルシルは、慌てた様子で、部下に指示を出している。

シオンを洞窟の外へと促し、ルシル自身も、そのまま出ていくようだ。


どうやら、シオンに助けられたようだ。

ほっと、息を付いたとき、ルシルが半分だけ振り向きながら言った。


「レイアス・ブラック。貴様の事は、国王に報告しておく。事が落ち着いたら、取り調べがあるだろう。それまで、自宅にて軟禁とする。せいぜい、言い訳を考えておくんだな」


・・・見逃してはくれないよね。

俺は、なんとしてでも死にたくない。

これから、どうしよう。





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