第14話 sideシオン

レイアス・ブラック、彼はそう名乗った。


始め、彼を見つけたとき、真っ黒な死神みたいな容貌に、絶対悪い奴だと思った。


軽い調子で声を掛けたが、何時でも剣を取れるようにと、緊張していた。

魔王の手先かもしれない。

よく見ると、村の周囲に何かを一心不乱に埋めている。


話を聞くと、この村を守る結界をはるという。

いくら、魔石の力を借りるとはいえ、かなりの広範囲になる。

そんな、魔法を一人で使える魔法使いなんて、王都にも数える程しかいない。

目の前のこの骸骨みたいな男に、そんな事が本当にできるのか?


やっぱり、怪しいと暫く監視する事にした。

村に害を成すようなら、切り殺す事も厭わない。

そんなつもりで、見ていると、結界をはる準備が終わったようだ。


レイアスは、集中を高め、呪文を唱え始めた。

確かに、その魔法には邪悪さを感じない。

魔法に詳しくない僕でも、警戒するような物では無いことは分かった。

そのまま見ていると、なんとレイアスの背中に漆黒の翼が生えてきた。

バサッと羽ばたくそれに、言葉を失った。


まるで、堕天使のような見た目だ。

余りにも似合わないその翼に、思わず笑ってしまった。


レイアスは、少し恥ずかしそうに、赤面しながら、平静を装っている。


なんだ、このおじさん面白いじゃんと、僕は考えを改めた。


そう思うと、だんだん骸骨みたいな容姿にも親しみを感じるから不思議だ。





面白いおじさんレイアスは、やる事があると言って、行ってしまった。

レイアスのいう通り、最近の魔物達はどこか今までとは違う。

僕は、早く帰る事にする。

母さんと父さんに村中央の避難所に行こうと伝えるためだ。

僕の住んでる所は、レイアスの結界ギリギリの村外れだ。


流石に、危ない気がする。



家にたどり着くと、父さんが丁度帰ってきた。

話を伝えると、一度村長に話を聞きに行く事になった。

村長の所に行って、本当に危なそうだったら、すぐに避難する。


・・・その時は、あんな事になるなんて、思いもしなかった。


夜遅く、父さんが出掛けて少したった頃に、冒険者を名乗る男がやってきた、男にカエデの居場所を教えるように、言われたが、母さんは教えなかった。

男は、レイアスの、護衛をしている冒険者で、ザビルと名乗った。

レイアスに頼まれたと言っていたが、母さんはレイアスの事も、ザビルの事も信用していなかった。

俺は、昨日レイアスと話をしていたから、教えてあげれば良いのに、と軽い気持ちで思っていた。


暫く、押し問答していたようだが、急に母さんの悲鳴が聞こえた。

驚いた僕は、急いで玄関に駆けつけた。


母さんは、血の海の中に倒れていた、ザビルの持つ短刀は、血に濡れて、そこから血の雫がしたたる。


「うわぁぁぁ!母さん!」


僕は、母さんに駆け寄った。

まだ微かに息がある。


「正直に、答えていれば、こんなことにならなかったのになぁ。強情な女だ。」


ザビルるは、そう呟くと、僕を見つめて、ニチャァと笑った。


「お前は、素直に教えてくれよ。そうすれば、痛い思いはしないからな。」


こいつには、何があってもカエデの居場所を教えてはいけない。


「だ、誰が、教えるか!」


震える体を、必死に奮い立たせ、剣を手に取る。

僕は、ザビルに斬りかかった。

殺してやると、強い殺意を持った一撃だった。

それなのに、簡単に躱されてしまう。

何度も、何度も斬りかかるが、その度に躱される。

絶対に勝てない程、実力差があると、気付いてしまった。


「なんだぁ、その程度では、何も守れないぞぉ。だが、私もこれ以上、遊んでいる暇はないんだ。」


ザビルは、そう言うと、僕の心臓めがけて短刀を突き出した。


焼けるよな熱を感じる。

それと同時に、大切な何かが失われる感覚。


「シオン!どうしたの?悲鳴が聞こえたけど?」


カエデ!彼女は、昨日から、半住み込みで働く、宿屋に手伝いにいっていたはず。

なんで、このタイミングで、帰ってきたんだ!


「おお、こんなところにいたか?器の少女。」


「あなた誰?何してるの?!」


カエデ、駄目だ、早く逃げろ!

そう言いたいのに、なかなか声が出ない。


「あなが、シオン達をこんな目に遭わせたの?!」


カエデは、最近覚えたての魔法を放とうとする。

しかし、それよりも早くザビルの魔法がカエデを拘束した。


「ダークハンド」


「きゃあ!」


あっという間に、カエデは連れ拐われてしまった。


僕は、悔しさに唇を噛む。

どうしたら、いいんだ。ザビルには、とても敵いそうもない。


その時、自宅のすぐ側の洞窟に、剣が封印されているのを思い出した。

両親からは、聖剣だと言われているが、片田舎のおとぎ話にすぎない。

探せば、そんな伝説の場所は、いくつもあるだろう。


それでも、その時は、その伝説にすがりたかった。

傍らに倒れる母さんに、僕がもつありったけの治癒薬を飲ませる。

少し、回復したようだ。


昔、ある魔法使いに助けられた事がある。

その時に、彼からもらった連絡を一度だけ取れる通信用魔法石を取り出した。


魔法石を破壊すると、その持ち主に異常を知らせる事が出来るのだ。


これで、母さんは、助かるはずだ。

魔法石を地面に投げ、破壊する。


そして、ゆっくり立ち上がった。

鈍い痛みと、霞む視界。

僕は、何かに急かされるように、歩きだした。





洞窟にようやく、たどり着いた。

カエデを助けるのに、間に合うだろうか?

母さんは、大丈夫かな?


不安に押し潰されそうだが、何故か歩みは止まらない。


奥に進むと、剣の刺さった台座がある。

あと少し、あと10歩。

ずるずると、引くずるように歩く。

石に躓いて、倒れてしまった。


一度倒れてしまうと、もう起き上がれなかった。何度も、何度も試すが、どうしても体が持ち上がらない。

急に、とてつもない眠気に襲われた。

ああ、死ぬのかなと思ったとき、黒い天使を見た。


神々しい光を放つ天使は、僕の目にはとてもとても美しく見えた。


暖かい光に包まれ、だんだん意識が鮮明になる。

目の前のにいたのは、天使ではなく、レイアスおじさんだった。


「よかった。」


おじさんは、少し、涙ぐみながら、ほっとしたように、そう呟いた。







*捕捉、カエデはシオンの幼なじみで、両親は亡くなっています。

シオンの隣の家に、一人で住んでいますが、週に何日かは、宿屋に半住み込みで働いています。

シオンにとっては、妹のような大切な存在です。















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