第9話クルル村

やっと、屋敷に帰ってきた。

疲れた。

カルロスに、紅茶を淹れてもらい、一息つく。


「疲れた。」


「ご苦労様でした。」


そうだ、メインイベントが起こるクルル村について、聞いてみようかな。


「カルロス、クルル村を知っているか?」


「クルル村ですか?確か、レイアス様の領地ですね。大分辺境になりますが。」


?!

なんだって!

じゃあ、魔物の、被害が増えている報告があったのに、無視していた悪徳領主は、レイアスだったのか!

小説では、名前までは、出ていなかったが、領主の貴族が対応をしなかった為に、大暴走にまで発展し、魔法騎士団が派遣された筈だ。

被害は甚大で、多くの人達が、亡くなった。

勇者シオンの両親も、その時に亡くなっている。



ど、どうしよう。

このままじゃ、バットエンドまっしぐらだ。


「カルロス、クルル村から、報告があったのはいつだ?」


「2ヶ月程前です。」


「に、2ヶ月!ま、まずい。今すぐクルル村に向かうぞ!」


「今からですか?!」


「急をようするのだ、直ぐに行かないと!」


魔物の暴走があったのは、秋の終わりだったはず、そんな描写があった。

今は、秋の、中旬くらい。

まずい、もういつ暴走が起こってもおかしくない。



「レイアス様、当家の騎士達は、大半が辞めてしまいました。護衛を探すにも少し時間がかかります。」


「ど、どのくらいだ?」


「ギルドに依頼を、出すので、ニ、三日掛かります。」


「直ぐに、依頼をだすんだ!」


それから、数日、俺はソワソワしながら、魔法の練習をしたりして過ごした。

今朝、ようやく準備が、整ったと報告を受け、馬車に乗り込んだ。


ギルドからの護衛は、赤毛の剣士と女のクレリック、屈強な重戦士の3人パーティーと、黒いローブを羽織った魔法使いの男の4人だった。

後は、家に残っていた素行の悪そうな騎士が数名。

カルロスは、今回屋敷の管理を任せている為、メイドのリリアが同行してくれる。


不安を覚えるが、これ以上は待つ時間はない。


「馬車を出してくれ!」


一行は、クルル村に向けて出発した。


ガタガタ揺れる馬車に、尻を痛めながら、半日。

クルル村までは、3日程掛かる。

俺のお尻が耐えられるだろうか。


暫くすると、急に馬車が止まった。


「レイアス様、外の様子を確認してまいります。」


リリアが、馬車の外を覗こうとすると、冒険者の一人赤髪の剣士アルトが、近づいてきた。


「魔物の襲撃を受けている。既に交戦中だ。旦那様は、このまま馬車に隠れていてくれ。」


「魔物は、一匹か?」


「いや、ジャイアントウルフ5匹だ。俺たちB級冒険者でも、ギリギリ勝てるかどうかだ。」


「騎士達は、どうした?」


「あいつらは、真っ先に逃げたよ。」


「・・・はぁ、仕方ないな、俺が戦おう」


「旦那様、それは止めといた方が良いですよ。死体が一つ増えるだけです。旦那様を、守りながらの戦いは、俺たちも無理です。」


ここで、押し問答している暇はない。

今説明しても、分かってもらえないだろう。

アルトを無理やり押しやり、外に出る。


見ると、重戦士のケインと、ローブの魔法使いザビルの二人によって、なんとか魔物の攻撃を、食い止めている。

クレリックのアリアが、後ろから補助魔法を使っているようだ。


俺は、魔力を練り始める。

ここ数日の、練習により、火魔法、土魔法共に、違和感なく使えるようになっている。


「フレイムランス」


火の中級魔法を放つ。

炎の槍は、あっという間に、魔物を貫いた。


5匹いた魔物が、あと一匹になった。

精度が甘い。

まだ、練習しなくちゃならない。


残りの一匹も、ケインとザビルによって倒された。


冒険者達が、驚愕した様子で、こちらを見ている。


何を驚いてるんだろう?

本物のレイアスだって、このくらいはできた筈だ。


「何を見ている。そろそろ行くぞ。」


その後は、特に、魔物と出くわす事もなく、今日は、野営する事になった。


リリアが、美味しいスープを作ってくれる。

持ってきたパンも、美味しいな。

外で、こんな料理が作れるなんて、リリアは凄いな。俺は、料理があんまり得意じゃないからな。



お腹が満たされると、少し余裕も出てきた。

ちょっと、冒険者達の様子を見てみよう。


馬車の外に出てみると、少し離れた場所で、アルト達パーティーが、食事をしている。


固そうなパンだけの、質素な食事だ。


「どうして、そのような食事をしている?

他には、持ってきていないのか?」


「!旦那様!・・・実は、昼間の戦闘で、食料を落としてしまって。」


それは、辛い。

近場の町にたどり着くのは、明日の夕方だ。

こんな食事では、力が出なそうだ。


俺の食料を分ける事もできるが・・・


前世の知識を元に、薄い魔力を広げソナーのように使う。

大きな鳥が、空を飛んでいる。


この、鳥めちゃくちゃ美味しいんだよな~~~


座標を確認し、魔方陣を遠隔で鳥のそばに出現させる。

聖属性魔法で、弾丸を作りだし、魔方陣から打ち出す。


見事、鳥に当たった。


鳥の落下位置に合わせ、再び魔法陣を出現させ、転移魔法で、手元に呼び寄せる。


あれ、普通に聖属性も、使えたな。

どうゆう事だ?


取り敢えず、取れた鳥を冒険者に渡そう。


「おい、これを受けとれ。後で、リリアに頼んで、調理してもらうといい。」


呆然としている冒険者をよそに、俺は満足して、馬車に戻った。




「おい、アリア、ケビン。今の見たか?」


「み、みました。でも、何だか分からなかったたです。」


「ああ、俺もあんな高度な魔法制御を見たのは、初めてだ。」


「飛んでいる鳥を、魔法で打ち落として、魔法陣で、転移させるなんて。どんな魔法で鳥を、仕留めたのかは、分からなかったですけど。あんな事普通出来ません。」


「レイアス様といえば、悪い噂が絶えないお方だし、精神を病んで、地に落ちた天才と有名だからな。この依頼も、受けるかどうかずいぶん迷ったが・・・」


「きっと、この鳥も、食料の無い私達を心配して取ってくれたんですよ。案外、悪いひとではないのかもしれません。」


「だが、二人とも。この鳥はしかるべき処理をすれば、絶品だが、そうでないと、固くて食べられないぞ。調理器具や時間が限られている今は、とても料理できない。普通に、食料を分けてくれた方が、ありがたかったな。」


「「・・・。」」


「でも、凄い得意げでしたし、わざとでは、ないんじゃないでしょうか?・・・多分ですけど。」









































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