第8話 死なない為の第一歩

ん~~~~


よく寝た。

起き上がって、閉めきっていたカーテンを開けた。


朝日が気持ちいい。


「レイアス様、お目覚めになりましたか?」


「ああ、起きてる」


ガチャと、いう音と共に、昨日も見かけたメイドが入ってくる。


「カルロスから、聞きました。記憶が混乱しているそうですね。私は、リリアと申します。レイアス様の身の回りのお世話をしております。早速、朝の準備を致します。」


「わかった。」


茶色の髪を三つ編にした、そばかすのメイド。リリアは、てきぱきと身支度を整えてくれる。


ユリウスだった時も、自分でやっていたから、居心地が悪い。

顔を拭かれている最中、少し身動ぎすると、水が胸元に垂れてしまった。


「・・・・!も、申し訳ありません!」


リリアは、ズザッという音ともに土下座した。


「罰は、どのようにも受けます。でも、家族だけは助けて下さい!」


「な、えっ?」


レイアスて、こんなに怖がられてるのか?


「平気だ。動いた俺が悪い。罰はないから、安心するといい。」


「あ、ありがとうございます。」


「早く、朝の支度を終わらせてくれ。」


少し怯えながらも、リリアは黒一色の服に着替えさせてくれる。


「これまでの俺は、そんなに恐ろしかったのか?カルロスの言う通り、昨日の夜から記憶が混乱している。断片的にしか、思い出せないんだ。教えて欲しい。」


「はい、レイアス様は、私達メイドが少しでも粗相をすると、鞭や魔法で痛め付けられました。解雇され、家族もろとも領地から追い出された者もおります。」


流石に、ひどすぎる。

死亡フラグ回避できるか不安になってきた。


「ですが、、カルロスが言っておりました。レイアス様は、黒睡蓮の毒から抜け出したと。昔からレイアス様に使える、使用人達は、みんな喜んでおりました。」



リリアに髪を解かされながら、鏡を見ると、

堕ち窪んだ目をした男が写っている。



「確かに、変わられたように思います。昨日は、髪を振り乱してぶつぶつ呪文を呟いていらっしゃいましたから。支度が、終わりました。如何でしょうか?」


レイアスは、学生時代少し目付きが悪いものの、かなりの美形だった。

窶れて、昔の美貌が見る影もないが、

リリアの努力によって、少しましになった。

長い黒髪は、下の方で一つに結われて清潔感がでている。

服も仕立ての良い物を用意してくれたみたいだ。


「ありがとう。大分良くなった。」


「朝食が出来ていますので、ご案内します。」


リリアに、付いていくと、昨日と同じ食卓についた。広いテーブルに朝から豪華なメニュー。


暖かなスープを一口飲む。うん、美味しい。

さて、これからどうするかな。


確か、この後辺境の村で、魔物の暴走が起こって、それを鎮圧しに行った、ルシル率いる魔法騎士団と、勇者シオンが出会う流れだったはず。


村の名前は、何だったかな?


確か、クルル村といったような。



「レイアス様、本日のご予定でございますが、長らく後回しにしてきた、魔法省からの呼び出しに行かれるのが良いかと思います。」


「魔法省?何の、呼び出しだ?」


「レイアス様が、禁忌呪文を使った恐れがあるとの事で、以前より呼び出されておりました。」


・・・・ちらっと、右手を見る。悪魔召還が、バレたらかなりヤバい。

どうやって、誤魔化そう


とりあえず、魔法紋は、隠しとこう。


食事が終わり、馬車の用意をしてもらう。

リリアが、黒い手袋を持って来てくれたので、早速着用した。


馬車に乗り込み、しばらくすると魔法省が見えてきた。


魔法省とは、王国最高の魔法機関だ。

魔法騎士団とは違い、魔法の管理を行っている。

魔法の才能を、開花させた者は、魔法省への報告が義務ずけられている。


豪華な建物に懐かしさを覚える。

昔は、よく魔法使いの仕事で訪れていた。


「レイアス様到着しました。」


差し出されるカルロスの手取り、馬車のステップを降りる。


魔法省の中に入ると、ローブを着た魔法使い達が忙しそうに動き回っている。


俺は、緊張しながらも進む。

受付に付いたようだ。


「レイアス・ブラックだ。魔法省から呼び出されて来たのだが。」


「レイアス様ですね。ご案内致します。」


受付の魔法使いの後に付いていく、暫くすると、魔法大臣の執務室に、たどり着いた。


「こちらでございます。大臣がお待ちです。」


執務室の中に入ると、柔和な笑みを浮かべた、若い男がいた。


「レイアス・ブラック様。お待ちしておりました。本日は、レイアス様が禁忌呪文を使用したとの情報提供がありましたので、お呼びいたしました。」


「俺は、禁忌呪文など、使用したことは、ない。」


なんとか、誤魔化すしかない。


「しかし、大量の奴隷を購入したとの噂、魔法に使用するためでは?」


「噂だろう。奴隷などいない。証拠はあるのか?」


きっと、悪魔召還の生け贄にしようとしたんだ。

そういえば、その、奴隷達は、どうなったんだろう?


「実際に見た者の、証言があります。それ以前に、近年のあなたの行いは、常軌を逸しています。」


「その、者が嘘を付いているのかもしれないぞ。証拠が、他にないのなら、帰らせてもらう。」


さっさと、お暇したい。

やったのは、レイアスであって、俺じゃない。


「レイアス様、例え今日、言い逃れ出来ても、いずれ真実は、明るみになります。我々は、あなたを危険人物として、リストに追加しました。その事を忘れないで下さい。」


「・・・・」


この辺りの細かい事は、小説に書いていなかったが、随分と敵が多そうだ。


身を翻し、部屋を出る。


怖かった。怖すぎだろ~~~


今更だけど、何でレイアスに転生したんだ!

俺を殺し、魔王の配下となる闇堕ち悪役なんて!


普通の、平民がよかった。


確かに、前々世は、ユリウス(貴族)だったけど、間に平凡な間宮誠を挟んでるから、感覚は、平穏にに暮らしたい庶民なんだ。



カルロスは、馬車に戻って待っていると言っていた。


早く戻ろう。


早足で歩いていると、遠目に懐かしい姿が見えた。


銀髪に、青い瞳。成長しているが、ユリウスの弟子だった、ルシルだ!


こんなところで会えるなんて!

んッ。待てよ。

ルシルに、事情を説明すれば、力になってもらえるんじゃ。

ルシルは、勇者パーティーの一員になるはずだ。

助けてもらえれば、勝ったも同然。


穏やかな性格のルシルなら、冷静に俺の話を聞いてくれるはず、何とか信じてもらえれば、此方のものだ。


俺は、ルシルに話し掛けようと、止まっていた足を動かした。


「あっ、ルシ・・・」


「これは。これは。レイアス・ブラック公爵ではありませんか。悪名高い貴方が、今日は、どのような用事で、こちらにいらしたのですか?」


「あ、俺は、、、いや、私は、、、」


「しかし、安心しました。本日は意識がはっきりしている様子。先日お会いした時は、会話が成り立たないほどでした。」


「じ、実は、私は、ユ・・・っ!!!」


突然頭が割れるように痛みだした。

痛みに耐えながら、もう一度伝えようとしてみる。


「私は、お前の師匠・・・・っ!!!ぐっ!」


だ、だめだ。いくら試しても、言葉に出来ない。

まさか、これが小説の強制力なのか?

あくまでも、俺は小説通り悪役として死ななきゃいけないのか?


「!師匠がなんだって!やはりお前が師匠を

・・・」


氷のような眼差しに、身がすくむ。

こうなったら、一か八か、聖属性魔法を使って、気づいてもらうしかない。


魔力を集め、魔法を使おうとするが、出来ない。


「貴様、何をしている?また、何か企んでいるのか?魔法省で、攻撃魔法を発動しようとするなど、言語道断だ。」


魔法省では、悪意のある魔法や攻撃魔法、転移魔法は、制限されているが、その他の魔法は、普通に使えるはずだ。

なんで、発動出来ないんだ。



「答えろ!レイアス・ブラック!貴様からは、禍々しい物を感じる。他の奴らは、騙せても私は騙せないぞ!」


ルシルの気迫に、体がビクッと震える。

だめだ・・・・ルシルに、真実を告げて協力してもらうのは無理だ。


可愛かったルシルに怒鳴られて、泣きたくなってきた。


冷静に考えれば、レイアスは、ユリウスを殺した男だ。

ルシルにとっては、師の敵だろう。

未だ、犯人が明るみになってないといっても、怪しいと感じていても不思議ではない。


だけどさぁ、悲しい事は、悲しい。

もういいや、もう帰ろう!


「失礼する。」


半分泣きながら、競歩レベルの早歩きで、馬車に逃げ帰った。


「レイアス様、どうされたのですか?」


「はぁ、はぁ、ぜーーぜーーー」


苦しい、この身体、体力なさすぎだろ。


ようやく一息つくと、カルロスにルシルの事を聞いてみることにした。


「筆頭魔法使いの、ルシル・シュタインはどのうゆう人物なんだ。」


「ルシル様ですか。氷結の魔法使いの二つ名がありますね。四人いる筆頭魔法使いの中で、一番力のある魔法使いとの噂です。

性格は、詳しくは、分かりませんが、氷のように冷たく、冷淡なお方だと聞いたことがあります。レイアス様の事は、恨むレベルで嫌っていますね。もし、ユリウス様の件がバレたら、考えただけで恐ろしいです。」



「そ、そんなにか?」


「そんなにでございます。」


愛弟子に、殺される未来は避けたい。

昔のルシルとは、別人だったな。

どうして、あんな風になってしまったのか?


気になるけど、ユリウスと告げられない限り、下手に近づくのは止めておこう。




*捕捉:

レイアスは、昔は艶やかな黒髪に、金の瞳の美形でした。

今は、精神崩壊してしまい、窶れて見る影もない状態です。

物語通りに進んでいたら、狂人ゆえに強い中ボス的な立ち位置で登場していました。

転生後は、徐々に元の状態に戻る予定です。

まだ、ユリウスを殺した事は、バレていませんが、ルシルはめちゃくちゃ疑っています。


自分の正体を告げる事や、聖属性魔法をルシルの前で使うことは出来ません。

レイアス=ユリウスだとバレる行為は、小説の、強制力で、今のところ禁止されています。





































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