第7話side???

たまに、夢と分かる夢を見る。


幸せだったあの時の辛い夢だ。



「そこの薬草を取ってくれないか?」


「はい、師匠。」


穏やかに微笑むその人は、とても美しい。

輝くばかりの金髪に、碧玉の瞳。

無造作に垂らした長い髪が、彼が動く度に柔らかく揺れる。


「なにを呆けているんだ?早く魔法薬を作って、病に苦しむ村の人を助けなければ。」


この世界でただ一人、聖属性を持つ師匠は、治癒魔法にも長けていた。


何の利益にもならないのに、困っている人がいれば助ける、そんな人だ。


「師匠、この薬草は、こちらの薬草と混ぜては駄目なんですか?この方が、効果が高まるように思いますけど。」


「一見そう思えるが、この二つを混ぜると、毒が生じてしまう。薬と毒は表裏一体、気を付けて煎じなければ、逆効果になることもある。以前も、教えただろう?仕方ない、もう一度だけ説明するから、よく覚えるんだよ。」



長く、華奢な指先で一つ一つ薬草を指差しながら、効能や危険な調合を教えてくれる。


本当は、全部覚えていて、師匠の優しい声を聞きたいだけだと言ったら、怒るだろうな。


暖かい日差しと、師匠の声で幸せを噛みしめていると、急に扉が開いた。


「魔法使い様、助けてください!村に魔物が出ました!」


以前、村長の息子として紹介された男だ。


「!!それは、大変だ!すぐに行こう。お前は、ここで、待っていなさい。」


「師匠、僕も行きます!僕も、僅かながら魔法が使えます!」



だめだ!

魔物退治に付いていったせいで、後悔することになる。

いくら、願っても、夢の中の私は止まらない。


「お願いします。僕も村の人の力になりたいんです。」


嘘だ、本当は大分出来るようになった魔法で、師匠に良いところを見せたいだけ。


師匠は、こう言えば断れないのをしっている。


「そうだな、わかった。今回は、一緒に行こう。但し、危なくなったら直ぐに隠れなさい。約束できるかい?」


「ありがとうございます!」


村長の、息子に先導され、村の入り口に急ぐ。



赤く巨大な体。

魔物は、オーガと呼ばれる中級のモンスターだった。

普通は、森やダンジョンに出現し、こんな人里に現れるのは珍しい。


「ヴォォォ!!!」


師匠と、僕がたどり着いたとき、丁度村の門が破られた。


入り口を固めていた、村の男達に、オーガが迫る。

師匠はすかさず、無栄昌で魔法を放った。

鋭い風の刃が、オーガを切り刻む。


「ガァァァァ」


しかし、オーガはあちこちに血を滴らせながらも、立ち上がった。


「・・・どうやら、このオーガは、通常よりも強化されてるようだ。最近現れた魔王の影響かもしれない。私は、両断するつもりで魔法を放ったのだ。」


師匠は、冷静に告げた。


「お前は、下がっていなさい。ここは、私が相手をしよう。」


師匠の回りに大量の水が浮き上がる。


「穿て」


水は弾丸となって、オーガに襲いかかった。


「グオー」


水弾の殆どは、オーガに当たったが、巨大なこん棒でガードし、致命傷は避けられた。


ドシンドシンと、師匠に迫るオーガ。

師匠は、更なる威力の魔法を放とうと、集中している。


・・・僕だって、必死に魔法を練習した。

きっと、出来るはずだ。

やってやる!


師匠に、誉められている自分を想像しながら、早口で詠唱する。


「氷よ敵を穿て アイススピア」


魔力は、氷の槍となり、魔物に向かって飛んでいく。


やった!

完全に、急所を捉えている。


「・・・?!あれえっ、」


僕の魔法が当たる直前、なんと、魔物は飛び上がって氷の槍を避けた。


「ルシル!!!」


師匠の焦ったような声が聞こえる。

いきなり目の前に現れたオーガが、僕目掛けてこん棒を振り上げる。


あっ、死んだ。

そう思った瞬間、暖かい何かに抱き締められた。


恐れていた、痛みがやってこない。

恐る恐る閉じていた目を開けると、師匠に抱き締められていた。


生暖かい感覚、手を見ると、、、赤い、、、これは、血?


「し、師匠!!!!」


僕を抱き締めたままぐったりしている師匠。

う、嘘だ!!




・・・急に、場面が変わる。真っ暗な闇。


ああ、またこの光景を、見せられるのか。


本当は、あの後すぐ目を覚ました師匠に、オーガは呆気なく倒された。

これは、あの夢の続きではない。


闇の中、うっすら光る方に歩いていくと、そこは師匠の研究室だ。


馴染みのある、暖かな空間に、似合わない赤。


血だまりの中に倒れる師匠。


見開かれた瞳は、ガラスのようで、生気が感じられない。


それでも尚、師匠ユリウスは、美しかった。



「うぁァァァァ!!!!」



心が、張り裂ける悲しみ。

助けて、誰か助けて、、、


































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