結界

「やっちまったよ。あれは関係代名詞だから、正解は④だ」。僕は舌をうった。これで赤点は決定だ。憂鬱な気分で、僕は穴倉に潜り込んだ。

「穴倉」というのは、線路下のガードである。頭のすぐ上を列車が走り抜ける。このガードを越えれば、僕の家がある。

 狭い洞窟のような薄暗い道を抜けると、そこは夕暮れであった。妙だな、まっ昼間のはずだぞ。

「夕焼けじゃぁない」。夜空が、鬼灯のように燃えているのだ。編隊を組んだ飛行機が、爆弾をまき散らしている。それがはぜるたびに、夜空を赤く染めているのだ。

 業火から逃げる群衆が、こっちに押し寄せて来る。僕は人々の大波に呑み込まれた。溺れそうになる僕は、確かに聞いた。「ヒュー」と鳴る音。爆弾の断末魔。僕を狙う爆弾は、製造番号まで読める。

 こうして、幾千もの人々が情念を残して、ここで死んでいった。その情念が、ここに結界を作ったのだ。

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