僕には修学旅行の楽しみが、一つある。大仏殿には、大仏様の鼻の孔と同じ大きさの穴が開いた柱がある。この穴を潜ると、目から鼻に抜けられるんだ。

 僕は、薄暗いお堂に入った。お堂の天井は高い。その真ん中に座った黒光りした大仏様には目もくれない。僕は、穴を目指して駆けた。そこには、もう十人の行列が出来ていた。

「キャッキャと、うるさいんだよぉ」と連中を見た。やっと僕の番だ。深呼吸して、穴に頭を突っ込んだ。でも、奥に進んでいかないぞ。モゾモゾするうちに、頭が向こうに出た。その瞬間、僕の身体が硬直した。「ヤバい」と思うと、誰かが僕の両足を引っ張った。身体は穴からスポッと抜けた。「ぼく、大丈夫?」と尋ねる声が遠くで聞こえた。

 僕は、気を失った。その刹那、僕は奇妙な世界に迷い込んだ。黄金に輝く大仏様。嗅いだことのない線香。聞いたことのない懐かしい音楽。穴の向こうにあったのは、何だったのだろう。

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