四百字のつぶやき / 福内 鬼外 作

名古屋市立大学文藝部

さよなら 夏の日

 初夏の陽光が葉を透かして、葉脈が浮いて見える。

 草の上に寝転んだ僕の身体を、木々が包み込んだ。静かな朝だ。戦の世であることを忘れてしまう。しかし、遠くの空で、蚊のように唸るのはグラマンだ。奴は、動くものには見境なく弾丸を浴びせかける。

 勤皇隊に入った「にぃに」が、家を出る時、最後に言った「おばぁを頼む」の声が、耳から離れない。僕は舌をうった。「ヤンバルに逃げるぞ」と言ったのに。

 胃袋を絞られるような空腹が襲う。尻のポケットにドロップの缶がある。蓋を開けて一粒を取り出す。刹那、突風が吹いた。葉が揺れて枝が分かれて開く。僕は陽光に晒された。

 獲物を見つけたグラマンは唸りを上げた。急降下する。ガラス越しに若者の顔を見た。彼は、躊躇ちゅうちょもなく機銃を掃射した。美しい青葉を、ベトリと赤く塗ることなど思いもせず、彼はトリガーを引いたに違いない。

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