第27話 「クンクン……クンクン」

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 オレは木の並ぶ道に飛び込むと何かにぶつかってしまった。


「いてててて……」


 頑丈な頭をしていて良かった、じゃなかったら怪我してたぜ。


 オレは『何にぶつかったんだろう?』って思って顔を上げた。

 すると、そこに居たのは誰であろう。


 サトシだった。


「サトシ! 何してんだよ!!」


 オレは吠えた。


「ラッピー……お前何でここに」


 オレの問いに答えずサトシもオレと同じ質問をした。

 そのサトシの顔は明らかに驚いていた。


「何でって……何でも何もない! ハル姐と散歩だ……つか、そのハル姐が大変なんだよ! あぁ……そうだった、お前の相手してる暇は無いんだ。ごめんな、サトシ! オレは早く"白い服着た人間"を探さなきゃならないんだ!」


 オレはそうサトシに向かって吠えると、地面の匂いを嗅いだ。


 他の『人間』がどこにいるか探さなくちゃ。

 マジでサトシの相手なんかしてられないんだ。


「また後でなサトシ、先に家に帰っててくれ。オレはハル姐を"白い服着た人間"の所に連れいってから帰るから。帰ったらゆっくり遊ぼうぜ」


 オレは地面に鼻を着けながらサトシに向かって言った。


 あぁ……"白い服着た人間"の匂いを知ってれば良かったんだけど、そうは上手くいかない。

 とにかく手当たり次第に捜さなくちゃ!



 クンクンクン……


 クンクンクン……



 オレが捜索を始めようすると、早速何かが邪魔してきた。


 それは匂い……

 オレの鼻をくすぐる良ぃ~い匂いだ……


「なんだ……この匂い……魅惑の匂いだな。ん? でも、さっきも嗅いだな……公園に居る時も匂った。ハル姐が倒れる前に……。さっきは微かだったけど、今は濃い……クンクン……クンクンはうわっ!!! これは!!!」


 オレは匂いを頼りに、一歩二歩進んだ。


「やっぱりそうだ! これは……」


 オレはソレに鼻を思いっきり着けた。

 大好きな匂いだ!

 オレの大好きな匂い!

 さっきは微かだったから分からなかったけど、さっき匂ったのは確かにコレだ!


「おいおい……ダメだって」


 オレがその良い匂いの主に鼻を着けると、サトシが怒った声を出してオレからソレを取り上げた。


「これは家帰ってからだよ。ビーフジャーキーは!」


 そうだ! そうだよ!


 やっぱりそうだったんだ!


「ビーフジャーキー!! オレの大好きなヤツ!!」


 オレははしゃいで飛んだ!


 ビーフジャーキーを持つサトシの手に向かって!


「馬鹿、ダメだって言ってんだろ! 帰ってからだって……つかさ、ハルカは? お前、リード付けられたてるけど……もしかして、ハルカが散歩に連れて行ったのか?」


「ん? ………ハルカ?」


 オレは首を傾げた。


 サトシはオレの顔をジーッと見てる。


「はうわっ!! そうだ!! ハル姐だよ!!!」


 オレは危うくビーフジャーキーの誘惑に負けてハル姐を忘れるところだった!

 サトシめ、こんな時にビーフジャーキーを持ってくるなんて……むむむむぅ


 オレはサトシから目線を外して、再び地面の匂いを嗅いだ。

 "白い服着た人間"を探さなくちゃ!

 さぁ、レッツゴー!!


「おい……どこ行く気だよ? ラッピー、おいおい…」


 サトシが後ろから話し掛けてくる。

 オレは無視した。

 邪魔すんな。

 オレは"白い服着た人間"探しをしてるんだ。

 お前の相手をしている暇は無い。


「おい……どこ行くんだ? ラッピー!」


「はうわっ!!」


 何てこった……サトシがオレを『抱っこ』してきやがった。

 離せ……今はそんな時じゃないんだって!

 "白い服着た人間"を探さなくちゃいけないんだ!


「ワオーーーンッ!!」


 オレは吠えた。

 嘆くように。

 ハル姐を助けられない自分に絶望したんだ。


「なぁラッピー、ハルカはどこだ?どこに居るんだ?」


「ん?」


 オレはサトシの顔を見た。


 その時、思った。


 あ……オレははじめはサトシ達を連れてこようと思ってた。

 で、それは無理だから"白い服着た人間"を直接探してやろうと思ったんだった。

 ん? ……って事は………


「サトシ! ハル姐を助けろ!!」

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