第13話 「オレのが偉いんじゃないの?」

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 オレはハルカには一目置く事に決めた。


 はじめから良い匂いのする女とは思ってはいたけど、まさか喧嘩も強いなんて。

 でも迷うなぁ、サトシは『ハルカはオレのお姉ちゃん』と言っていた。

 でもさ、オレのが偉いんじゃないの?

 オレのが先にこの家に居たんだからさ。


 よく分からんから暫くはハルカを観察する事に決めた。


 それにしてもほっそいなぁ。

 こんな細い体でよくあんな吠えられるよ。

 しかも、サトシと違ってグータラ寝てばっかじゃない。

 ハルカはタバコってのを食べ終えるとすぐに動き出した。


『何をするのかな?』って思って見てると、

 まさかまさかアイツ、ママだけが操れるはずのってヤツを操り出した。


 驚いたよマジで。


 やっぱスゲー奴じゃん!

 しかも昔、ママが操っていたヤツよりうるさくない!

 形は同じ、少し色が違うくらいかなぁ?

 ママが操るは「ウォーウォー」唸ってうるさかった。

 なのにハルカが操るヤツは全然うるさくねぇ!


 ハルカスゲ~~!!!


 ママが操るのはうるさ過ぎて、オレ恥ずかしながら昔は"生きてる"と思い込んでた。

 でも違うんだって。

 サトシが教えてくれた。


 ハルカはを操りながらブツくさ何かを呟いてた。


「ぶぶちゃんのバカ、ぶぶちゃんのバカ、ぶぶちゃんのマヌケ、ぶぶちゃんのデブ……」


 ぶぶちゃん? どうやら誰かの文句を言ってるみたいだ。

 オレは黙って聞いていた。

 なんも話し掛けてないし、なんにも反応してない。

 ただ部屋の隅っこで横になりながらハルカのボヤキを聞いてただけ。

 なのにハルカの奴、を操りながらオレに近付いてきて


「なに睨んでるのよ! 吸ってやろかぁ~!」


 とをオレに向けてきやがった。


 オレは驚いて急いで逃げた。

 だってハルカが向けてきたがオレの鼻をチョイっと吸ったんだ。


 昔もやられた。


 ママに。


 オレがまだが生きてると思ってた頃。

を追いかけ回してたら「邪魔しないのっ!」って、ピッてさ。


 あぁ~驚いた。


 ちょっと離れて後ろを振り向くとハルカがオレに向かって舌出してた。

 威嚇のつもりだな。

 でもオレは学べる男だ、強者のハルカに無謀に戦いを挑むつもりはない。

 今は観察の時だ。


 暫くしたらハルカはを部屋の隅っこに置いた。

 良かった、もうこれで攻撃を仕掛けてくる事は無さそうだ。


 それにしてもハルカは底が知れない。

『犬』に負けない吠えりょくを持ってるかと思えば、ママだけが操れるはずのも操れる……


 オレは気が付けば、敵対心や恐怖心じゃなくて、ハルカの事を尊敬に近い気持ちで見ていた。


 しかもハルカは飯も作るみたい、ママが作ってた所に立って旨そうな匂いを漂わせながら作ってたぜ。

 飯を作れるのもスゴい奴にしか出来ない事だ。

 オレなんか全然。どーやってんかも分かんない。

 サトシもダメだね。

 サトシが子供の頃、ママの真似してやってみてたけどオレが気付いた時には、アイツ指を押さえて泣いてた。

 多分、飯に噛みつかれたんだな。

 オレはその時知った、飯は普段は狂暴なんだって。

 ママが飯を作ることで飯は大人しくなってオレ達が食べれるようになる。

 狂暴な分、だから飯は旨いんだ!


 ハルカが作る飯の匂いは旨そうだった。

 オレはその飯の匂いに釣られて気付いたらハルカの足元に来てしまっていた。


 もちろん睨んでくるよなぁ。


「あっち行け!あ っち行け!」


 ハルカはオレに向かってまた吠えた。


 はい、はい。ハルカ、分かってるよ。


 でもさ、オレだって困ってるんだ。


 旨そうな飯の匂いを嗅ぐと動きたくても動けなくなるんだもん。


 ハルカは自分の飯を作るとサトシが帰ってくるのも待たずに食べ始めた。

 コイツも食いしん坊な奴だな!

 オレと一緒だ。なんか親近感。


 それからそれから、またまた驚くべき事が起こった。

 なんとハルカがオレに飯をくれたんだ。

 って言っても『人間』の飯じゃない、いつものオレの飯。

 本当は『人間』の飯の方が美味しいから好きなんだけど、オレの飯だってマズくはない。

 こんなに嬉しい事はない!


「ほら、これでも喰ってろ!」


 って相変わらず怖い顔で言うけどさ、ちゃんと飯食わせてくれた!

 なんだよ優しいところあんじゃん!


 オレはハルカが作った『人間』の飯の匂いが漂う場所で、オレの飯にガッツいた。


 今日ハルカについて分かったこと。

 ハルカは強い。

 ハルカはスゴい。

 ハルカは優しい。


 サトシより好き。


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