第12話 「なんだバカヤロー! やんのかバカー!」

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 やらねば、やられる。


 サトシが昨日言っていた。

「ハルカはラッピーのお姉ちゃんだよ。俺の奥さん」って、『奥さん』って言葉はよく分からないけど『お姉ちゃん』ってのはルナ姐と同じ『ねぇ』か?

 だとしたら……なんでコイツが『ねぇちゃん』なんだ!


 オレは吠えた。


「バカヤロー!! 新参者のくせして偉そうな顔しやがって! オレのが偉いんだぞ! オレのがお前の親分! 親分! 親分!」


 だってそうだろ?

 コイツの方がオレより後に来たんだ、オレのが上に決まってる!


 へへ……ビビってやがるぜ!

 オレが吠えたらコイツは家に入って来れねぇ、ビビって止まってやがる。

 分かったかオレの強さが!


 と、思ったら


「なんだコラー! 邪魔だよ! どけって! コノヤロー!」


 ありゃりゃ……コイツも吠えてきやがった。

 そうだ、そうだ……昨日コイツはサトシに攻撃してサトシを倒しやがったんだ!

 タダ者じゃねぇんだった!

 ヤベェ~ヤベェ~


 オレは逃げた。

 いや、逃げたんじゃない最善の距離を取っただけだ。

 ちょっと離れてワンッ! ワンッ! ワンッ!


 だけど

 こっちが吠えりゃ、あっちも吠える


「なんだコラー! やんのかコラー!」


 あっちも吠えりゃ、こっちも吠える


「なんだバカヤロー! やんのかバカー!」


 こっちが吠えりゃあっちが吠えて

 あっちが吠えりゃこっちが吠える♪

 デデェーンデーンデデデーン♪




「はぁ…はぁ…はぁ…やるなお前も」


 オレたちは戦った。

 互いに全力を投入して。

 何分間オレたちは戦っていただろうか。

 時間を知らないオレが考えても仕方ない。

 とりあえず長かった……長い長い戦いだった。


「やらねば、やられる……」


 お互いそう思っていたに違いない。


 ハルカの実力はスゴかった。

 牙を剥き出しにして吠える姿は、オレじゃなければチビっちまっても可笑しくない。


 ハルカの実力………認めよう。

 ハルカはかなりの実力者だ。

『人間』がどこでこんな吠え方を習ったのか教えほしいくらいだ。

 普通の『人間』はこんな鋭い吠えを放つことは出来ない。今までで一番だ。

 ママを超えた、コイツはママの吠えをも凌駕する吠えを持っている。ビックリだ。


 オレはグランマに教えられた。

 この世には『人間』と『犬』がいるという事を。


 まぁ『人間』と『犬』には大した差は無いんだけどさ、大きく分けるなら『人間』は毛が少なくてデカイ。

 サトシ達がそうだ。


 何故、オレとサトシが『人間』と『犬』に分かれて生まれてきたのかその理由は分からない。

 きっとパパが『犬』だったんだろう。

 目を瞑ればまぶたの裏に浮かび上がりそう、オレを抱いたパパの姿が。


 あ、やっぱ無理。浮かばないわ。


 おっとっと、やっちまったぜ。

 気になる事があるとオレはすぐ考えちゃう。

 でも今じゃ無い。今考える事じゃない。

 オレとサトシが何故『犬』と『人間』なのか、その謎はずっと解けてない謎なんだ……


 んで、何んで急にオレが『人間』と『犬』の違いを語り出したかと言うと、ハルカのスゴさを分かってもらいたいからだ。

 実は『人間』と『犬』の違いは見た目だけじゃない。

『人間』は二本足で立つからか吠えが弱いんだ。


 これ重要!


 それなのにハルカの吠えのスゴさったらないんだ!

 昔、オレの散歩コースに住んでた『ゴンちゃん』みたい。

 元気してるかなぁゴンちゃん。

 ゴンちゃんは昔『けいさつ』って所で働いてたってママが行ってた。

 そのゴンちゃんに並ぶハルカの吠えのパワー!!


 オレもサトシに言われて『両手』ってヤツをやる時に二本足で立つんだけど、全然腹に力が入らない。

 参ったぜ。

 だけどハルカは二本足で立つ、『人間』のクセに吠えの爆発力がスゴい。

 認めざるを得ない。


 あ、そうだった。逆にたった一人だけ『犬』なのに吠えが弱い『犬』を知ってる。

 ルナ姐だ。

 なんつったってルナ姐は「ミャーミャー」鳴くからな、そんな声を普段から出してたら吠えたくても吠えられなくなってしまったんだろう。

 可哀想に。

 でもその分、ルナ姐には爪があるんだ。

 めっちゃ痛い爪。オレも何回も引っ掻かれたもんだ……

 ルナ姐とハルカを戦わせたらどっちが強いんだろうか?


 そんな事を考えている内に、

 ハルカとオレの戦いはお互いの声が出なくなるまで続いた。


 最後の方はオレはもうヒューヒューというかすれ声しか出なくて、ハルカは吠える度に顔から水を垂らしていた。


 一旦休戦を取ることにした。

 どちらかが提案した訳ではない、自然とだ。

 どちらも体力が限界だったのだ。

 ハルカもオレも息が絶え絶えだ。


 オレは乾いた口を水を飲んで潤し、

 ハルカは「もうなんなの!タバコ吸う!」と最後のひと吠えを上げると静かに煙を吐き出し始めた。

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