第6話 「あんにゃろめぇ~!こんにゃろめぇ~!」

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「あんにゃろめぇ~! 早速オレを置いて一人で散歩に行きやがった! 一人で外に出たらダメだって何度言ったら分かんだ! オレがリードしてやらないと散歩の正しいルートも分かんないクセにッ!!」


 オレはサトシが出ていってからその場でグルグルと何度も何度も歩き回った。

 アイツへの怒りが、同じくグルグルとオレの頭の中で回っていたんだ。


「あんにゃろめぇ~!こんにゃろめぇ~!」


 オレは「ふんっ!」と鼻息を噴き出した。

 こんな怒りは久々だった。

 だって、つい最近までオレはグランマたちと静かにゆぅ~くりと、空の上で穏やかな日々を送っていたんだから……


「あれ?」


 ん?


「あれ?」


 グランマと……?


「あれれ?」


 穏やかに……?


「あれれれれ?」


 空の上で……?


「あれぇ!!!」


 そうだ! 思い出した!!


「わわわ、そうだ! そうだよ!!」

 オレは大きな声で吠えた。


 大事な事を忘れていた! 大事な事を! とっても大事な事を!

 サトシが散歩なんか行くからだ!


 今はサトシの事を心配してる場合じゃないんだ!

 オレだよ、オレ、オレがなんでここに戻って気たのか……それを考えなきゃ。


 自分の心配をしなきゃ!


 確かにオレは、サトシが言うように"死んだ"


 サトシはオレが分からない言葉をよく使うけど、多分あの空高く飛んでいった事が

「死んだ」

 って意味なんだろう。

 そうだとしたら、オレは確かに"死んだ"


 なら、なんでオレはまたこの家に戻ってきたんだ?

 空から落っこちて来たのか?

 う~ん……覚えてない。


 オレがこの家にいる間、グランマもルナ姐も一度も空から落っこちて来たことないのに……なんでオレだけ?


 不思議な事があると、オレはいつも考えちゃう。

 つか、考えないと嫌なんだ。

 答えを知りたくなるんだ。


 なんでって?

 へへ……それはね、昔こんな事があったんだ!


 サトシが子供の頃、オレに『お手』ってのを教えてきた。

 それは超単純、アイツが手を出したらオレがその手の上に自分の手を置く……

 ガキンチョでも出来るぜ!!


 でもね、オレが『お手』をするとサトシはものスゴく喜ぶんだ。


 正直意味が分からない。

「なんでだろ?」

 って思ってた。

 しかもビーフジャーキーもくれるんだぜ。

 ケチなアイツが、一日に三回しか飯をくれないアイツが、なんでオレが『お手』してやっただけでビーフジャーキーをくれるんだろう……って思った。


 でも、オレは考えて考えて答えを出したんだ。

 スゲーだろ!


 サトシがオレに『お手』をせがむ時は、いっつもアイツがつまんなそうな顔をしている時だった。

 だから分かった!

「『お手』はアイツにとっては遊びなんだ!」って。

 何が面白いのか全然分かんないけど、でも『お手』をするとサトシは楽しいみたい!

 だからオレにビーフジャーキーをくれる!


 何か食べさせればまた遊んでくれると思ってるんだろう。


 ま、その通りなんだけど!


 だからオレは考える!

 その時の経験がオレを考えさせるんだ!

 分かったかい?


 不思議だった『お手』の答えが分かった時みたいに、考えれば必ず答えが見つかるはずだ。

 なんでだろう?

 なんでだろう?

 オレが空から落っこちてまたこの家に戻ってきたのはなんでだろう?

 グランマたちを残してオレだけが戻ってきたのはなんでだろう?


 そんなこんなを考えながらオレはまたその場をグルグルと回りだした。


 その時、ガチャッと音が鳴った。

 オレは慌てて振り向いた。

 この音は誰かが帰ってくるときの合図、外へと行ける『ドワァ』ってみんなが呼んでるのが開く合図だ。


「やっと帰ってきたか! こんにゃろめっ!」


 オレは吠えに吠えてサトシへの怒りを表しながら外へと行ける『ドワァ』に飛びかかった。


 でも……


 家の中に入ってきたのは、サトシじゃなかった。

 そいつはオレを見た瞬間に鳴いた。

 まるで、ルナ姐の怒ったときの声みたいに。


「ギャァーーーーーー!!!」



 え? なに…?

 だれぇ?

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