第58話 海の与えるサイゴノ試練


海の上位捕食者、クラーケン。それが悪夢化したのである。彼を止めれる者はもはや誰もいない…………ただ、ひとつの生命体を除いて。




「アあァ!」


触手での攻撃ばかりしか見せていなかった悪夢クラーケンだが、ここに来てなんと体当たりを仕掛けてきた!


「フ!?」


その標的となったのは、悪夢クラーケンの一番近くにいたサルヴァント。触手での攻撃ほどダメージはなさそうだが…それでも不意打ちとしてなら、十分仕事を果たしたともいえる。


「ァあア!」


怯んで一瞬固まってしまったサルヴァント。もちろん、それを悪夢クラーケンが見過ごさないわけがない。


「ア…ァあ」


悪夢クラーケンは自慢の触手たちで今度こそ一匹捻り潰そうとした。獲物をテレポートさせて逃してくる男は、自分に怖気付いて逃げてしまった…とでも思っているのだろうか?


残念、その予想はハズレだ。




「アぁァ?」


自分の自慢の触手たちがツルリと滑った。何故だ?何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。




「離れるのですわー!」

「ワンワン!」


「アぁゥア!」


ティルが伸ばした犬の首たちが、悪夢クラーケンの赤く濁った目を襲う!

いくら頑丈なナイトメア種といえども、流石に目を襲われるのはまずいのか一度退いた。


悪夢クラーケンはかなり困惑していたように見えた。何故、自分の使い慣れた触手たちが自分の思うように動かなかったのかと。

その原因は…


「バレなくてよかった…!!」

「ザァ!」


俺たちが悪夢クラーケンの死角に潜り込み、ヤツメに体力を吸わせていたからだ。リゲルはこの地獄のような海ではあまり戦力にはならない。しかしワニであるからか、隠密行動が大の得意なのだ。


「アオもありがと。おかげで成功したわ」


「ゴシャ」


アオのテレパシー能力により作戦が早く伝わって助かった。アオにまず作戦を話し、そこから他の仲間たちに伝達させたのだ。

本当はコケコで奇襲しようとしたのだがヤツメに変えた。


今は中途半端に高いダメージを与えてすぐに気づかれるよりも、ダメージはない代わりに奴の動きを妨害できる方が良い。そう判断したのだ。


まあもちろん、クラーケン…それもナイトメア種なので長い間吸わせる必要があったが、なんとかバレなくて助かった。


「ただ、安心するのはまだ早いわよ」


「そうだな…ここから、どうするか」


依然こちらが不利なのは変わっていない。確かに、今までも海での戦いはなかなかに困難を極めていた。しかし、今回はそれの比ではない…


「ファラクも増援として呼びたいけどまだ召喚できないしな…」


ファラクはまだ洞窟の中にいるのか、呼び出すことができない。

呼び出せればまだ少しは楽になるのに!!クソ、ゲームでよくある序盤限定の助っ人枠かなんかか!?


と、そんなことを言っている場合ではない。


「クラーケンの弱点って何かあったりする!?」


「私も流石に弱点までは知らないわ!」


藁にも縋る思いでサフンに聞いてみたが…

クソ、ダメかぁぁぁ!!!


「合ってるかどうかはわかりませんが、わかりますわ」



「嘘はよくないよ?」


「本当ですわ!クラーケンは、衝撃にバカ弱いのですわ!たいそうな名前がつけられているものの、所詮はただのデカいタコ。普通のタコと同じように、ストレスを感じると自分の足を食べ出すのですわ!」


普通に知らなかった。でも…


「この状況でどうやってストレスを感じさせるんだ?」


「まずクラーケンを海面まで誘き寄せてサバルの雷でバーンとやるのでしてよ!」


「サバルは今、洞窟の中なんよ」


「この作戦は失敗ですわ」


ダメだったかぁ…

今一歩のティルは置いておく。でも実際、サバルの雷攻撃はシーサーペントのサルヴァントにはよく効いてたし…見る目はあると思うんだけどなぁ…


「待て…ティル?目?」


そういえばあの悪夢タコ、ティルに目を攻撃されたときだけは露骨に嫌がり退いていた。


「目だ!目をつぶせー!!」


「ファー!!」


それまでは悪夢クラーケンの胴体や触手に向かって仲間たちは攻撃していたが、目標を変え悪夢クラーケンの目を積極的に攻撃しようとし始めた!


サルヴァントが振り回した長い尻尾が、悪夢クラーケンの目を切り裂…


「ァあア!」


このクラーケンは歴戦の猛者。ちょっとやそっと弱いところがバレたところで、遅れを取ったりなどしない。決して、怖気付かないこと。それこそが、成功の秘訣だ。


悪夢クラーケンはドラクイの尻尾を触手で受け止めた!そして、三度目の正直とばかりに触手で締め殺そうとする。


「それはさっきも見た、今だクロム!」

「フシュ!」


超巨体のクロムが、悪夢クラーケンの胴体に全力で体当たりをした!いくら皮膚が鋼鉄のように硬いからって、流石に助走もつけた神鯨の全力の体当たりはかなり痛いだろう。


「ァアァ!」


流石の悪夢クラーケンもこの攻撃には痛みで悶える。今までもダメージこそ受けてはいたが、あまり効いていなさそうだった。ここに来てやっと、ようやく大ダメージを与えられたのである。悪夢クラーケンは一旦距離を取ろうと…


「今だドラクイ!昏睡の潮じゃああああ!!」


「ォォォ!」


先回りしていたドラクイの背中から赤い潮が噴き出る!海の色が徐々に紅に染まってゆく…


「ァあァアぁ」


通常ならこの紅潮攻撃は対して仕事をなさなかっただろう。だが、彼女はヤツメの体力吸収で弱っていた。クロムの体当たりにより吹き飛ばされた先で、目に直接紅潮を叩き込まれてしまっていた。


それらが奇跡的に噛み合ったことで、俺たちの予想以上に昏睡の効果が現れたのである!


「ァあァァ…」


しかし、だからといって昏睡してしまうというわけではない。少しばかり意識を剥ぎ取っただけだ。


少しばかり、隙が生まれてしまっただけだ。


「フシュー!」


クロムの全力の体当たりが、再び悪夢クラーケンを襲う!

だが奇襲ではなく真正面からの突撃であればいくらでも対応の手段はある、とばかりに悪夢クラーケンはカウンターを仕掛けようとした…………仕掛けようとした。


昏睡の潮が、悪夢クラーケンにカウンターを取らせるのを一コンマ遅らせてしまったのだ。たかが一コンマ、されど一コンマ。


結果、カウンターは間に合わず…

再び、悪夢クラーケンは突き飛ばされることとなる。


「やりましたわ!」


フラグ発言が聞こえてきたのを見るに、まだ悪夢クラーケンは生きているみたいですねありがとうございました。


「ァアあァ」


案の定、悪夢クラーケンはまだ生きていた。だが、奴も相当ダメージを受けている。ようやく、勝機が見えて…


「ゴシャーーーーーー!」


いきなりアオが仲間の魔物たちにそこから離れるように叫んだ!なんだなんだ、なんだってんだ!?あのタコ、まだ切り札を隠してたってのか!?

しかし、その予想は間違いだったとすぐに判明する。


今まで海では数多くの脅威と鉢合わせてきた。あるときは、危険な魚群と。あるときは、犬の首とタコの触手を持つ妖艶の美少女と。あるときは、龍をも喰らう巨大エイと。あるときは、謎の集団と。あるときは、規格外の大きさを持つ最強の鯨と。


アオが警告を鳴らした脅威はそのどれでもなく、そのどれよりも圧倒的に危険な脅威であった。そう、それは……


「ァあ!?」


「ファ!?」


いきなり、全てを貫くツノが割り込んできた。アオの警告によりなんとか奇襲攻撃は避けることはできたが……すぐに絶望と鉢合わせることになる。


「…dpmgwaw」


この海で最強の存在であり、食物連鎖の頂点。海の魔物についてほとんど知らないサフンですら絶叫するほどの存在。


「ウネリツノじゃないの…!」


この海での戦いは、苛烈を極めることとなる…!!

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