第5話 勇者亡命
甲羅の鎧から鉄の鎧に新調した。メアリからの圧がすごいことになってきたためだ。ちなみに、甲羅の鎧は売った。
「最近は王都での生活にも慣れてきたからな」
強力な仲間、メアリにオリオン、ブライガーにキジクジャクのおかげで戦闘も楽になったのだ。今の全財産は銀貨10枚。オリオンに鉄の剣を持たせ革の鎧を着せれるくらいには余裕がでてきた。本当は甲羅の鎧の方がいいのだが、それはメアリからの反感を買う。
ただ、問題は山積みだ。
例えば、キラーウルフのことだ。キラーウルフに勝つことはできる。勝つことはできるが…
「このまま倒してもギルドから報酬が出ないんだよな」
そう、今の俺は魔物使い。自分の素質を晒せない者をギルドは信頼できない人物だと判断し報酬を出さない。かといって魔物使いであることを話せば差別に怯えることになる。
「魔物使いに対しての偏見、酷すぎる…」
世知辛い世の中だ。ギルドで仲間を募集することはおろか、冒険者カードすら出されていないので俺は冒険者ですらないただのニート。
「この国を出るしかない」
その結論に至った。
「それで僕に相談しにきたってわけだね!」
「そうだよ、亡命先でいいところ教えてくれ」
アキラに情報を買いに行った。銀貨2枚、捨ててやったさ。
「そうだね、ここラグナロクから近いところだと…カリヨネッタとかアカタキとかいいんじゃないかな?」
「そのカリヨネッタとアカタキって国の説明頼む」
「カリヨネッタは魔物使いが多くいる国だそうだよ。高品質な魔物使いの杖もそこで買える。川とかが多い地域だよ。特産品の魚はかなり美味だそうだよ」
「よしよし、決まりだ。早速カリヨネッタに行ってくる」
「待ちなよ、君。ここからカリヨネッタに行くとなるとクロツバサの出現区域を通らないといけないぞ」
「何、クロツバサって」
「黒くて超巨大なコウモリの翼が生えた馬面の蛇だよ。かなり獰猛で危険な生き物だよ」
「うげ…」
クロツバサなんて書いてあるから空を飛んでるのだろう。今の俺の対空戦力はキジクジャクくらいだ。今行ったら間違いなく死ぬわ。
「あ、あー、そう…アカタキは?」
「アカタキは魔物使いにも平等に接してる国だけど、そこまで高品質な魔物使いの杖はないかな。せいぜい15体しか収容できないよ」
「15体も収容できるのか、それで?」
「確か砂漠とかがあった気がするね。あとはドラゴンが住むってされてる火山とかもあるよ」
ドラゴンか…いずれ仲間にはしたいが今は無理だろう。だが、決めた。
「僕たち、私たちはアカタキに行きます!」
「馬車を買えるほどのお金はないから普通にキジクジャクに乗ろう」
俺はアカタキに向け出発する準備をしていた。荷物は金と杖と装備と食料だけだ。それくらいの重さならキジクジャクでも飛べるだろ。
「それにしても、砂漠か…」
砂漠用の装備なんてないから不安なんだけど。まあ、現地調達すればよいだろう。
「それでは、出発!」
俺の亡命の旅が、今始まる。
「うわ…マンティコアだ。やば」
「ニャン」
危険生物がいた。あれは絶対倒せねぇ…
「迂闊しようブライガー、こっちだ」
キジクジャクは今杖の中で休ませ、ブライガーに乗って移動している。山の中にこんなのがいるとは…
「なんかクマが襲ってきた!やべぇ!」
あいつは確か…サーベルベア。ブラッドタイガーよりちょっと弱いくらいの強さだ。それが2体。森の中で遭遇した。
「オリオン、メアリはこいつ!キジクジャク、ブライガーはあいつ!」
戦力を分散させなければならないのが痛いところだ。だが、どちらのクマもレベルが低いみたいで助かった。
俺も新銅の剣やチュウトカゲの毒での目潰しで援護をする。サーベルベアAの前足がメアリ目掛けて振り落とされたが、メアリは甲羅で防御に成功したようだ。多分ドヤ顔してる。うぜぇ。そして後ろからオリオンがゆっくりと近づいている。ブライガー戦のときと同じように奇襲攻撃をするつもりだ。
サーベルベアBはかなり苛立っているようだ。なにせ、自分の攻撃が一切敵に当たらないからだ。ブライガーとキジクジャクの機動力はとんでもないものである。動きが遅いサーベルベアではその動きを捉えることはできないだろう。
そして、両方のサーベルペアが同時に倒れた。仲間にしてもよいのだが、今は素材が欲しい。
そう思ってとどめを刺そうとした。しかし…それはできなかった。
「なんだなんだまたサーベルベアか?…え?」
ナイトメアデスワームだった。
「あ、これダメなヤツだ」
逃げ切りました。
「何あれ…シーサーペント?」
おいおい、湖になんでシーサーペントとかいるんだよ、バカでしょ。普通海にいるもんじゃないんですか?
「それにしても、海か」
いずれは俺も海に出る時があるのだろうか。この世界の海にはどんな化け物がいるんだろ。怖すぎ。
「強行突破ですわ!我に続けですわ!」
「これが本当の分けられた異世界ってわけやな!がはは!」
「これどうやって帰りましょうかね?」
うげ、なんだあれ…
俺は今キジクジャクに乗って空旅をしているんだが、やばいのを見つけてしまった。ここはだめだ、見つからないようにさっさと去るとしよう…
「ついたあああああああ!!!」
数々の苦難を乗り越え、ついにアカタキの国境にたどりついた。今までいた国は少し寒いところだったが、ここは逆に少し暑い。これでやっとまともな異世界転生ものになる…
俺は銀貨5枚を渡して入国する。どういうつもりかこの国、銀貨5枚を渡せば誰でも入国できる。ビザとか身分証明書とかもいらない。
「冒険者はまずみんなこの国に来るって言ってたな…」
アカタキは少量の金で中に入ることができる。ちなみにカリヨネッタは魔物使いならフリーパスらしい。
「そう考えると、俺もカリヨネッタあたりで召喚されたかったな」
確か俺は…ラグナロクだったか。ラグナロクはちゃんと身分証明ができないといけない…はずなんだが、末端が腐ってるからこっちもそれなりの金か品を渡せば自由に入国できる。確かブラッドタイガーの牙を渡して俺は通ったはずだ。
話を戻そう。アカタキは銀貨5枚を渡せば自由に入国できるのだがそのせいかいささか治安が悪い。なのでここに永住する、ってのはあまり良くない判断だ。
「冒険者ギルドで資金を稼ぐ、少しでも高品質な魔物杖を手に入れる、戦力を増強する。この3つが目標だな」
まずは、冒険者ギルドで冒険者カードを発行してもらうことにしよう。
治安が悪いってことで護衛用にオリオンを杖から出しておく。別にこの国では魔物を道路に出しても人を襲わなければ許される。それがこの国なんだとさ。
「ここが冒険者ギルドか」
うげ、タバコの匂いが酷い。なんだここ。
俺は受付のお姉さんに話しかける。
「すみません、冒険者カードの発行をお願いしたいんですが…」
「はい、承りました。冒険者カードですね。まず名前を教えていただけますか?」
とうとう無職脱却の時が来た。
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