キスの後は

「ふぅ・・ん・・・」

唇を放した君は潤んだ瞳を輝かせて。


もう一度。

キスしたくなる誘惑をくれる。


「ねぇ・・・」

僕は少し我慢をして尋ねた。


「どうして・・・?」

もう、何百回も聞いたことなのに。


「ふふ・・・」

君も何百回目かの同じ答えを返す。


「だって、信じていたから・・・」

同じ言葉なのに、その度に熱い気持ちが込み上げる。


「きっと、電話をくれるって・・・」

いたずらな表情に再び唇を重ねてしまった。


※※※※※※※※※※※※※※※


彼女の親友は。

本当に友達想いの人で。


彼女の誤解を解くために。

ひと芝居、うったのでした。


彼女が旅立つのは嘘で。

僕が直ぐに電話をかければ。


僕の本当の想いが伝わると。

彼女を説得してくれていたのです。


噂を否定しきれない彼女は。

親友の言葉通りに、時間通りに電話がくればと了承したのです。


だけど。

あいにく、その時は。


公衆電話をかけるコインが無くて。

僕は途方にくれていたのです。


※※※※※※※※※※※※※※※


「ふふ・・・」

僕の大好きな白い歯がこぼれます。


「本当に良かったね・・・?」

古びたジャケットのポケットを妻となった彼女が裏返しました。


その裏地には。

穴がポッカリとあいています。


「あぁ・・本当に・・・」

僕は今でも奇跡だと思える瞬間を思い出して微笑んだのです。


あの時。

絶望の中、探ったポケットの穴から。


10円玉が。

一つ。


指の先に。

見つかったのでした。


多分。

小銭が紛れて穴から入っていたのでしょうか。


それが。

僕と妻の。


「破れたポケット」の。


今でも思い出に残る。

素敵なエピソードだったのです。

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