2023/12/24 part2


 ネット小説なんかに没頭してた当時の自分と比較すれば、現在絶賛お休み中とはいえ、流石に今の自分の方がはるかに有意義な人生を送っている。


 過去より現在の方がまし、というその事実だけで今の自分を肯定できる。


 あまり褒められた肯定の仕方ではないが、今の自分にはそんな薄暗い肯定が必要なフェーズなのだ──



 ──そう思っていたのに。



「くそっ……なんで……なんで面白いんだよっ!!!」



 過去の俺が書いた与太話が、思いのほか面白い──というかめちゃくちゃ面白い。


 自分が面白いと思ったものを書いているのだから、自分のセンスにバッチリ合うというのもある──だが決してそれだけではない。


 俺の書いた物語はお世辞にも文章力があるなんていい難く、誤字脱字や訳の分からない表現もたくさんある。

 中学生の読書感想文の方がまともな文章を書いてると思う。



 だが──そこには今の俺にはない確かな熱量がある。



 液晶に移される無機質な文字からほとばしる熱と溢れ出す勢いが、いちいち俺の心を揺さぶってくる。

 確かな想いを帯びた物語のページをスクロールする手が止められない。



 ──どうよ? 俺の物語? 面白くね?



 と言わんばかりに、傲慢不遜に一方的に伝えてくるその情熱は、当時は当たり前のように持ち合わせていたのもので──今の俺がいつの間にか失ってしまったもの。


 思わず眩しくて目をそらしたくなるが、物語の続きを望む自分の欲望を止めることはできない。


 そうやって読み進めていくその度に、かつての俺が紡いだ物語と溢れる謎の熱量の全てが、ことごとく今の俺に突き刺さっていく。

 ここ数週間ずっと無気力だった自分の心へ、乱暴に燃料が投下されていく──



「………………っ」


 そして物語を読み終えた時──なんだか釈然としない気持ちがふつふつと湧き上がってきた。


 ──お前、そんなつまんなそうにして、一体どうしちゃったんだよ?


 と、かつての俺が物語を通して俺に延々、それも一方的に講釈を垂れているように思えた。


「…………うるせーなこいつ!!」


 何故か叫ばずにはいられなかった。

 なんだこの……形容し難い敗北感は。


 さっきまで明確に過去の俺を下に見ていたこともあってか、格下に負けたみたいで……悔しさが込み上げてくる。


 ──最後まで読んだ感想は? やっぱ面白かったっしょ?


「くそっ……月間1位取ってたからって偉そうに……!」


 小説のあらすじのところに


 ─────────────────────

 ◆コメディ月間1位感謝◆

 ─────────────────────


 という文言が添えられている。

 残念ながらたしかにポイントも5桁に到達しているので、過去の自分が見栄を張った嘘……というわけではないらしい。



「くそ、俺は絶対こいつに負けてない……負けてないっ!!!」


 過去の自分と張り合っても仕方がないし、不毛なことはわかってる、


 それでも何故か俺は──ということだけは絶対に認めたくなかった。



 なぜ認められないかは上手く言葉にできない。

 そもそもなんで過去の自分に敗北感を感じているのかすら……正直よくわからない。


 けど気にいらないという事実だけで十分だ。

 今はただ──今もなお俺の脳内で勝ち気に語りかけてくるこいつを……とにかく黙らせたい。


 なにかいい手はないか……?



 ……そういえば。


 俺が投稿してたサイトって……なろうだけじゃなかったはずだ。

 たしかカクヨムでも投稿していたはず。


 ノートPCで新しいタブを開いて検索して、カクヨムにアクセスしてみる。


 ブラウザがログイン情報を覚えてくれていたので、ID/PASSに思い出す必要もなくログインすることができた。

 全く記憶のないカクヨムのサイト構造に苦戦しながらも、なんとか自分がなろうに投稿していた同じ作品を発見する。



「……やっぱそうだ。こっちだと全然駄目だったんだよな」


 なろうではジャンル別1位を取ったものの、カクヨムでは自分の作品がハマらなかった記憶がある。


「そうだな……うん……カクヨムでコメディ1位を取って──過去の俺でも越えてみるか……?」



 ──それはただ、なんの気なしに、思いついたことを口にしてみただけだった。



 だけど、自分の口から確かな言葉として、世界に意思を表明したその瞬間──しおれかけの植物に空から雨水が降り注いだかのように、退屈な有給生活の中で自分の心に確かな火が灯る感覚があった。



「…………まじでやってみるか」



 今の自分が支離滅裂な思考回路でおかしな考えをしているのは重々承知。


 でも今は冷静になるよりも──とにかく感情の赴くまま突っ走ってみたい。

 そもそも他にやることないし。

 今ならワンピだって書けそうな気がするぜ──



「──コメディ部門が……カクヨムに存在しないだと……っ!?」


 なんてことだ。

 スタートラインに立つ前に躓いてしまうとは。


 この胸の高鳴りは、過去の俺をねじ伏せたいという衝動から来ているはず。

 だがカクヨムにはコメディ部門がないということは、過去の自分と単純比較することはできないということ。


 ……ならば仕方ない。ここはプランB。

 コメディに該当しそうな別のジャンルでチャレンジするか。


 ・異世界ファンタジー

 ・現代ファンタジー

 ・SF

 ・恋愛

 ・ラブコメ

 ・現代ドラマ

 ・ホラー

 ・ミステリー

 ・エッセイ・ノンフィクション

 ・歴史・時代・伝奇

 ・創作論・評論

 ・詩・童話・その他


 該当しそうなのは……うーん……現代ドラマ、もしくはラブコメだろうか?


 ん? 第9回カクヨムWeb小説コンテスト?


 https://kakuyomu.jp/contests/kakuyomu_web_novel_009/detail


 ふむふむ……どうやら現在コンテストが開催中らしい。


 へーカクヨムってコンテスト中はコンテスト用のランキング作られるんだ……。


 お、”エンタメ総合”ってジャンルがあるじゃん!


 https://kakuyomu.jp/contests/kakuyomu_web_novel_009?contest_category_number=7

(※以前はエンタメ総合の週間ランキング画面でした)


 コメディならこれだろ!

 なになに……”エンタメ総合部門は作品ジャンルがSF、現代ドラマ、ミステリー、歴史・時代・伝奇のいずれかに設定されている作品のみが対象”か。


 なるほど……ならばジャンルはラブコメが消えて、現代ドラマに決まりだな!



 よし……!



 ならば──現代ドラマとエンタメ総合で月間1位を取ろう!



 俺の物語で──このランキングのトップを埋めてやんよ……!!!



 いずみは こんらんしている!

 いずみは わけもわからず ねっとしょうせつのせかいにとびこんだ!


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