第7話
改良に改良を重ね最終個体には喜怒哀楽を表現する機能が搭載されたものの、それすらプログラムされた疑似人格に過ぎない。つまるところ、完璧を追い求めるならば『心』などという非論理的な抽象的概念は必要なかったのである。
「…………ってのが今の現代魔術論なわけだが、お前さっきなんて言った?」
「外に、出たい。そのために、フロアボスを倒して、ほしい……?」
「そう。それはつまり一種の
あれからひとまず場所を移し、アーヴィーは描き上げた魔法陣の中央で消費した魔素を補完しながらアルファの話を聞いていた。頭から薬剤を被ったせいでびしょ濡れになった衣服はアルファが自身の乾燥機能を使って乾かしてくれている。
「……でも、私は最初期個体だから……。他の機巧種より性能が劣るのは、仕方ない」
「何でもかんでもその理屈で見逃してもらえると思うなよ? そもそも今の話は性能の問題じゃねぇだろ」
「…………」
アルファはアーヴィーに論破されたことが不愉快だったのか、露骨に
「まぁ、いい。どうせ俺も、お前には外界までついてきてもらうしかないんだ。とりあえず、詳しい作戦会議は明日でいいか? お前はともかく
「分かった。おやすみ、なさ、い」
「あぁ、おやすみ。
※※※
そして迎えた探索三日目の夜。午前中は魔素の回復に費やし現在はダンジョン内の『鉱山』に足を運んでいる。アルファの話では鉱山の最奥にフロアボスが待ち構える特設フロアがあるらしい。とはいえ、そこまで辿り着くにはまず鉱山に潜むモンスターを討伐しなくてはならない。
「……というわけで。今日の目標はお前の戦闘能力を見極めつつ、必要最低限の連携を取れるようにすることだ。ボス戦はそのあとな」
「ん、頑張る」
「よし。始めるぞ」
アーヴィーは適当な鉱石に魔素を流し鉱山内に足を踏み入れた。ダンジョンのモンスターは視力に頼った狩りはしない。その代わり、獲物から漏れ出る魔素は数百メートル離れた場所でも探知できると言われている。今回はこの特性を逆手に取り、自らの存在を誇示することでモンスターを引き寄せる作戦だった。
「本当に、これでモンスターが騙せるの?」
アルファはやや懐疑的な視線をアーヴィーに向けるものの、アーヴィーは一度頷いて前方を指し示す。
「あぁ。奴らに知能はほとんどない。動く魔素を探知すれば勝手に獲物だと思い込んでくれるのさ。ほら、来るぞ」
「……」
アーヴィーに促され一歩前に出たアルファは膨大な魔素を制御しながら口を開いた。
「
次の瞬間、アルファの手元に集約された魔素は一直線にモンスターを襲い跡形もなく消滅させる。
「…………は?」
あまりの力業にアーヴィーは思わず呆然と呟いていた。まさかただの一節詠唱で数十メートル先のモンスターを吹き飛ばしてしまうとは。現代の魔術師が扱う
「……いやいやいやいやいや。一体何をどうしたらそんな威力になるんだ、おかしいだろ。一節詠唱だったよな? たった一節でこの威力? 現代の魔術師が死に物狂いで編み出した術式は何だったんだ?」
アーヴィーの眼前で繰り広げられた、現代魔術論を凌辱し尽くす惨劇。だがこの現象を引き起こした張本人は、事態の深刻さを理解していないのか可愛らしく小首を傾げる始末。
「これで、いい?」
「……まぁ、確かに威力は文句無しの一級品だが……。他にはどんな魔術が使えるんだ?」
「……使えない」
「…………は?」
アーヴィーはもう何度目かも分からない眩暈を覚えながら辛うじて口を開いた。
「つまり?」
「私には、攻撃に転用できる術式が、一つしか備わっていない。理論的には、あの術式で倒せない敵なんて、いなかったし……」
つまるところ、全生物が防ぎ得ない高出力の魔素を集約してぶつける以外には攻撃の術を持たないということだろうか。
「まさかお前……たった一種類の攻撃呪文でフロアボスを倒すつもりなんて言わないよな?」
「でも、私にはそれしか、できない」
アルファの無機質かつ無慈悲な返答を聞くと同時に、アーヴィーの思考回路は今度こそ完全に停止した。
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