第6話

 森に視野を遮られていても、自衛隊の車列が到着したことはわかる。おそらく、ここからそう遠くない村役場跡地に展開したのだろう。これから三方向に伸びる道路を封鎖するはずだ。となれば、この峠道にも奴らがやってくる。


 ところで、蚯蚓を地面に染み込ませたあと、俺たちはある拾い物をした。神社の鳥居に隠れていた中学生だ。

「名前は?」

「ヒロト」

「では、ヒロトくん。君はここでなにをしていた?」

「逃げてきたんだよ。怖いのが追いかけてきたから」

「足が速いんだな」

「途中までは自転車で……コケたから乗り捨てて」

「ヤツらとはどこで遭遇した?」

「最初からだよ」

「最初とは?」

「颯太んち。友達の」

「こんな時間に遊びに行くとは感心しないな」

「いや、行ったというか。うちに姉ちゃんが帰ってきてて、それで、なんていうか、邪魔だから出かけたんだ。颯太はまだ起きてるだろうと思って」


 要約するとこういうことだ。隣県の信用金庫に就職した十九歳の姉が帰省している。風呂上がりにバスタオル一枚でうろつくのを抗議したところ、思春期をからかわれて腹が立った。家を飛び出し、自転車で颯太の家に向かったのが夜11時ごろ。颯太と合流し、自販機でドリンクを買って、小学校のジャングルジムの上でひとしきり過ごした。話し込んで遅くなってしまったことに気づき、こっそり颯太の家に戻ってみた。寝静まっているようで、颯太は無事に家に戻ったが、いつもなら部屋の窓から手を振ってくれるはずなのに現れない。しばらく待っても現れない。不思議に思って目をこらすと、窓辺になにか黒いものが立っている。それは人間ではなかった。


「それで……自転車で逃げてきたら、途中でまた変なものが向かってきて、やばいと思ってこっちに登ったら、途中でコケて、それで……」

「この鳥居に隠れてたわけか」

 ヒロトの興奮はいくらかおさまってきたようだ。それまで早口で要領を得なかった話し方が、次第にトーンダウンしてきた。

「あの……助けてくれて、ありがとうございます」

 短パンの両脇で小さく拳を握りながら、ヒロトは頭を下げた。

「ねぇ、ヒロトくん」

 それまで蚯蚓の染み込んだ路面を撫でていた瑠華が立ち上がった。

「抜け道、知らないかな?」

「え? 抜け道?」

「そう。この峠道を下っちゃうと、自衛隊とバッティングしちゃうんだよね。別の道で集落の中に入りたいなぁ、なんて」

 瑠華が首をかしげると、ミディアムボブがさらりと揺れた。

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