第44話

 五月二十八日、日曜日。

 魔法生物棟の清掃から戻ってきた桃乃と、俺の部屋で合流する。


「魔法紙はやっぱりリボンの中にあったよ」


 桃乃はローブのポケットから、血が付着した魔法紙を取り出した。


「そうか。桃乃の言った通りだったな」

「魔法紙を常に持っている可能性が高い、って最初に言ったのは掛橋くんだよ」

「いや、桃乃が今田の見た目の変化に気付いていたおかげだ。よくヘアゴムを付け始めた日まで覚えていたな」

「今田さんは可愛くて普段から目立っていたし、髪を結っているのが珍しかったからね」


 テーブルの上に置かれたクラス写真を見ると、確かにこの頃の今田は髪を結っていない。

 今田が事件の真犯人だと気付いた俺達は、最初に魔法紙の隠し場所を考えた。

 遠矢だけが出入りするドラゴンの部屋の物置小屋のように、今田だけが出入りする場所は自分の部屋しかないが、部屋の捜索では魔法紙が出てこなかった。

 同じく身体検査でもローブ、ローファーと魔法紙を隠すことが出来そうな場所からは見つからなかった。

 だが、森などの屋外は候補から排除される。

 森の中は栽培委員が採集活動を頻繁に行っており、見つけられる可能性が出てくる。

 中庭、グラウンドであってもリスクがあることに変わりはない。

 自分の目の届く範囲で管理が出来る、且つ誰にも奪うことが出来ない場所を考えると、やはり常に携帯しておくのが一番確実だ。

 消去法で考えた時に残ったのが事件の翌日から付け始めたヘアゴムのリボンの中だった。


「今田に怪しまれなかったか?」

「うん。それよりだいぶ怒っているみたいだったから……。魔法紙を取り返したこと、絵梨香ちゃんにも報告する?」

「いや、報告するのは全部が終わってからにしよう。俺が転生者だということは話していないんだ。血が付いた魔法紙を見せるわけにはいかない」

「分かった。じゃあ、明日私が魔法紙を返しに行く時に、一緒に伝えておくよ」

「ああ、それで頼む」


 今朝、俺は琴羽から転生魔法の魔法紙のレプリカを借りた。

 犯人が今田とは伝えていないが、事件を解決するために必要だと話すと何も聞かずに協力をしてくれた。

 桃乃はそのレプリカを使って、魔法生物棟の清掃中に今田から魔法紙を取り返した。

 必要だったのは今田がヘアゴムを外すような状況。

 そのために桃乃は今田の髪を汚し、シャワー室へと連れて行った。

 今田がシャワーを浴びている間に更衣室に入り、ナイフを使ってヘアゴムの中から魔法紙を取り出す。

 血が付着している本物の魔法紙と同じように、錯視魔法を使ってレプリカに血が付着しているように見せる。

 そして、ヘアゴムの中にそのレプリカを戻した後、復元魔法を使って裂いた痕跡を消す。

 これなら今田が部屋に戻ってヘアゴムを確認しても、すり替えられたことに気付くことはない。


「レプリカに錯視魔法をかけたのは何時頃だ?」

「十二時過ぎ。予定通り昼休みに呼び出して大丈夫だと思う」

「ありがとう。桃乃一人に色々と頼んで悪かったな」

「ううん。明日は私に出来ることはなさそうだから」


 俺が今田を呼び出した時には、錯視魔法の二十四時間の効力が切れ、血は消えている。

 今田はレプリカの存在を知らない。

 だから、血だけが消えている魔法紙を見て動揺するはずだ。

 転生魔法が解除されたと信じ込ませるために、俺は明日、この世界の俺のフリをする。

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