第38話
それならば、この世界の俺が気付けなかった、見落としていた部分にこそ、真犯人へと繋がる糸口があるのではないか。
「どうしたの?」
「……俺達が一番最初に抱えた疑問はまだ残っているよな?」
「最初?」
「南川とリュクスを倒した魔法のことだ」
「マギフェスの『貫通』と『斬撃』が使われたんじゃなかったっけ?」
この世界の俺は南川とリュクスに使用された攻撃魔法から、三年生の中に犯人がいると考えつつも、最終的には「動機」から遠矢を犯人だと判断した。
なら、禁書庫前で起きた襲撃の中に真犯人の痕跡があるかもしれない。
物置小屋から魔法紙を持ち出すことに駆られ、あまり気に留めてはいなかったが、リュクスを見て覚えた微細な違和感をそのまま桃乃に告げる。
「今日初めて見たが、リュクスの傷はもう完治していた。それくらいの軽傷だったなら、本当に攻撃魔法で倒れたのか──」
「ま、待って」
桃乃は俺の言葉を遮り、確かめるようにして再び口を開く。
「私も今日初めてリュクスの様子を見たけど……傷はいくつか残っていたよ。見てすぐに分かるような傷だったから、見間違えることはないと思う」
「聞くが、その傷はどこにあった?」
「一番目立つ場所だと、額の辺りかな」
「俺が見た限りでは、そんな傷はなかったぞ……」
「本当に? 翼や胸の辺りにも傷は残っていたよ」
桃乃だけではなく他の生徒からもリュクスの傷の具合は聞いていた。
だからこそ、傷のないリュクスを見て違和感を抱いたのだ。
これが単なる俺の見間違いでなければ……一つの可能性が浮かび上がる。
そして、その可能性から遡及していけば特定のある生徒へと辿り着く。
ふと顔を横へ向けると、医務室の窓に自分の姿が反射していた。
「周りを見てばかりでは自分のことが見えなくなる、か──」
「何か分かったの……?」
俺は一度だけ視線を落とし、不安げな表情の桃乃へと向き直る。
「この事件の発端は桃乃じゃなく、この世界の俺にあったのかもしれない」
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