第24話

 二人で黙々と掃き続け、エントランスホールの掃除は三十分程度で終了した。

 次は何をするのか早稲田に確認をしようとしたタイミングで、ドラゴンの部屋の扉が開いた。出てきた遠矢の手には大きな皮袋が握られている。それを部屋の前に放り出すと、すぐに遠矢は中へ戻って行った。


「あの袋は何ですか?」


 皮袋は黄土色をしており、俺の半分ほどの大きさがある。


「あの中には、魔法生物の排泄物が入ってるから気を付けて」

「もしかして俺達があれを捨てるんですか?」


 他の部屋からも続々と皮袋が放り出されて行く。

 一つの部屋につき一つではなく、頭数が多い部屋は、それ相応の数の皮袋があるようだ。


「うん。重いから結構な運動になると思うよ」

「……シャワー室があるのは、汗を落とすためではなく、すぐに汚れを落とせるように、ってことですか?」

「よく分かったね。魔法生物の唾液や糞は、人間に有害だから触ってしまったらすぐに落とさないと大変なことになるの。汚れなくても臭いが気になったら、全然使って大丈夫だよ」


 ゴム手袋、フェイスガードなどの有無を聞こうと思ったが、早稲田が着用していないということは存在しないのだろう。こういうことにこそ魔法を使用するべきではなかろうか。

 その後、一つずつ慎重に外の焼却炉へと運び、早稲田が篝火魔法を唱えたところで、全ての皮袋の処分が完了。

 最後に魔法生物棟周辺の掃除を丁寧に行い、全てが終わったのは十二時頃だった。

 遠矢が部屋から出てくることは最後までなく、俺は十三時からの約束に備えてシャワー室を使い、魔法生物棟を後にした。




 俺が戻ると部屋の前には桃乃が立っており、そのまま一緒に中へ入った。

 木ノ内が来るまで十数分ほど時間がある。


「清掃はどうだった?」

「どこの世界も掃除っていうのは等しく大変だ、って思ったかな」

「あの皮袋の臭いはなかなかキツイもんね」

「まさか本当は、それが嫌で清掃に来なかったのか?」

「違うよ。校長に呼び出されたから行けなかったの」


 これまでの桃乃の行動を振り返る。俺の単独行動を心配する桃乃は基本的に行動を共にすることを心掛けている。

 実際、水曜日の放課後は早稲田と二人になることに反対し、夜は校長への業務報告に同行させた。今ここにいるのも、木ノ内への牽制が理由だ。

 であれば、今朝俺が「一人で清掃に行く」と言った時に止めなかったのは何故か。それは校長からの呼び出しというのが嘘で、止めれば俺を同行させ嘘がバレてしまうからだ。

 だからこそ、俺は今朝の発言が嘘だと分かった。


「来週は来られそうか?」

「うん……そうだね。今のところは大丈夫だよ」


 調合学の授業後に桃乃が言っていた個人的な理由こそが、今回清掃に参加しなかった本当の理由だろう。俺は改めて桃乃に向き直る。


「桃乃──」

「掛橋、いる?」


 扉をノックする音と共に、木ノ内の声が部屋に届く。

 約束の時間より早いが、居留守を使う理由も特にない。

 俺は話すのを止め、桃乃と一緒に玄関へと向かう。


「実栞ちゃんの話が事件に関係するものだったら、ちゃんと教えてね」

「分かった。また話そう」

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