第20話

 魔法史学の授業では、魔法が誕生してからの世界の歴史、それに伴い生み出されてきた魔法の成り立ちを学ぶ。

 そのため魔法史学の教科書には禁術魔法の一覧、それぞれの魔法紙が載っている。

 その内の一つの禁術魔法の成り立ちを、今日の授業では学ぶ。

 始業前の講義室はいつもより静かで、雑談をするような生徒はいない。

 しばらく経つと、教員が講義室の扉を開け入ってきた。

 魔法史学の教科書、そして見覚えのない魔法紙を脇に抱えている。


「あれは?」


 隣に座る桃乃に尋ねる。


「あれって?」

「教科書と一緒に抱えられている魔法紙だ」

「ああ、あれは今日教わる禁術魔法の魔法紙だよ。授業では実際に魔法紙を扱うんだ。禁術魔法だから唱えたりはしないけどね」


 教科書を開くと、確かに同じ模様をした魔法紙が載っている。

 教室に漂っていた緊張感はこれが原因か。

 それほど、この世界では禁術魔法というものが危険視されているということだ。


「それがどうかしたの?」

「いや……」


 孵化した雛は初めて目にした動くものを母親だと思う。

 昔、テレビで観た映像では、雛が一人の成人男性に追従しており、感心した記憶がある。

 それは「刷り込み」という学習の一形式だと高校生になって知った。

 人間にはそういった刷り込みはないらしいが「思い込み」と少し似ていると思う。

 思い込みは誰にでもある。全てのことに疑問を感じていてはキリがないからだ。

 右を右だと教えてもらって、本当に右なのかと考える人はほとんどいないだろう。

 だから、俺が桃乃と同じようにこの学校に一年前入学していたなら、今のような違和感を抱いていなかったはずだ。


「桃乃、この授業が終わったら俺に付いてきてくれ」

「何か分かったんだね」

「大したことじゃないが、一つ気付いたことがある。それを確かめたい」


 頷く桃乃を前に俺は大きく息をついた。

 煩わしさからではなく、俺なりの決意を込めて。

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