第14話
「返却はされていません」
「無理だとは思うが、貸し出しの予約とかは──」
「出来ません」
寮に戻る前に転生魔法の関連書の返却を確かめに来たが、予想通りの結果に終わる。
目の前の琴羽は昨日、一昨日と全く同じ声色で事務的な返事をするのみだ。
「……話は変わるが、記憶を無くす前、俺は同じように図書館に来ていなかったか?」
「すみません、仕事があるので私は戻ります」
貸し出しカウンターの奥にある部屋の鍵を開けて、琴羽は入っていく。
この世界の俺が事件の手がかりを握っていたことから、琴羽を通して南川の証言を得ていたと思ったが、ここで聞くのは難しいか。
琴羽ではなく、校長から聞き出した可能性もあるだろうが、俺の正体がバレてはいけない状況下でこちらから接触するべきではないだろう。
「どうすればいいんだ……」
今、部屋に戻っても考えはまとまりそうにない。
閉館の十九時まで後一時間弱ある。少し見て回ろうと、俺は二階へ行くことにした。
二階は主に試験勉強で使う参考書が置かれているとのことで、まだ足を運んでいない。
螺旋階段へ向かおうとすると、昨日と同じようにソファで漫画らしき本を読んでいる風野宮を見つける。近付くと、読んでいた本はやはり漫画のようだ。
巻数は六十二、なかなかの長編らしい。
本に熱中しているのか、こちらには気が付いていない。
その後ろを通ると、ファスナーが大きく開いていたせいか、バッグの中身が目に入った。
意図せずだったが、人のプライバシーを侵害したような妙な罪悪感を覚え、俺はすぐにその場を離れた。
四階まで一通り見て回ったが、やはり手がかりになりそうな本は見つからなかった。そもそも何が何の本なのかすらあまり分からない。
図書委員は基本的に一階に常駐しており、本の説明を受けるために毎回戻るのも億劫だったため、ただただ各フロアを徘徊する時間となった。一階へ戻り、時計を確認する。
閉館まで後三十分だというのに、まだ多くの生徒が図書館内にいた。俺は無意識に風野宮を探していたのか、貸し出しカウンターで本を借りようとする姿を見つけた。
手続きは琴羽が行っている。
先程読んでいた漫画の続きだろう。表紙のデザインは違うが、同じキャラクターが描かれている。巻数は六十三。
俺がこの世界の風野宮と友達だったなら、同じように漫画を読んで時間を潰していたかもしれないな。
そんなことを思い、図書館の出口に向かおうとすると、後ろからドサッという音が聞こえた。
「──どうして」
振り向くと、バッグを落とした風野宮が呆然と立ち尽くしている。
暫くの間を置き、琴羽が声をかけた。
「どうかしましたか?」
「……い、いや! 何でもない」
急いでバッグを拾い、風野宮がその場を立ち去ろうとした時、俺の視界の横を人影が掠めた。
「待って下さい」
現れたのは調査員の新飼渚沙だった。
「な、なんですか」
「二年B組の風野宮翔平くんですよね?」
「……それがどうかしたんですか」
「バッグの中身を見せてもらいますね」
「いや──」
「ここで拒否しても結果は変わりませんよ」
館内は静まり返り、談笑や読書に没頭していた生徒達の視線が風野宮に集まる。
諦観した様子の風野宮は胸に抱え込んでいたバッグを新飼にゆっくりと手渡した。
「失礼します」
中を探り、新飼は一枚の紙を取り出す。
「何故ここに転生魔法の魔法紙があるんですか?」
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