第18話「夏だ!海だ!アトランティスだ!太陽に吼えろ渦巻き砦ドロップキック(辛口)」


今までのあらすじ:夏休みを利用してこっそり海へ遊びに来たあや達。しかし彼女らは風紀委員からの刺客につけられていた。その刺客、水泳部副部長「神田 みずき」は、海にいるあやとさゆ、上空にいる烈火へ同時に攻撃を繰り出し、戦闘を優位に進めていく。どうするあや達!



「ぶくぶくぶく」


 水獣からの攻撃をまともに受けたあやが、海面へ情けなく浮かんできた。


「ああもうしっかりしろ!」


 烈火はあやを抱き抱え、再び水の獣と対峙する。


「GRUUUUU!!!」


 未だ無傷の獣は、唸り声を上げて大口を開き、何かを発射する準備を始めた。


「来るなら来い!!」


 正面へ熱い啖呵を切る烈火だが、その反面、背中には冷たい汗がつたっていた。

 炎を使った攻撃は効き目が薄く、翼は損傷して逃れることも難しい……!


『GOW!!』


 万事休す!


____


 一方その頃、水中では。


「まだまだ行くよさゆちゃんッ!」


「くっ……!!」


さゆとみずきの勝負は、さゆの劣勢となっていた。

 みずきが繰り出す幻想的とも表現できるような多彩な攻撃に、さゆは鎧やランスで致命的なダメージこそ避けるものの、全く攻勢に転じれない。


 そして、通常の戦闘であれば致命的な攻撃を喰らったとしても、さゆは衣服を犠牲にしてそのダメージを無かったことにできるのだが、水中戦ではそうもいかない。

 今は西園寺が持つ「黒曜石の騎士」の力を借りて水中呼吸を補助しているために、ダメージの無効化でもしも鎧が脱げてしまえば、万に一つも勝ち目が無くなってしまうのだ。


「主水-小石川」


 みずきは目を瞑り、笏を動かしながらそう唱える。

 周りの水が呼応するかのように動き、彼女の周囲に水流を駆使して浮かせた小石が漂い始める。

 それを見たさゆは思わず戦慄した。


(((この数を同時に飛ばされたら、とても躱しきれない)))


 さゆはランスを力無く構えるが、体力も削られ、近付こうにも自身を包む水自体がみずきへの強固な壁として機能しており、攻勢に転じることも難しい。


「準備はいいかな?」


 みずきは不適な笑みと共に、口元へ笏を優雅に当てた。その瞬間、小石が凄まじい勢いでさゆへと迫っていく。


「!」


 さゆは槍を使って弾いたり、身体をくねらせて避けようとするが、いくつかの石が鎧に当たり砕けていく。

 そして、ついに剥き出しの腹部へ石が当たろうとしたその時。


「っ?」


 身体が不意に左へ動き、当たるはずだった石は背後へと流れていった。さゆの意思ではない。


(((……?そういえば……なんだか身体が……)))


 その時さゆは初めて、己の身体が何もしなくとも左へと流されていることに気付いた。


 戦闘を開始する前、ランスによってみずきの変身衣装に傷を付けていたことによって、彼女の水流操作に僅かな誤差が生じている。みずきを中心に、渦巻き状の流れができているのだ。


 みずき自身はこの異変に気付いていない。彼女のいる渦の中心は、台風の目のように無流地帯になっているためか。


 で、あるならば。


 これはチャンスである。


「……!」


 さゆの目が、決断の想いに見開かれた。


____


 再び戻って今度は海上!


『BOW!!!!!!!!』


「うおっと!」


 烈火は海へ潜り、獣が放った水のビームを寸前で避けた。

 透かされたビームはそびえる水壁に当たって霧散し、水飛沫が獣の視界を一時的に塞ぐ。


『GOW!?』


 烈火はその間にあやを抱えたまま、背中の翼をオールのように使って水中を進み、水獣から距離をとった。


「ごぼごぼごぼ(((烈火さん、上へ)))」


 あやは何やら言葉を言っているが、口から気泡が出ているのみで言語になっていない。なので、お嬢様テレパシーで会話を試みている。


(((上って……この城を登るのか?))))烈火は訊く。


「ごぼ(((ええ)))」


(((分かった)))


「ごぼごぼごぼごごごぼごぼ(((すみませんわね、おぶってもらって)))」


(((なぁ、テレパシーなんだから口を動かす必要なくないか?))))


「ごぼ(((ごぼ)))」


(((……)))


 あやは頷き、烈火はそれ以上ツッコむのを辞めた。


 そして暫く経ったあと。


『WAON……?』


 烈火を見失った獣が辺りを見回していると、突然、水の城の頂点から大きな水飛沫が上がった。


『BOW!!!』


 獣は咆哮を上げて振り向くと、遥か上空を金髪のビキニお嬢様が飛んでいた。


「食らえですわーーーっ!!お嬢様ドロップキーッック!!!」


 あやは三度ほど縦にくるくると回転すると、飛び蹴りの姿勢を作って獣めがけて急速に落下した。


『BOW』


 水の獣は冷静に、大口を開けて落ちてくるあやを待った。


「え」


 あやはドロップキック姿勢のまま水の獣に……食べられた。


「……あや」

 

 水壁から顔を出して事の顛末を見守っていた烈火は、ここでようやくあやの意図を汲み取る。


(((私が「時間があれば」って言ったから、何度も無茶な真似を……)))


「だが、食われて身体に取り込まれちゃ私の作戦も使えな……」


 その瞬間!


『CAWWWN!?!?!?』


 突然苦しみ始める水の獣!


「なんだ!?」


「うおーーーーーっ!!!」


 見れば、あやが水獣の背中から上半身を出して雄叫びを上げていた。


「な」


 烈火はその時、信じられない光景を目にした。

 いかなる原理を利用したのかは不明だが、あやはなんと、水獣の身体の主導権を無理やり体内から握ろうとしていたのである。


『GAW!?!?GAW!?!?』


 水獣は水壁に身体をぶつけたり海表を転がったり飛び跳ねたりして抵抗するが、あやは鬼の形相でしがみつき、離れない。

 まるでカウボーイのように、振り回されながらも獣を次第に乗りこなすあや。


 さらに獣が暴れた影響で、元から削られていた水の城は急速に型を崩していく。

 勝負の流れが今、変わろうとしていた。


____


(((上で何か……起こってる?)))


 海表で起こっている異変をいち早く察知したのはみずきであった。


(((間違いない、あの子暴れてるな?苦戦してるのかも……)))


 みずきは水流カッターによる攻撃を波状的にさゆへ浴びせ続けながら、少しだけ意識を海表に集中させる。


(((えーと、ん?何これ、城がボロボロに……。それだけじゃない。獣の意識が乗っ取られかけてる?あやって子、タダモノじゃないのは知ってたけど……それに鳳凰院は……)))


 しかし色々と情報が錯綜していたため、予想よりも長い時間意識を深く投影せざるおえなかった。

 そして、この小さな狂いが勝負の行方を決定づけることになる。


「……えっ?」


 みずきが意識を戻す。

 

 眼前にさゆがいた。


「!?」


 みずきは驚いて目を見開く。”目の前までさゆが来た”こと自体は別にいい。水流カッターを浴びせ続けようが、彼女の機動力ならいずれは掻い潜ってこちらまで到達するだろうとは考えていた。

 そうなればそうなればで、さゆの攻撃を回避してまた距離をとり、持久戦に持ち込めば負けることはないのだ。


 しかし、これは、早すぎる!


「ちょっ」


 さゆにランスを振るわれ、みずきは咄嗟に笏で受ける。結果として笏は粉々に破壊され、みずきは水流のコントロール手段を失った。


「……」

 

 さゆは言葉も無く、決意に満ちた瞳でばらばらになった笏に一瞥する……。


____


 さらに戻って今度は海表!


「もういい!あや!離れろ!!」


 烈火は炎の翼を再び燃やし、なんとか空へ飛び上がりながら、未だ獣を乗りこなそうと奮闘するあやへ声をかけた。


『GOOOW!!!!』


「きょわ〜!」


 荒ぶる水獣が大きく前に倒れ込み、その勢いであやは外へ放り出されてしまう。

 ざっぱーんと飛沫を上げて遥か遠くの海面に落ちるあや。


『GRUUU!!!』


 獣は抑えられない怒りを露わにしてあやへ飛びかかろうとした。


 その時だった!


「よぉぉぉーーっくやった!!!いい位置に起きたなぁあや!!!時は……満ちた!!!」



 カンカンと煌めく太陽は先ほどより一段と大きくなっている。否、実はそれは、太陽ではない!


 烈火は海に落とされる少し前から、空に小さな火球を放っていた。それは空中にとどまり、太陽の力を受けて大きく大きく育つようにしていたのである。

 つまり、先ほどまであや達を照らしていた空の太陽だと思っていたものは、実は烈火の火球だったのだ。


『BOW……!?』


 水獣はただならぬ気配に振り向いて空を見上げる。烈火は既に巨大な火球を水獣へ落としたあとだった。


『GOW』


 迫り来る火球。

 水獣は最期に一鳴きすると、俯いて水の中にいる主人に思いを馳せていた。


 そして全てが――

           白に染まった。





         続く!

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