第13話「つちのこ」ほか2本(超豪華!)

第十三話「つちのこ」


「さゆさんっ!!今日は完璧で究極なツチノコを探しますわよ〜〜〜〜!!!!!」


 放課後を告げるチャイムにも負けない声量で、早乙女あやは片手を高く振り上げて言った。


「あやちゃんツチノコって何か知ってるの?」


 帰りの準備を終えたさゆは学生鞄を持ちながら、当然の疑問を口にする。

 あやは答えた。


「知らない!」


         完






第十三・一話「つちのこ2」



「ツチノコっていうのはね……」


 帰り道。さゆとあやは並んで話をしながら歩いていた。


 あやは虫取り少年のように麦わら帽子と虫籠、そして網を装備し、ふんすふんすと鼻息を荒くしてさゆの説明に集中している。


「UMAって呼ばれる未確認生命体で、ヘビに似た身体と……」


 さゆがそう言ったタイミングで、彼女の前方の視界にある住宅街の曲がり角から、ヘビの頭がちょうど姿を現した。


「あとお腹がぽっこりと膨らんでて……」


 ヘビは前進し、身体が見えていくと、お腹に当たる部分がぽっこりと平べったく膨らんでいるのが分かった。

 さゆはジト目になりつつ説明を続ける。


「……しっぽはアルティメットつよつよボルテックドラゴンに似てる」


 ヘビはさらに前進し、姿の全貌がようやく見える。


 異形な尻尾をしていた。


 詳しく説明すると、明らかに上半身までのツチノコフォルムには似合わないドデカとげとげ尻尾を付けていた。


「あら!?ツチノコですわ!!!?」


 あやは目の前に現れたツチノコ(?)に驚いて声を上げる。


「……ちなみに今の嘘だよ。ねこさん」


 さゆは冷ややかな声で現れたツチノコ(?)に告げた。


「ギクッ」


 ツチノコ(?)はその言葉を聞いて身体をびくりと反応させると、がちがちとからくり人形のように首を回してさゆを見る。


「よく気付いたな……」ツチノコ(ねこ)は言った。


「タイミング良すぎるもん」さゆは呆れていた。


「ツチノコ覚悟ーーーッ!!!!」


 だがあやは、違った!


「えッおじょッ」


 ツチノコ(ねこ)が弁明をするよりも遥かに早く、あやはインファイトの距離まで既に潜り込んできていた。


「その瞳がッその言葉がッ!嘘でもそれは完全なパーーーーーーーーンチッ!!!!」


「アーーーーーーーーーイッ!?!?!……」


 遥か遠くへ吹っ飛んでいくツチノコ(ねこ)。


 彼は飛んで、さらに飛んで、もっと飛んで、地平線の向こうまで放物線を描き続ける……。



 ドンガラガッシャァーン!!!



 いつまでそうしていたのだろう。

 破壊的な衝撃音が、彼の空の旅の終わりを唐突に告げた。


「……う……」


 瓦礫と砂埃と化した建物の残骸の中で、ツチノコ(ねこ)は目を覚ます。


「ここは……ぁあ、痛え……」


 ツチノコ(ねこ)は変身したまま、とりあえず身体を起こそうとしたが、痛みでそれどころではなかった。


(((う……傷はおもったよりも……というか、ここは何処だ?今は何時で、ここは……)))


『こ……のこの……』


(((?…‥何か聞こえる……??)))


 混濁した意識のなか、何か鳴き声のような音が聞こえる。ツチノコ(ねこ)はとりあえず周囲を確認しようと顔を上げた。


(((え……?)))


 そこにいたのは自分と同じ、いや、少し違う動物の姿だった。ヘビのような頭部。腹は平たく膨らんでいて、服のようなものを着ているのが特徴的だった。


「「や、やっぱり……」」


 謎の生物たちはわなわなと震えて声を絞り出した。意外にも明瞭な言葉を喋るようだ。周りを見れば、他にも同じ姿をした動物がたくさんツチノコ(ねこ)を取り囲んでいる。


(((な、なんだ……?とりあえず、説明を……)))


「おい、俺は」


 ツチノコ(ねこ)は口を開く。しかし、その声は謎の生物……いや、ツチノコたちの大声に、かき消されてしまうのだった。


「「「……ツチノコ神さまだーーーー!!!!」」」





「え?」







第十三・二話「おいでよツチノコの村」



 俺はねこ。


 ねこって言ってるが、猫じゃねえ。


 でも、俺はねこ。


 それで猫じゃなかったら、なんなんだって話だよな。


 知らねえ。


 ただ気付いたら俺は捨てられていて


 それを拾ってくれたお嬢のとこで気ままにやってるだけだ。


 自分は何の動物なんだ?犬?猫?鳥?怪獣?化物?未確認生命体?


 知らねえ。


 でも、俺は生きている。


_____


 


「のこ!おはようございますわ!」「のこのこ!お元気?」

「のこ!今日はいい天気!」「のこのこ……」


「ふぁ……もう朝か……」


 ツチノコ達の声で目を覚ました俺は、藁のベッドからのそりと起き上がる。

 ここは村の中央に位置する『ツチノコ神社』の本殿。元々は誰も住んでいなかったらしく、内装はボロいが、ダンボールの中で生活していたあの頃に比べればマシではある。


 秘境「つちのこ村」。

 驚くかもしれないが、ここには野生のツチノコたちが大勢暮らしている。


「もしもし、起きていられますか?」


 起床してから十分ほど経ったあと、メイド服を着たツチノコが部屋を仕切る襖を器用に頭を使って開けて入ってきた。


「おはようございます。ツチノコ神(しん)様」


「おはようさん」


 ”ツチノコ神”とは、言わずもがな俺のことである。

 あの日、お嬢にぶっ飛ばされてはるばるこの村へ不時着した俺は、ツチノコ変身形態のままだったことが幸いし、仲間と認識された。

 だが、東風さゆの言葉に乗らされて尻尾をつよつよドラゴンみたいにしていたせいで、奴らは俺をこの村に伝わる守護神「ツチノコ神」と勘違いしたらしい。


 それで住処に神社を用意され、そこそこ厚遇されて暮らしているって、そういうわけだ。


「傷の調子はどうでしょう?」


「あぁ、ちっとは痛むが治ってきてる。こんなことは慣れっこだからな」


 メイドツチノコは朝食が乗ったティートローリー(滑車の付いたティーテーブル)を身体でよいしょと押して、俺のいるベッドまで運んできた。

 彼女の名前はメイ。ツチノコ村の村長の一人娘らしい。


 なぜメイド姿?と疑問を持った読者に説明しておこう。


 ツチノコ村は昔から役割分担をしてきたらしく、他のノコたち(人の代わりにノコと呼ぶようだ)をお手伝いするのが好きな者は”メイド”へ、そんなメイドにお世話されつつ実務をしたりして村を豊かにするために尽力する”ご主人様”の二つに分かれて暮らしている。


 メイは優秀なご主人様である村長の娘であったが、メイドとしての才覚にとても優れていたため、こちらの道を選んだようだ。

 実際、尻尾を器用に使ってティーカップに紅茶を注ぐメイの顔はとても活き活きとしているように見えた。


「ありがとう、メイ」


「いえいえ、これもメイドの務めです」


 注がれた紅茶を飲み、つよつよドラゴンのように大きなしっぽに付いた傷を確かめる。


(((ここに来てから、もう一週間か……)))


 ツチノコ村に撃墜したときに負った傷は、打ちどころが悪く頑丈な俺でも少し響いた。

 最初は村からすぐに出ていこうとしたが、上手く動けず山を下れないため、治るまでここの世話になっている。


「今日もお外には出られないのですか?」


「あぁ。体調は悪くないんだが、傷も速く治したいからな……」


「そうですか……すみません」


 その後会話は続かず、しばらくの間沈黙が流れた。

 メイはお盆を尻尾で抱え、何か言いたそうにもじもじとしている。


「どうした?」俺は思いきってきいてみた。メイは少し引っ込み思案なようで、人の顔色が気になって言いたいことを隠してしまうことがある。


「……ツチノコ神さまは、傷がよくなったらここから出て行かれるんですよね?」


「まぁな」


「私、この村が大好きなんです」


 メイは、控えめながらも力強く語り始めた。


「みんな優しくて、元気で、頑張って暮らしてて……それも全部、ツチノコ神さまが見守ってくれてるおかげだって、お母様に教えてもらったんです」


「だから、この村の良いところを見てもらいたくて!……あ、ごめんなさい。一人で勝手に……」


 熱くなってしまった事に自分で気付き、メイは恥ずかしそうに俯いて喋るのを辞めてしまった。

 そんな彼女に対して俺がするべき行動など、一つしかない。


「じゃあ、いくか」


「えっ?」メイはぱっと顔を上げた。


「あぁ。みんなに改めてお礼も言いたかったしな」


「あ、ああありがとうございますっ!」


「そうだな。お昼になったら……」


 そう言いながら紅茶を注ごうとティーポットに尻尾を伸ばした時だった。


「お」


 ちょうどメイもポットを持とうと思ったらしく、偶然、お互いの尻尾が触れ合ってしまった。


「あっ」メイはびっくりして小さく声をあげる。


「「……」」


 反射的にお互い手を引っ込め、暫くの間、俺はメイを、メイは俺を見つめていた。


「……お昼になったら、一緒に来てくれるか」


「あ、あ、はい!お供させていただきます!」


 しどろもどろになりながら了承してくれたメイの顔は、少し紅くなっているような気がした。


____


 神社の裏口となっている扉を開くと、梅雨を越えた七月の日差しが力強く差し込んでくる。

 初夏を思わせる初々しい熱気は、活力を身体に吹き込んでくるようで、暑いどころか気分が良かった。


 眩しい太陽に目を少し閉じ、地面に蛇の腹を付ける。その後は視界の隅を飛んでいた銀色の蝶を眺めたり、村から聞こえるツチノコたちの鳴き声に耳を澄ませたりして時間を潰した。


 暫くすると、可愛らしい声が遠くから俺を呼びかけた。


「お待たせいたしました〜っ」


 声の方を見ると、メイが小走りでこちらへ向かって来ていた。彼女はいつものメイド服ではなく、頭に純白の麦わら帽子を被ったワンピース姿である。


 正直、可愛い。


「すみません、着るのに少し時間がかかって……メイド服は後ろのファスナーで締めるだけなので楽なんですけど……」


「大して待ってねえぜ。さ、行こう」


「はい!」


_____



 ――その頃、早乙女家地下施設にて。



「わーーー……」


 薄暗い照明。壁一面に取り付けられた大小さまざまなモニター。規則的に並べられたパソコンデスクに座ってキーボードを一心不乱に叩き続ける眼鏡スーツの使用人たち。

 そんなタイピング音と機械のファンが常にこだまする異様な空間へ、さゆは来ていた。


「あやちゃん、ここは一体……?」


 さゆは隣のあやへきく。

 あやはウインクして答えた。


「ツチノコ大捜査線――☆」 


「先週の話こんな大事になってたの!?」


 さゆは驚く。先週ツチノコがどうのと言い出してから全く音沙汰が無かったため、すっかり忘れていたのだと思っていた。


「そりゃもう全勢力を掲げたり掲げなかったりですわよ!ちなみにお父様にバレたらヤバい」

 

「バレたらヤバいの!?!」


 さゆはさらに驚愕した。どう上手くやってもバレるだろうに!


「主人にはとっくに伝わっておりますよ。バカお嬢様」


 と、その時。


「ひゅいっ?」


 突然低い美声が会話に入ってきたので、さゆがまたまた驚いて後ろへ振り向くと、執事の黒いそぎんちゃくがいつの間にかそこに立っている。


「あら黒いそぎんちゃく。お父様はなんて?」


 慣れているのか、驚きもせずあやは言った。執事は目を瞑りながら答える。


「五秒だけめちゃくちゃ怒ったあと「ツチノコ見たくね?」となり、静観する方針にしたようです」


「よっしゃあ!!」


 拳を上げて全力で喜ぶあや。

 こうして、早乙女家主導でのツチノコ捜索は幕を開けたのである。


「……そういえばねこさん。最近見ないなぁ」

 

 ツチノコ捕獲へ沸き立つあや達の中、さゆはひとり、どこかへ飛ばされて消息を絶ってしまったねこの姿をひっそりと思い浮かべていた。


_____



「見つかったか」


「ええ、偵察用のロボットが遂にそれらしき集落を……」


「よし。奴らがいるということは、無論”泉”も近くにあるのだろう」


「忌々しいツチノコモドキ共め。証拠は全て抹消せねば……」

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