第6話「グランドすごいよ学園は白黒はっきり付けパンダッ!? 〜不死鳥vsお巡りさん〜」

第六話「グランドすごいよ学園は白黒はっきり付けパンダッ!? 〜不死鳥vsお巡りさん〜」


 

「捕縛ッ!!」


 コートから取り出した新たな光の手錠を、さだめは恐るべき瞬発力で素早く投げつけた。


「そんなもんに引っかかるかよ!」


 それに対して烈火は余裕の笑みを見せる。背中から炎の羽根が爆発するように生え、彼女は空中高く舞い上がった。

 投げつけられた手錠は虚しくも空を掴む……かに思えたが!


「無駄です」


 ニヤリと笑うさだめ。すると伸びる鎖手錠に電流がばちばちとみなぎり、下降線を描く軌道は突然曲がる!急激な上昇線を描いた手錠は、空中の烈火へと一直線で向かった!


「なッ!?」


 これは避けきれない!足首をがちりと捕えられ、烈火の体勢が揺らぐ。


「私は手錠を投げた時に、何パターンもあなたの行動を想定していました。今あなたがとった行動もそのひとつ」


 さだめはこの機に乗じて、使っていない手で軍帽のつばを掴んだ。

 そしてあやを苦しめた時と同じように、目元が隠れるまで軍帽を深く被り直すと、流れる電流が目に見えて強くなった!


「ぐっぁあああっ!!」


「終わりです」


「……くく、ははは」


 電流に苦しむ烈火!だが、彼女の口元から戦いへの期待に燃える笑みまでは消えていない!


「はははははッ!!」


「何がおかしいのですか?」さだめは眉をひそめる。


「さだめ!!お前と戦えて私は嬉しいッ!」


「烈火!無駄な抵抗はやめなさい!命に関わりますよ……!」


「さだめ」烈火は言った。



「空は好きか?」


「何を」




 烈火は鎖手錠に繋がれたまま、一際大きく羽ばたいた。



 この状況をひっくり返すには、その行動だけで充分であった。

 浮力を強引に利用し、崩れた体勢を回復させる。爆炎を纏い、電流を身体から振り払う。


 そして……さらに。


     さらに。

        

       さらに!


 彼女は遥か上空へ飛ぶ!!


「馬鹿な!あの状態からそこまで動ける訳が……!?」


 さだめは咄嗟に鎖を引っ張るが、烈火の勢いは何もかもを上回っていた。足が――空中に浮く。


「っ!!」


 鎖を掴む腕ごと引っ張られ、翔んだ烈火に釣られるようにしてさだめの身体は空に舞った。

 一方烈火は勢いを衰えさせることなく上昇し続けていたが、ある一点まで達すると羽根を大きく拡げて地上へ振り返った。上昇にブレーキがかかり、自分と同じ高度まで急上昇してくるさだめを見て、ゆっくりと拳を構える。


 だがさだめもやられるばかりではない。彼女は飛び上がりながら、自らを見下す烈火を睨みつけ、掴んだ鎖から手を離し、空になった右手に光の剣を産み出した。


 二人の距離が近づいていく……。


「さだめぇェェェェッ!!!!!!」


「烈火ァッ!!!!!!!!!!!!」


 炎の拳と光の剣が、グランドすごいよ学園の上空で衝突した!


_____



「えぇーーーー……」


 膝をついて倒れたあやを抱いたまま、さゆは上空で繰り広げられている戦闘の風景に目を釘付けにされていた。


「あ、あやちゃん!起きて!」


 さゆは思い出したように意識のないあやを揺する。なぜ番長のような生徒が助けに来たのか、どうして戦っているのかは分からないが、とにかくここから離れなければ!


「……」


「わっ」


 そうして何度も揺すっていると、あやが無言で急にムクっと上半身を起こした。


「あやちゃん!良かった!」さゆの表情に安堵が戻る。


「とりあえず保健室いこ!ここから離れないと……」


「……っ」


「えっ?」


 さゆがそう言って立ち上がろうとした矢先、あやが突然胸元に顔を埋めて抱きついてきたので、彼女は困惑した。


「あやちゃん?」


「……」


 あやは未だに無言のまま。さゆは友達から感じる体温にどこか多幸感を感じつつ、あやの行動の意図を読みかねて困惑していると、


「面白いことになってますわね」


 と、背後から聞き覚えの無い女性の声が二人に話しかけた。


「!?ぁあいや違うんです!私たちそういう関係とかではなくて!!」


 さゆが言い訳をしながら振り返ると、そこには金髪縦ロールの典型的お嬢様が立っていた。


「どちらもスーパーお嬢様きっての実力派。ウルトラお嬢様に上がらない理由を強いてあげるとすれば、”三年生ではないから”ぐらいと専らの噂の二人よ」


「誰……?」


「しかしこの二人が戦闘なんて、今日は午前中に学校に来ていてよかったですわ。実力者同士の戦いはなかなか見れませんの」


「(まぁいっか……)あの、翔んだりとか軍服とか、変身してるのはなんなんですか?」


「知りませんの?私たちお嬢様の中に存在している超然的なチカラ”お嬢様パワー”……これらを一定以上持っていると、戦闘用の衣装に変身できますのよ。ここが強者としてのラインですわね」


「お嬢様パワー……????戦闘用……???」


 さゆが聞き慣れない単語の連続に首を傾げていると、上空を見上げていた縦ロールがはっとした顔で戦う二人を指差した。


「!戦況が動きますわ!」


____



 剣と拳がぶつかりあい、二人の周囲を渦巻く炎を切り裂いて鎖が乱舞する!


「甘いぞさだめェッ!」


 振り下ろされた烈火の炎を纏った踵落としに対して、さだめはコートの奥から何本もの鎖を無数に伸ばし、重ねて受け止めようと試みる。


「――ッ」


 だが、烈火の炎の蹴りは鎖をいとも容易くバターのように溶かして切断!


 頭上まで迫った踵に対し、風紀の体現者は冷静にこれを見切って光の剣でガードするが、勢いを殺し切ることは出来ず、地上へと叩き落とされた。


「風紀委員さんが!」さゆが言った。


「勝負アリね」縦ロールは呟く。


 衝撃音と土埃が爆発するように舞う……。


 烈火は炎の翼をゆっくりとはためかせて地上へと降りていく。地面に叩きつけられたさだめは、空を睨み、立ち上がろうとしたが、ふっと息が抜けて沈み込み、軍帽と軍服が光の粒子となって消えた。


「さだめ。大丈夫か?」


「情けは無用です。手を貸さないでください」


「何言ってんだ、友達を見捨てれるか」


「う、私は……」


 手を差し伸べる烈火。さだめは瞳をしばしばさせながら、風紀委員としての意思に反し、半ば無意識にその手をとろうとした。



  その時!




「いつまで時間かけてんだと思って来てみれば……なにしくじってんだテメェ」




「「!」」


 ドスの効いた男の声が二人の動きを遮る。

 少し遅れて、軍隊のように規則正しく鳴り響く大勢の靴音がこちらへ殺到してきた。


「”平お嬢様”一人捕まえるのに手こずってるようじゃ優秀な風紀委員とは言えねェよなァ、さだめよォ……」


 ”風紀”と書かれた腕章を煩わしげに付けた大男は、手に持ったバールを肩に担ぎ、大勢の風紀委員たちを背後にして言った。




_____



「また人が増えた……」


 校舎からぞろぞろと生徒を引き連れた背の高い男が出てくるのを見て、さゆは困惑気味に呟く。


「!」縦ロールは驚きのあまり目を見開き、一歩退いていた。額に汗が滲み、唇が僅かに震えている。


「ど、どうしたんですか?」


「嘘でしょ……?だって彼は……!!」



_____



「誰だアンタ。風紀委員か?悪いが勝負は既に付いた」


 烈火は炎を纏った身体のまま、乱入してきた男を睨みつける。


「おい聞いてんのかさだめ。答えろ。テメェ、なんで”手加減”しやがった?」


 180をゆうに超える身長。サングラスにタバコを咥え、カソックコートを着用したいかにもガラの悪い男は、烈火の存在を意にも介さず、倒れたさだめを乱暴に踏みつけて言葉を続ける。


「っ……」


 苦しそうに呻くさだめ。それを見て烈火の眉間に青筋が浮かんだ。


「私のダチになにしやがるッ!その脚を退


「ッうるせェよ!!!」


「!?」


 烈火は一瞬、自らの身へ起きた出来事に理解が追いつかなかった。大男が鬼の形相でこちらに振り向いたかと思えば、衝撃破と共に空中へと身体が放り出されていた。

 全身に走る痛み、霧散する炎。


(い、意識が……。そんな、私が、いちげき、で……!?)


 力を振り絞っても、背中から炎の翼は生えなかった。朦朧とする意識の中、烈火は己の力不足を恥じながら、ゆっくりと目を閉じる。


「れっか」さだめが消えいるような声で呟いた。


「……スゥーッ……」


 学園内のどこかへ飛ばされていった烈火を尻目に、男は学園内中へ宣言するかのように高らかに吠えたのであった。


「俺は神骸(かみむくろ)ッ!!テメェらスーパーお嬢様以下のガキどもを束ねる……『ウルトラお嬢様』だッ!!!!」



つづく!


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