第5話「グランドすごいよ学園って何パンダ?」

第五話「グランドすごいよ学園って何パンダ?」


 突然だが


  彼女たちが通うお嬢様学校


    グランドすごいよ学園には


      厳格な階級制度が存在する。


 それぞれ低い順から

 基本ランクの ”お嬢様”(417名)


 お嬢様を経て更にセレブリティに磨きをかけた者が到達するランク 

           ”スーパーお嬢様”(215名)


 通常のお嬢様では最早到達することのできない努力の限界値

”ウルトラお嬢様”(30名)


 この世の殆どのお嬢様を統べる、正に伝説的なお嬢様           

         ”アルティメットお嬢様”(5名)


 これらは超然的なチカラ「お嬢様パワー」によってふるいわけられ、より上のランクを目指すために彼女たちは日々切磋琢磨するのだ!


___


(著:東風さゆ)


 朝のひんやりした空気がゆったりと流れる玄関。ローファーをコツコツと鳴らしてからドアノブを捻ると、陽気に照りつけるお日様とスズメさんの鳴く声が私を出迎えた。今日も快晴!


「行ってきまーす!」


 閉まっていくドアに一時のお別れを告げながら、勢いよく舗装路へと足を踏み出す。


 私の名前は東風さゆ、お嬢様学校の一年生!今日は早起き!


 ああ、遅刻寸前じゃない通学路を歩くのってとっても楽しい!


「ねーこさんっ♪おはよ!」


「にゃ〜」


「おばさんもおはよーございます!」


「今日はゆっくりなんだねぇ」


 塀の上であくびをしているのんびり屋な猫さんに元気よく挨拶!

 洗濯物を干しているおばさんにも手をあげて挨拶をして、次は通学路で立ち止まっているランドセル少年が目に入った。

 どうしたんだろう?追いついた私は唖然と立ち尽くす少年の肩に手を置いて、彼の目線の先を顔の横から覗き込んでみた。


「少年〜そんなところで立ち止まってどうし……」


 そこには、素敵な通学路を豪快に塞ぐ巨大なヘリコプターがありました。


……


「驚かせてごめんなさい、家を知らなかったものだから」


 空を飛ぶヘリコプターの機内。長い金髪を携えた美しいお嬢様、早乙女あやはいかにも居心地の悪そうに座っている対面のさゆへ声をかけた。


「ううん、私は大丈夫!でも、今度からは道を塞いだりしちゃダメだよ?」


「分かりましたわ。あなたの家の前の土地を買い取って、そこにヘリポートを作りましょう」


「それ本気でやりかねないから怖いんだけど……」


 ヘリのブレードが風をかき混ぜる聴き慣れない音に若干びくつきながら、さゆはヘリの窓から広がる街並みをそっと覗く。

 彼女たちの住む「尾常上城市(おづねかみぎし)」はまだまだ開発が進みきっていない中規模都市といった様相で、ビルの立ち並ぶ都心部から少し離れれば今度は静かな住宅街が軒を連ねて、都会化の侵食に街全体が抗っているような、不思議な街並みをしている。


「この前のことがあってから歩いて登校させてもらえなくなりましたの。ちょっと厳しいと思いません?」あやは言った。


「両手を拘束されてないだけマシじゃないかな?」


「ちなみに次誘拐されたら自爆しろと言われましたわ」


「冗談だよね!?」


「おっと、そろそろ着きますわね」


 さゆが再びヘリの窓へ顔を向けると、豪華絢爛たる巨大な校舎が窓枠から見える景色を占領していた。


「わー……」


 お嬢様学校、「グランドすごいよ学園」。

 全国のお嬢様が集まる学校で、共学ではあるものの男子生徒の在籍数はかなり少ない。入学式や学校説明会で数人の男子こそ見かけたものの、校舎移動中は本当に一人も目にしなかった。比率としては9:1ほどだろうか?

 

(たしか生徒会長は男の人だったな。眼鏡で、頭が良さそうで、壇上で突然「全生徒ポロリ選手権」の開催を宣言した後にバニーガール姿の副生徒会長に殴られて退場してたけど……うーん……この学校やっぱりおかしな人多いんじゃ……)


 さゆがそんな学校生活への不安を新たにしていると、通り過ぎようとしている大きな校門の前にこちらを真っ直ぐ見据えている生徒が佇んでいることに気付いた。

  

「あれっ?あの人……風紀委員の人?」


「あら、空を飛んでるのが羨ましいのかしら?わしずこぷたー!ぶーーーん!」


「そこそこ狭い空間で腕振り回さないであやちゃん!ちょ、ちょっとまってなんか様子がおかしいから!」


 その女子生徒は眼鏡をかけており、反射で目元こそ見えないものの、その立ち方や態度は明らかに歓迎といったムードではなかった。


「えっ」


 眼鏡をかけた風紀委員の生徒、即ち「紀律さだめ」は何処からか自らの身体よりも大きいバズーカ砲をとりだしてこちらに向け……


「あやちゃん」


 間髪いれずにそれをぶっ放した!


「私たち、死ぬーーーッ!!!!」


「朝から元気ですわね。でも大丈夫よさゆさん、このヘリはカプンコ製のとても丈夫な


 刹那起きた車内への衝撃、揺れ、煙、失う方向感覚。さゆは遠ざかる意識の中、ヘリにバズーカ砲が着弾した事実をゆっくりと理解しながら目を閉じるのだった――









……





____




 煙とヘリの残骸の中、「けほ」と焦げた息を吐いて立ち上がった東風さゆは、ふらふらと二、三歩歩いてあやの姿を探そうとしたが、足からふっと力が抜けて、そのまま地面へばたりと倒れた。


(つ、通学すらままならないなんて……この学校、厳しすぎるよ……)


 その時、地面へ突っ伏したさゆの耳元で何者かが土を踏みしめる。


「ヘリでの通学は学園長の特別許可証が必要となります。あなた方は校則違反生徒です」


 まるで神の審判を告げる預言者のような口振りで、足音の主はさゆへ言った。

 顔を上げるまでもなく、その声の主がバズーカを撃ったあの風紀委員であることをさゆは察する。なんと全く容赦がない……。


「おはようございますわ、さだめさん。おかげさまで目が覚めました」


 突然聞こえた友人の声に不意を突かれ、さゆはばっと顔を上げた。そこには黒焦げになりながらもいつもの余裕ある態度で話すあやの姿があった。


「あやちゃん!?やっぱり頑丈!」


「そういうあなたも」


「あれ?……言われてみれば」


 さゆは身体を起こし、意外にも鮮明とした意識と身体の軽さに自分でも驚いた。初日もそうだったが、この学園に登校し始めてからなんだか肉体が丈夫になった気がする。


「早乙女あや。早乙女財閥の令嬢……あなたにこれまで多くの人間が平伏してきたかもしれませんが、ここはお嬢様学校。あなたは……」


 その時、不意にさだめは帽子のつばを掴むような独特なポーズをとった。


 ……すると!


「特別ではありません」


 その姿勢に合わせて大きめの軍帽が頭へ現れ、同時に彼女の身体は鎖の飾りがついた仰々しい白コートに包まれる。


「何あれ!?!?!?変身した!?」


 驚愕するさゆを尻目に、さだめは軍服コートの懐から光り輝く鎖付き手錠を取り出すとすぐさま投擲!真っ直ぐ飛んだ手錠は、あやの右手首をがっちりと捕まえた。


「あやちゃん!」さゆは叫ぶ。


「大丈夫ですわ。手錠をかけられるのは慣れていますから」


 あやは捕まった右手を引っ張られながらも、平然としてさゆへウインクして見せた。


「なんで慣れてるの……?」


「あなたを風紀委員室まで連行します。全校委員長がお話をしたいと」


 さだめは鎖を握る腕に力を込め、あやの身体を無理やり手繰り寄せようとする。


「え、ていうかその服かっけぇ!!何処で買えますの!?」


 しかし、あやは得意の馬鹿力でそれをほとんど意に介さない!


「この馬鹿力!!やはりただ者では……!ならば!」


 さだめは軍帽を片目が隠れるまで深く被り直す。すると白コートの放つ光がさらに強くなり……握る鎖手錠に突然電流が迸った!


「きゃっ!?」


 さしものあやもこれには堪えたのか、身をのけぞらせて苦悶の悲鳴を上げる!


「あやちゃんッ!」


 既にさゆはあやのすぐ傍まで来ていた。そしてあやを拘束する手錠に触れようと手を伸ばしたが、電流をほとばしらせる手錠がさらに光を増したために近づけなくなってしまう。


「私は悪を……!キンキラキンに……!サッヴァークッッ!!!」


「ぎゃーーーーッ!!!」


「あやちゃーーーーんッ!!!」


 さだめは半ば叫びながら鎖へ力を込め、さらに強い電撃があやを襲う!そしてついに彼女の意識を奪わんとしたその瞬間!


「 鳳 炎 弾 !」


 ”炎”が、二人の間に飛び込んだ。


「「!?」」


 爆炎は鎖手錠を切断し、解放されてふらりと倒れそうになったあやを優しく抱き止めたさゆと、だらりと垂れた鎖を投げ捨てたさだめの鋭い視線が交錯する。そしてその中心には、「不死鳥」が立っていた。


「新学期そうそう新入生いびりとは……番長も顔負けだなァ風紀委員さんよ!登校時間はまだ過ぎてねぇぜ!」


 乱入者の背中から生えている大きな炎の翼が収束していくと、その者の容姿が陽炎の中から徐々に浮かび上がってきた。


 赤く長い髪。力強い瞳。派手な学生帽を被り、肩には男モノの学ランを羽織っている。胸にサラシを巻いたのみで上半身は他に何も着用しておらず、紺色のスカートは足首までかかるほどに丈が長い。さながら、時代錯誤の番長のような出立ちである。


 彼女はグランドすごいよ学園二年生、「鳳凰院 烈火」。あやが誘拐された事件の一部始終の目撃していたあのバイク乗りだ!


「烈火……!私は風紀を乱す者をただしく処罰しているのみ。それを邪魔するのであればあなたといえど敵と見なしますが」


「結構ケッコーコケコッコー!私もお前とは一度やり合いてぇと思ってたんだ!お手合わせ願うぜ!」


 舞い散る火の粉の中、腕組みして仁王立ちの学ラン長身美女番長と、手錠を構えた軍服眼鏡風紀委員の視線がぶつかり合う。


 果たして勝つのは不死鳥か、それとも絶対の規則か。


 


 つづく! 

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