第9話 弱者の踊り

□ 三日後のオアシス、日暮れ


「おや、呼び出すまでもなくいてくれているとは。探す手間が省けたよ、覇気の無い姿は君にはふさわしくないけれど、その姿勢は従順な態度を示してくれていると受け取ろう。

 プレゼントは気に入ってくれたかな?」


 ―心が折れていない。なにか読み違えたか?


「一昨日さあ、ユールがここまで来てくれたんだよ」


「彼女もいいね、ここにはいないようだけど、事が済んだらうちに招待しても一向にかまわないよ。君の意向を尊重しよう」


「食べるものと飲める物をいっぱいに持ってきてくれた。今日までいて貰うわけにはいかないから帰らせた。迷惑かけ通しの仲間で頭が上がらない」


「でも、あの妙ななまりはどうにかして欲しいな。うちの術式にいつひっかかるかわからないからね」


「食いながら考えたんだ。どうすれば君を殺せるか。少なくともこないだの焼き直しは御免だ。とりあえず、」


「それよりも、今回もプレゼントを用意してるんだ。多分君が今一番欲しいものだよ。求めよ、さらば与えられん、ってね。さあ、」


―うるさいな。


「「死んでくれごらんあれ」」


 足下を強く踏みつけると、四方の爆薬が一斉に起爆し、一帯の地面がガラガラと崩れていった。


 落ちる寸前に目を閉じ、体中の血管と筋肉を意識する。

 薄く目を開け、落ちていく小さな黒い外套とその中身、周囲に飛び散る瓦礫を見る、見る、見る。


「いこうか」


 右足の裏に貼りつけてある爆薬を衝撃で起爆させ、手近な瓦礫に両足をたたきつける。目線は呪術師から逸らさない。

 仕込んでいた瓦礫中の爆薬がさらに起爆し、瓦礫が爆発四散する。全身が軋むが無視する。その爆風と衝撃を受けてさらに飛ぶ。

 周囲の地形変化と連鎖爆発により、呪術師の視覚と聴覚は死んでいる。気流も乱しているため、ガスを利用した幻覚も意味がなく、蟲を飛ばしても操作にはタイムラグがあり、そもそも操りきれるとは思えない。この一瞬のみ、殺しきるチャンスが生まれている。


 もう一度、爆発する瓦礫により角度を調節し、狙いを無防備な背中に定める。

 もどかしい空気抵抗に全力で逆らい、双剣を閃かせる。

 一撃、仕込み防具を破壊。二撃、手応えあり。

 三撃目をたたき込む前に、永遠のような浮遊が終わり、互いに受け身など考えられないまま、砂岩にたたきつけられた。

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