第7話 落花
□ 白昼の逢瀬
いざ正面から見てみると、思ったほど特別感はなかった。
痩身矮躯、目は黒い眼帯で覆っている。
このタイミングで現れた人間、追っている呪術師でなくとも怪しさ満点であり、殺してしまってもかまわないほどのシチュエーション。
もしかしたら私の知らない賞金首かもしれないし。
呪術師と遭遇したら、即殺すか命乞いが常道だ。無駄に時間をかけるようでは隙をさらすだけであり、どのような手段で反撃されるか、どんな目に遭うかは分かったものではない。
と、姿を目にしたコンマ数秒で思考を終え、身体を低くし蛇のように地を這いまずは背後を取る。そして光を反射しやすい投げナイフを迂回しながら投擲し注意を引きつつ、一気に接近して双剣で頸椎から心臓までを両断する―
「やれやれ、血の気が多いやつだなあ‥話しようぜ話。
うーん、どうも引っ張られるなあ」
気がつくと、彼と私の位置は互いを確認したその瞬間のままだった。微動だにしておらず、抜いたと思っていたナイフも双剣も元の位置のままだ。
「チッ、幻覚の準備も万端だったか」
「あ、そのくらいは今ので察してくれた?うん、今は妙なことをしない方がいいよ」
昔より腕は上がっているらしい、まあ私もそうだしこの砂漠じゃあ当然だが。それより‥
「今回は、昔
「私に何の用?」
初撃で殺せなかった今、私の命は砂漠の水滴のようにすぐ消えてもおかしくない。どこか自棄になりながら、それでも一挙手一投足を見逃すまいとする本能と、場をつなごうとする理性が最後の軋みをあげている。
「呪術の深奥は門外不出、一家相伝。だからさ、君をうちの家に勧誘したいんだよ。三年前のあの夜から逃げ切り、今こうして成長した君に」
「どう見ても私より年下な君からそう言われると虫唾が走るけれど。うんと言うとでも思った?」
「この身体を手に入れた時期がちょうどその頃でさ。まだなじんでいなかったから君を見逃したのかもしれない。だけど君は今こうしてここに立てるほどに武術とカラダを磨いてきている。うん、僕からしたら合格だ。拒否権はないよ」
どうもかみ合わない奴だ。会話の全てから薄気味悪さと嫌悪しか催さない。
「それでも断ったら」
「三日後にまたここに来るよ。最悪の場合は君の身体を貰うことになるけど。そういうのにも興味はあったし。
ああそうだ、待ってる間手慰みに作ったちょっとしたプレゼントをあげるよ。後でゆっくり見るといい」
最後まで一方的な発言を繰り返した少年は、またも黒煙と砂塵を巻き上げたかと思うと瞬く間にその姿を消した。
去っていく背中を幻視し、思わず屈辱で震える背中。
私は。あいつの仇を前に。
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