第6話 セカンドコンタクト

□ オアシスの中心部にて


「現実味がない」


 町を出立して四日後。伝えられたオアシスを一目見て、思わず言葉が飛び出した。

 オアシス一帯をやすやすと覆っていたであろう瘴気は既に晴れ、それ以外にオアシスに凶行の痕跡はないかのように見える。かつて存在が囁かれた幽霊船のように、忽然と人間だけが消えてしまったかのような景色が広がっていた。

しかし、ひとたび建物の中を覗いてみると、食われかけの肉や、拭いきれない腐臭など、ここで行われた凶行の残滓が横たわっている。日常と異常が同居したその空間は、たやすく精神をむしばんで余りある。


「瘴気の毒性が上がっている、やはり調合を変えていたか‥ッ」


 流れ作業のように蹴り開けた扉の向こうには、どこかで見たような形の頭蓋骨―


 動悸がやけにその存在を主張してくる

 頭とみぞおちが鈍く痛む

 かつてのパーティーメンバーの顔がなぜかいくつも思い浮かぶ

 そういえば、自分はあのとき

 死にゆく仲間の顔を、

 喰われた仲間の骨を、

どんな目で見ていた‥??


「はっ、はっ、はっ、ゲホッ、ぐえぇ‥」


 気づけば、呼吸を忘れていた。


先刻さっき食べたラクダ(?)が出てくるところだった、まずいまずい」


 久方ぶりの単独行動、独り言が増えたなと自分でも思いながら、きびすを返して呪術師の捜索を続ける。

 やはりと言うべきか、先ほどのような死体の痕跡はあちこちに見られるが、肝心の呪術師の痕跡はほとんど残されていない。

 唯一見つかったのは、黒く変色した手のひら。

 明らかに蟲の食いさしでも、瘴気に侵されて変質したのでもない、異質な空気を纏ったモノだけが、水場の隣に捨て置かれていた。


「気色悪」


 手近な岩に腰掛け、こう呟いたとき。


「正直な感想をどうも」


 反射的に手のひらから距離を取る。

 それは微妙に振動し、かすれて歪んでいる声を発している。

 

「そう警戒しなくともいい、君の行動を予測し、メッセージを残しているだけだ。

 俺を殺したければ、


 その瞬間、手のひらは塵となって消え、たなびく黒煙が残った。

 それは消えるどころか膨張し続け、爆発するかのように膨張しきると、そこには黒ずくめの少年が立っていた。

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