第5話 砂と血の邂逅

□ 西のオアシスに続く道の途中


 急ぎで買ったラクダ(?)を駆り、西に向かっていたところを、すれ違う形になった行きずりの商隊と遭遇した。


「おーい、こっちはもう駄目だから帰ったほうがいいぞー」


 無視して横を過ぎようとしたところ、強引に牽いている馬車で横手を遮られ、仕方なく話を聞くことになった。


「おいおい、無視とは非道いことするねえ旅人さん。ですがね、こっちの町はもう蟲やら毒ガスやらで散々なことになってるんでがすよ。あっしらも商売あがったりってなもんで、こうしてとんぼ返りしてるわけなんでさ。

 命が惜しくなけりゃ、あっしらと同道しませんかい?そのほうが互いに安全でがすよ、多少なりともねえ」


 ひときわ大柄な駄馬に乗ったひげ面の男がまくし立ててきたが、どうも違和感を覚える。


「お気遣いどうも、ですがこちらにも事情がございますので、では」

「つれないねえ‥こうまでして頼んでいるんですぜ?」

「詮索しすぎないのも礼儀と存じますが」

「ほぅ?何か言いたいことがあるならどうぞ言っておくんなさい」


 仕方ない、こんなところで時間を浪費したくはないし、こうしたほうがおそらく手っ取り早い。


「皆様、見るからに合っていない服をお召しのようで。それに、馬車から不自然なほどに匂い消しの香料が香ってらっしゃいます。疑いの材料としては十分では?」

「妙に頭の回る不気味な奴だ、ここで死んでいけ」


 こうも綺麗に化けの皮が剥がれるといっそ清々しい。

 私のような稼業のヒトなら、素人トーシロくずれの偽装ごとき一瞬で見破れる。もちろん、体に染みついてしまっている血の匂い、鉄の匂いも。

 平静な心をは裏腹に、体は迷いなく動いてくれた。

 ラクダの足の急所を無理やり蹴って倒し、腹のバンドに刺してあったボウガンをつがえ、全身の筋肉を制動して三連射。

 眉間を撃ち抜かれ落馬していく肉塊の群れを一瞥もせず、双剣を両手で投擲する。


「ハッ、どこに獲物を投げてん」


 嘲笑おうとした男の後頭部に双剣の片割れが突き立ち、無様な捨て台詞すら遺せず崩れ落ちる。

 その点、ひげ面の男は賢かった。死んでいった奴らに見向きもせず直進。きっと仲間でもなんでもなく、山分けの相手が減って喜んででもいるのだろう。

 わずかに体をブレさせ私に狙いをつけさせないようにしつつ、駄馬の勢いはそのままに重さで私を轢き殺そうとしている。そこで生まれる回避の隙を狙い、大上段からだんびらの一撃を見舞う算段が透けている。


「だから、あなたたちでは死ぬ」


 空を切り、地面に突き立ったままの双剣の片割れが駄馬の足が刈られ、つんのめったところを構えていた投げ槍一閃。

 馬とくくっていた荷ごと、男は地に磔になった。


「‥ぐ、なぜ、ころさ、ない」

「子供を見なかった?」

「ガ、キ?いいや」

「運がいい。おかげで、あなたたちの寿命は数日延びた」


 懐の短刀を額に吸い込ませると、男は完全にこと切れた。

 馬車の中には、もともとの馬車や駄馬の持ち主であったであろう家族だったものが転がっており、本来の売り物の一部だったであろう香料が一面にまき散らされていた。


「…」


 しばし瞑目した後、使えそうなものを持てる範囲でえりぬき、再度ラクダ(?)を走らせオアシスへと急いだ。


「また武器の手入れをしないと…殺しはしばらくぶりだったけど、思ったよりなまっていなかった。

ラクダの鳴き声って、ワンだったっけ…私、つかまされた?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る