第4話 the fool
□ 無人のオアシスにて
瘴気が夕陽を遮り、蟲がざわめくオアシスの水場にて、黒髪の少年が一人身体を浸していた。
傍目から見れば不思議なことに、少年が身体を横たえている周囲の半径数メートル以内には、蟲の一匹たりとも入ってはいない。まるで、本能が警告しているかのように。
少年の全身は、この地球上に存在する、人が人を
しかし、それほどの傷跡があってなお生きているなら当然あって良いと思える筋肉は、外からは不気味なほどになく、痩せこけた肢体を水中にさらしている。
みじんも動かないままだとまるで打ち捨てられた餓鬼の骸のようだと例えられてしまうほどだが、かすかに動く左胸から発される波紋が水面を震わせるさまが、この身体に生命はまだ宿っていると知らしめているようだ。
太陽が水平線の彼方に消え、かすかにそよいでいた風が止まった時、少年はゆっくりと身体を水から引き上げ、岩場にかけてあったぼろきれで水気をとった後、色の違うぼろきれをぎこちなくまとい、地面に膝を突いた。
「
声はかすかだったが、それがもたらす変化は大きかった。蟲は一斉にその動きを止め、うつろな瞳の全ての焦点が少年にあわされた。
それを気にもとめず、少年は地面から手と膝を離すことなく、しばらくその動きを止めていた。
「三日か‥予想より早い。お荷物はいないのか」
少年が何事か呟くと、辺り一面を埋め尽くしていた蟲は跡形もなく消えた。
そして、少年は一度も目を開けることなく眠りに落ちていった。
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