短編その四
「あなた」
「んん……」
真新しい光が今日もまた東の空から差し込み始める。それは例外なく、この閨にも。その光が瞼を擽り、もぞもぞと大きなふたつの山が蠢く。
「ふふ、もう。なぁに?あなた」
「んー、なんでもないよ」
「あら、そうなの?」
「うん」
夫は隣の妻の背中を大きく抱きしめ、その麗しい黒髪に顔を埋めて大きく息を吸った。妻は首元を掠める吐息に擽ったそうに目を細めて夫の手にとんとんと触れる。
「はぁ…。きみって本当に、良い匂い。落ち着く」
「あらうれしい。あなたもとっても暖かくて、ずっとこうしていたい……」
「えへへ……じゃあもっと」
「もう…」
少し肌には厳しかった外の空気もだんだんと柔らかく解れていく。夫は妻の優しい香りを心ゆくまで堪能した後、名残惜しそうに少し起き上がってその優しい顔を見て微笑んだ。
「おはよう。安宿」
「おはようございます、あなた」
こうして今日も一日が明けた。
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