第16話 ノベルシカ王国の事情と失敗②
――リゼルside――
私の両親はとても傲慢な人たちでした。
シュノーベル王国の前国王夫妻に不幸が起き、成人の儀を終えたばかりの15歳のシュライが王位に着いた時、両親は嬉々として「今なら海辺の町を奪える!」と兵を動かした。
無論兵士長も軍部も反対した。
シュライの力を恐れたのだ、当たり前の事だった。
けれど――。
「そう長い間スキルが使える者等いない! 勝算は此方にある!」
そう言ってシュノーベル王国にちょっかいを出した。
途端、作物の育ちやすい気候が一変した。
それからは地獄のような日々の始まりだった。
「何よ!! 側妃くらいおいていいじゃんね!!」
「シュライ様が要らないとおっしゃっているのに無理強いは駄目だよ」
「そもそも、経歴を見ればどれだけ粗悪品か分かりますもの。側妃としての資格すらありませんわね」
「なんですって!? 属国になった国の女の癖に!!」
「それでもシュライ様から是非にと求められたのです。貴女はどうでしたか?」
「シュライ様はわたくしの良さを知らないのよ! 夜の閨事なら、」
「そういう女性、シュライ様大嫌いですわよ?」
「くっ」
客室に案内し、王太子であるシリニカ様を少し大きな部屋へ、隣の部屋にアリューミア姫を案内すると、シリニカ王太子から声を掛けられた。
「本当にすまない事をしたと理解している。だが俺達にとって国王となる父上の言葉は絶対なんだ……」
「ええ、それは理解しております。私の父もそうでしたから。でもその末路はご存じかと」
「……」
「シュライ様はその辺り容赦を致しません。最悪国が無くなる事を視野に入れて今後動いて下さいませ」
「……分かった」
「アリューミア姫はその辺り理解しそうにないですが」
「ああ、頭の可笑しい姫と思われているだろうが、実際そうだと俺は思うよ」
「スキル次第では側妃には召し抱えられなくとも、この国に居られる可能性はありますが」
「アリューミアのスキルは彫金師なんだ」
「あら、では無理ですわね」
「俺も妹もごくありふれたスキルしか持つことが出来なかった。俺のスキルも彫金師なんだ。お陰で母上の不義の子では無いかと言われたくらいだ」
「……」
「実際そうかも知れない。私は父上に全く似てない。アリューミアも性格はそっくりだけど、それ以外は……」
「そうでしたの」
不義の子と呼ばれて王家で過ごす事はとても辛いと聞いております。
シリニカ王太子とアリューミア様にとって、今回シュライに取り入る事が最後の命の綱だったのかも知れませんわね。
「三日後ノベルシカ王国に帰る。帰った後は恐らく……二人揃って死刑だろう」
「王太子とその姫ですのに?」
「役に立たない王太子と姫なんてあの国に必要ないからね」
なんだか情に訴えてくる方だわ。
でも実際死なれても目覚めが悪いのです。
「だから一つ提案なんだけど」
「ええ」
「亡命してもいいだろうか?」
「ぼ、亡命!? だとしたらシュライ様に話された方がいいかと思います」
「……取り合ってくれるだろうか?」
「話さないよりは」
そういうと「亡命出来たらこのシュノベザール王国の為に尽くすよ」と小さく溜息をつきながらも意志の強い瞳をしておられ――私は「ではシュライに話してみます」と伝え部屋に入って貰い、外に出さないようにと伝えてシュライの元へと向かった。
私が来た事で驚いていたけれど、事の内容を語ると「不義の子と思われていたのか」と口にし、暫く考え込んでおられます。
「確かに、スキルが一般的な者は王族には珍しい。何かしら王族らしいスキルを持ったり、レアスキルを持つことが多いんだ」
「ですね……」
「それが、お二人のスキルは彫金師……王族には珍しい」
「ではやはり……」
「不義の子の可能性が高いな。だが王太子の方は亡命しても問題は無いが、妹の方はな……」
「ああ……そうですわね」
「アレをこの国に置いておくことは出来んぞ」
「ですね……帰って頂きます?」
「それくらいしかないな」
そう決定付けたシュライに私も頷き、その後シュライはシリニカ王太子に会いに行かれました。
そこで色々と内情を聞いたらしく、シリニカ王太子の亡命を許可したそうです。
問題のアリューミア様には自国に帰って頂くことで話はまとまったのだとか。
アリューミア様とシリニカ王太子は犬猿の仲だそうで、「お兄様が生まれなかったらわたくしが女王になれたのに!」と下に見ていることも判明した。
確かにオドオドとした兄にイライラする気持ちはわかりますけれど、流石にアリューミア様の発言も性格も許せるものではありません。
それから三日後、アリューミア様は沢山のシュノベザール王国の服を貰い上機嫌で馬車に乗り込み、兄がいないことなど気付いても居なかったそうですわ。
シリニカ様は今後は貴族籍を貰いこの国で生活をする事になる。
ただ、一代限りの爵位な為、それなりの功績が無ければ次の世代は――と思っていると、妻を得ようとは思っていないらしく、本当に自分の代で終わらせるつもりなのだとか。
その後シリニカは彫金師として城仕えとなり、スキルを磨きながら彫金師としての人生を歩み始めましたわ。
そして件のアリューミア様は、国に帰った翌日断頭台に消えたと偵察していた者達から連絡が来ました。
そして我がシュノベザール王国にノベルシカ王国から王太子を戻すようにと言う書簡が届きましたが、既に亡命済みであると言う返答を行い、一時的に一触即発となりましたが、それはあくまで王太子を返せと言う雰囲気を出したいだけのハリボテだとシュライは理解していた様で、蒸し暑い雨が降り注ぐ王国となったノベルシカ王国は半年も経たずに謝罪が来ました。
【アリューミアが貴殿の国で側妃になれば御の字だと思っていたが、本当に嫌がっているとは思わなかった。また王太子が亡命する事も想定外だった。シリニカの事は諦めるからこの鬱陶しい暑さと雨を止めて欲しい】
と言う旨のお手紙が届いたそうで、一か月後天候を元に戻したそうですわ。
一ヶ月伸ばしたのは勝手に行動ばかりしたノベルシカ王国への罰だそうです。
それでも温情だと思いましたわ。
「何とも勝手な国でしたわね」
「だが、次の世代となる王太子がいない事は大問題だ。側妃も子を生めていないらしいし、恐らくだがノベルシカ国王は種なしなのではないだろうか」
「まぁ!!」
「それで思い悩んで王妃は……と言う可能性は十分にある」
「では、血の濃い所から養子を貰うしかないですわね」
「だろうな」
そう会話しながら、ノベルシカ王国問題は一先ず落ち着いたのでした――。
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