第15話 ノベルシカ王国の事情と失敗①

ノベルシカから旅団が来たと言う報告を受けたのは、その日の朝だった。

前もって連絡も無かった為、何かの間違いでは無いかと話をしていたのだが――。



「なに? ノベルシカの王太子とアリューミア姫が来ているだと!?」

「はい……」

「帰り支度をさせて三日後にはお帰り頂こう。俺も暇ではない」

「強硬手段に出るとは、シュライ様の怒りに触れても可笑しくないやり方ですな」

「これについては強く抗議させて貰う。ノベルシカ王国は雨の多い地域だったな?」

「はい」

「雨だけではなく、蒸し暑い気候に雨の止む日が無い天候をプレゼントしよう。なに、雨には慣れているだろう?」

「ははは、雨には慣れていても蒸し暑さには慣れておりますまい」

「それでいい。延々と蒸し暑い空気の重い中、反省するまでその雨を降らせ続ける」



そう決めて渋々客室から出ることが無いように二人を閉じ込める。

城の外等歩かれては困るからな。

リゼルと共に王太子であるシリニカ王太子とアリューミア姫に謁見の間に来るように通達をし、リゼルには王妃の座る椅子に座らせ迎え撃つつと、アリューミアは目を見開きリゼルの座っている場所を分かりやすく睨みつけ、気の弱そうなシリニカ王太子はビクビクしている。



「全く持って、一切の連絡も無しに来られるとは思っても居なかった。どうやらノベルシカ王国は礼儀の無い野蛮人のようだな」

「そ、それは……その」

「なんだ、王太子ならばハッキリと口にしたらどうだ」



同じ年のシリニカ王子にハッキリと口にすると、おどおどしながらも「それはシュライ国王陛下に問題が」と言われたので、「どんな問題が?」と笑顔で答えると小さな悲鳴が上がった。



「お、お父様は私にシュライ様の元で勉強をしろと送り出しました……。どうかこの国で勉強させて頂きたく」

「結構。俺も暇ではないのでな。王太子としての自覚も足りん者を教える気はない。それは隣にいるアリューミア姫にも言える。俺は側妃等必要ないと何度も断りを入れている。押しかけられても迷惑以外の何ものでもない訳だ。俺とリゼルは半年後の婚姻式の準備に忙しい。三日後君たちは自国に帰って貰う。それまで客室で外に出る事はまかりならん」

「ちょ、失礼じゃない!! 折角来てあげたのに!」

「こちらは頼んでも無いし断りを何度も入れている。邪魔だ!」

「じゃ、邪魔ですって!?」

「ああ、邪魔以外の何ものでもない。二人が来た事で政務も遅れる。ノベルシカ王国には強引に二人を送りつけた罰を行う予定だ。安心して国民と苦しむといい」



そこまで言うと王太子はハクハクと言葉にならない様子だったが、アリューミア姫は違うようだ。



「嫌よ! 国に帰って苦しむ位ならここに居座ってやるんだから!! それに側妃なんて狙ってないわ。私が狙っているのは正妃の座よ」

「なら直ぐにでも牢に入るか?」

「え!?」

「他国で何と言われているか知らんが、俺はリゼルに一途だ。その大事なリゼルを陥れるような発言をしたものを生かして置く気はない」

「そ、それは」

「君は今、リゼルと言う正妃となる女性がいるのに自分が正妃を狙っていると言ったな?」

「……そ、側妃でいいです」

「うむ、それも俺には必要ないものだ。三日後お帰り願おう」



そう口にするとリゼルが口を開いた。



「シュライ様はとてもお忙しい身。その事を理解していないあなた方の国は些かどうかと思いますわ」

「属国の姫君の癖に生意気ね」

「ええ、属国になって良かったと今では思っています」

「王妃とは対等の立場でいるべきよ!」

「貴女では対等には慣れないと思います。余りにも感情的過ぎますし、貴女の事を色々と前もって調べましたが、学生時代は随分と男性と遊び惚けていたそうですわね」

「!?」

「そのような阿婆擦れがシュライ様の隣に相応しいとでも本気で思っているのですか? そうだとしたらシュライ様を馬鹿にし過ぎでしょう。あなた方の国に天罰が落ちるのも当たり前の事です」



そう淡々と語ったリゼルに俺も頷きながら「流石はリゼルだな。聡明な考えだ」と褒めると笑顔で「ありがとう御座います」と答えて来た。

これに王太子は沈黙し、アリューミアは顔が真っ赤になる程怒っている。



「わたくし達を追い返せばお父様達が黙ってませんわ!」

「そうか? よっぽど懲りるまで天候を弄る事になりそうだな?」

「そうですわね」

「アリューミア、余りシュライ様を刺激させてはいけない。この案は元々無理があったんだ」

「でもお兄様!!」

「私はこの案には反対だった。シュライ様を刺激して得をした国は何処も無い。我が国はやり方を間違えたんだ」

「ふむ、中々に聡明でもあるな。確かに俺の怒りを喰らい得をした国は何処にもいない」

「私の故郷は得しましたわ」

「属国になったからな。それともノベルシカ王国も属国希望か?」



そう微笑んで聞くと、顔色を青くして首を横に振るシリニカ王子は溜息を吐き「三日後、自国に戻ります」と口にし、それでも駄々をこねるアリューミア姫には呆れて言葉すらなかったようだが「脳みそが足りない妹で申し訳ありません」と謝罪していた。

実際そうだなと思ったが、シリニカ王太子の謝罪はしっかりと受け止めた。

一年間の蒸し暑い雨を8カ月までにしてやろうとは思った。

温情だな。



「それまで客室の外に出る事はまかりならんが、シリニカ王太子の温情で多少は緩和させてやろう」

「ありがとう御座います」

「嫌よ! あんな一年中雨の降っている国にまた帰るなんて」

「ははは! 雨だけなら良いんだがな!」

「「え……」」

「それ相応の罰は与えると言っただろう?」

「「……」」

「暫くリゼルに彼らのおもてなしを頼んでいいだろうか?」

「私も暇ではありませんが仕方ありませんね」

「練習と思ってくれ。嫌気が差したら仕事に戻っていい」

「そういう事でしたら」

「い、嫌気がさしたらって……ちゃんともてなしなさいよ!」

「もてなす義理も無いんですよ。勝手に来て騒いで押し付けがましい。恥を知りなさい」

「くっ!」



そうリゼルに言われたアリューミア姫だが、自分たちが有利ではない事は察した様で少しだけ静かになった。



「リゼル、苦労を掛けるな……」

「しっかりノベルシカ王国には苦情をお願いしますね? 罰もお願いします」

「ああ、シッカリとしょう」



こうしてリゼルが二人を用意が終わった客室に案内する事となり、まだまだ波乱が起きそうだなと溜息を吐いた。



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