第14話 やる事は山のようにあるのに、粛清中のバランドス王国から姫君が二人もやってくる④

一ヶ月後、使者が訪れバランドス王国国民にシュリウスの事やシュリウスが来る事で天候を安定して貰えると言う話をした所、「直ぐにでもお願いしたい」「属国になっても構わない」「前国王たちが馬鹿な真似をしたのが全て悪い」と理解して貰えたようで、シュリウスとファルナは馬車に乗って箱庭師を一人従え向かう事になった。

何かあれば直ぐ箱庭師に頼んで帰宅する事を条件にだが、若干11歳のシュリウスを送り出すのはやはり心臓に悪い。


それからシュリウスがバランドス王国に到着すると、早速雨を降らせ始めたのはいう迄もなく、早速【緑の手】持ち二人の力が発揮された。

国中に緑の手の力が若干だが行きわたるようになり、農作地や森の回復が早かったと言う情報が入ってくる。

ホッと安堵したのはいう迄も無いが、シュリウスがバランドス王国に向かったのは本当に良かったのだろう。

バランドス王国はシュノベザール王国の属国と周辺国にも連絡する事が出来た。

これによりバランドス王国はシュノベザール王国の属国としてこれから歴史を歩む事になるが、俺としては広大な農地を手に入れる事が出来た事は僥倖だった。


何より、レア中のレアの【魔石師】のリゼルがいてくれるので、緑の魔石不足に悩む事が無くなったのは大きい。

他の魔石は魔石商から買わねばならないが、それでも緑の魔石を買わないだけで随分とお金に余裕が生まれる。


まだ一年目が過ぎて少ししか経っていないが、国としての財政面は少しずつではあるが改善しつつあった。

それだけでもホッと安堵出来るが、ザーバン商会からも定期的に苗と種が入る事で、それなりに国民に行き渡るだけの食糧が確保できつつあるのも良かった。

カボチャやジャガイモ等の日持ちする野菜も多く作っていると言うのもあるが、お陰で食糧事情は少しずつ上向きに改善中だ。

何より漁業のお陰で全く違う。

一夜干しのお陰と干物のお陰で随分生活が変わった。

漁業に関しては干物を多くバランドス王国に支援として持って行く事も出来た。


元々この世界では香辛料とは高いのだ。

塩だけでも高いのだが、海に面した土地があるシュノベザール王国では塩は海水で作られる為、それは輸出と言う形で強い面がある。

属国となったバランドス王国にも塩は提供しており、前王時代より今の方がマシだと言う声が上がる事も増えてきたようだ。


そして、二年目に入ろうかと言う頃、ようやくバランドス王国の農耕地が復活した。

民の頑張りもあるが、これで保存していた種や苗が少しずつ芽吹いて行くだろう。

ホッと安堵していた頃、ようやく満を期して俺とリゼルの婚約が発表された。

これには各国も驚いたらしく、ネバリ王国等「自国の娘をおくりたかったのに」と言われたが、俺は笑顔で「側妃は持ちません」と答えたので、送り込まれる事は無いと思いたい。


この一年の間に金銀銅で彫金師がアクセサリーを作り、その輸出も始まったのも外貨を得るのにとても良かった。

ネバリ王国の王族や貴族は挙ってアクセサリーを買ってくれたのもあり、外貨はとても潤った。


更に裁縫ギルドが来た事により、綿糸や絹糸といった物が他国よりも質がいい事から沢山の服が作られ、俺の装いも豪華になったし、婚約者であるリゼルも美しく装うようになった。

また、彫金師の作った一点物のアクセサリーや宝石を身に着けたり、海から取れる珊瑚石や真珠と言ったものまで手に入るようになると、シュノベザール王国の発展の速さ、そして俺の名声はドンドン上がって行った。



「シュライの名声は留まることを知りませんね。今では少し離れた宝石の国ダイヤ王国にもその名が届いているとか」

「だが、まだまだ改善しなくてはならない点は多い。君の故郷であるバランドス王国の民が飢えなくなるにはまだ時間が掛かる。そこまでしてやっと、一段階と言ったところだ」

「敵国でしたのに、そこまで心を砕いて下さり有難うございます」

「今では婚約者殿の故郷でもあり、大事な弟のいる場所でもあるからな。だが他国から来る縁談話は正直鬱陶しくはある」



――そう、名声が上がれば上がる程、他国から「是非うちの姫を側妃に」と言う声が多くなった。

正直妻は婚約者であるリゼルだけでいいと何度もいっているのに、他国は何としてでも繋がりを持とうと必死なのだろう。


そもそも、箱庭師を使った方法であると言う事を国家機密にしている為、それが知りたいと言うのが本当の思惑だろうが、何度も「側妃等必要ない」と突っ返しては胃を痛める日があるのも確かだ。



「ノベルシカ王国からは今日もまた?」

「ああ、王太子を留学させて勉強させたい。側妃に娘であるアリューミア姫を送りたいと今日も、来ているな」

「あの国も諦めませんねぇ……。アリューミア様と言えば自国でかなり男遊びに翻弄していた姫君ですよ?」

「俺を落とせるとでも思っているのだろう。だが男遊びの激しい女など願い下げだ。俺にはリゼルがいればいい」

「シュライ……」

「それにもう一つ頭の痛い問題がある。リゼルの元婚約者だ」



そうなのだ。

リゼルの元婚約者が婚約破棄していないのにと騒いでいると言う話をシュリウス経由で聞いている。

元婚約者は結婚相手が決まらずかなり焦っているそうだ。

だが、散々浮名を流したのに結局誰一人とも結婚出来なかった理由は何だろうかと思っていると、一時期梅毒にやられ大変だったらしい。

その事が原因で女性が一斉に去ったようで、まるで病原菌扱いらしい。



「サッサと婚姻してしまおうか」

「宜しいので?」

「三年目、俺がこの国の王になった祝いで婚姻式を挙げる。結婚式とは別だが、その時は最高級の絹糸で美しいドレスを作ろう」

「まぁ!!」

「と言う事は、後半年後ですね」

「ああ、それに合わせて諸々の調整を行う」

「「畏まりました」」



こうして動き出したのだが――ノベルシカ王国は強硬手段を取って来るとは、この時思いもしていなかったのだ。

まさか――。



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