第12話 やる事は山のようにあるのに、粛清中のバランドス王国から姫君が二人もやってくる②

謁見の間に現れた二人は、一国の姫にしては随分と痩せていた。

それもそうだろう。俺の怒りに触れた事で自国は未曽有の大飢饉だ。

今から雨を降らせても水ぶくれの腹の人間が増えるだけだろうし、作物を育てるには時間がかかる。

まだ我が国でも支援等出来るはずもなく、プライドの高い現国王と王妃が国民に恨みを持たれるのも仕方ない事でもあった。



「バランドス王国が第一王女、リゼルと申します」

「同じくバランドス王国が第二王女、ファルナと申します」

「良くぞ【生きて】このシュノベザール王国に入れたな。俺がこの国の王、シュライだ」

「その弟、シュリウスです」

「生きてこの土地に来れた事は幸いと思っております。人質としての価値もありはしないでしょうが、どうぞよろしくお願い致します」

「理解しているのなら宜しい。では聞きたい事がある。バランドス王国は今どうなっている」



そう問い掛けると、ファルナは涙を零し始め、リゼルは唇を強く結んだ後言葉を発し始めた。

現在バランドス王国は未曽有の大飢饉に見舞われ、森は焼けて火事となり、その火の手が住宅地を襲い、更に――といった具合で不幸に不幸が重なり最早手の打ちどころがない事を明かしてくれた。

今雨を降らせているが、それで火事が収まれば御の字らしい。



「国民や大臣たちは日照りの半年でシュノベザール王国に謝罪すべきだと訴えました。ですが国王である父がそれをよしとしなかったのです。そう長くはスキルを使える者はいないのだからと、嘲笑っておりました」

「……所が、か」

「はい、一年経っても日照りは続き、未曾有の大飢饉が起き、水も干上がり、死者は多数出ております。そこに火事が加わり最早成すすべもなく。城の門を壊し直談判しようとする国民も多く、そこまで来てやっと国王である父はシュノベザール王国に許しを請う書簡を送りました。ですが既に遅すぎたのです。国民の多くは死に行き、火に巻かれた者達も多くいます。農地はひび割れ、暫くは作物を育てる事も儘ならないでしょう。それでも尚、父はまだ上手くいくと考えていたようですが、国民が許す筈もありません」

「だろうな」

「時機を見て両親は殺されるでしょう。そう話した宰相が両親を言葉巧みに誘導し、私と妹をこのシュノベザール王国に人質として送りました。人質として過ごす間は国民たちも攻撃を仕掛けては来ないだろうと」

「なるほど……人質を殺してしまっては、またシュノベザール王国に報復されると思った。と言う事か」

「はい。今は雨を降らせていただき喉の渇きと火事に関しては落ち着きつつあるかもしれませんが、どうか今暫くは雨を、恵みの雨を降らせていただきたいのです! このままでは国民がどんどん死んでしまいます!!」

「私からもお願いします! お父様とお母様の所為でこんな事になって……何度も軍部もシュノベザールに手を出すのは止めた方がいいと止めたのに!!」

「どうやら、プライドの高い国王と王妃ではそれが理解出来なかったようだな」

「はい……」



つまり、暫く夜は土砂降りでも朝から昼にかけては普通の雨で良さそうだ。

作物畑は土が流れて駄目になるかも知れないが、土とて水が無ければ作物は育たない。

一定数の水を含んだ土でなければとてもではないが作物は育たない事は理解している。



「支援の方はどうなっている。各国に支援要請はしているだろう?」

「支援等国の恥だと言って……断りを入れていました」

「本当に馬鹿だな」

「はい……」

「それで、大事な娘二人を人質に出して、自分たちはのうのうと城の中か」

「そうなります」

「ですが、そう上手くいくでしょうか? 門を突破されて殺されるのが関の山のように思えますが」

「俺もそう思う。国民の怒りがどれ程かは分からないが、もう我慢の限界を超えているだろう。そうなった時、国は簡単に滅ぶぞ」



そう口にした途端謁見の間のドアが開かれ、バタバタと走ってきた外交大臣に俺は眉を顰めた。



「どうした」

「申し上げます!! 現在偵察に行っていた者達からの通達にて、バランドス城に国民が押し寄せ中に押し入ったとの連絡が!」

「「!?」」

「国王と王妃は」

「安否確認はまだ出来ておりません」

「今後も監視せよ。何かあれば直ぐ連絡を」

「畏まりました!」

「嗚呼、お父様お母様!!」

「ファルナ……」

「……両親の安否は不明だが、期待を持たない方がよいかも知れんな」

「「……」」

「侍女長はいるか?」



そういうと城で侍女を纏め上げている侍女長を呼び、彼女たちを部屋で休ませるように指示を出し、ついでに風呂に入らせこの国で過ごしやすい服装にも着替えさせるよう指示を出した。



「人質として来ているが客人だと思え。無礼を働いた者は物理的に首を落とす」

「畏まりました」

「サファール宰相、今後の事を話し合いたい。シュリウスも来い」

「はい」

「畏まりました」



こうして謁見の間を後にすると執務室に入りドカリと椅子に座る。

あと数日遅れていれば間違いなく二人は殺されていただろう。



「戻すにも戻せない状態になりましたね」

「だが、あのままでは直ぐに他国に攻め入られて終わる。こちらから出来る支援と言えば、干物くらいしかないが、ないよりはマシだろう」

「干物と塩ですね。野菜類はわが国でも必須ですし」

「後は家を建てる為の木材が精々だ。アイテムボックス持ちを数名引き連れていくしかないが、誰を頭に行かせるか……」

「それなら、俺が行きます」



そう声を上げたのはシュリウスだった。

これには俺もサファール宰相もテリオットも驚きを隠せなかったが、「多分最良かと」と口にする。



「俺が行く事で天候が安定すると言う事にすれば、天候が安定して作物が植えられる状態になればバランドス国民も落ち着きます。他国もシュノベザール王国の第二王子がいるとなれば、下手に手を出せばバランドス王国の二の舞になると恐れるでしょう」

「だからと言って、」

「彼女達の戻る国はあった方がいいと思います。もしくは、属国にしてしまえば良いのです」



思わぬ言葉に目を見開くと、サファール宰相は「ふむ」と口にし、俺も暫く考え込んでから「なるほど」と口にする。

広い土地とその国を属国とすれば、嫌でも作物は国に入るようになってくる。

国に入るように成れば国民も安定する。

外貨は稼ぐことは容易にできる為、輸出に掛る氷の魔石は沢山買えるだろう。

悪い話ではない。

だがその為には、大事な弟であるシュリウスと離れ離れになると言う事実がある。

が――。



「俺は自分専用の箱庭師を一人用意して貰えればそれで結構です。俺の部屋とバランドス城の俺が住めるような部屋に扉を繋げておけば何とでもなりますから」

「確かに行き来は出来るか」

「一旦兄上は雨を止めてください。その上でバランドス王国がどう動くかによって事を変えましょう。恐らくシュノベザール王国に使者が来ると思われます」

「それは私もそう思います」

「同じく」

「なら、暫く雨を止めて様子を見るか……それ次第でシュリウスには動いて貰う。いいな?」

「はい!」



こうしてバランドス王国に降り注いでいた雨は止み、まだ畑も川も水問題も全く改善していないまま数日が経ち――それから一週間後、バランドス王国から使者がやってきた。

そして、意外な申し出を受けることになる。



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