第6話 目下の定年退職の案件と、小さな一歩からでもと……。

翌朝、何時もの質素倹約な食事に今では当たり前になった水を飲み、身支度を整えてから執務室へと向かう。

朝はテリオットが紹介したいと言う箱庭師の事について調べている者と、農業に興味のある者と会う予定だ。

この二人が使い物になるようならば、即召し抱えるつもりだが、果たしてどうなるかは分からない。ただ、悪い気はしないのでいい感じに話は進みそうだと俺は思っている。


問題はこっち。

大臣の定年退職案件だ。

何時までもトップにしがみ付きたい老害にはサッサと去って貰って、新しい風を入れなくてはならない。

時代は進むのだ。

何時までも古い考えでは前には進まない。

国を富ませたければ、切り捨てる事も、諦めて貰う事も肝心なのだから。


今日も各所からの書類に目を通し、人口割合が横ばいなのは、まぁ今のところは良しとしようと思う。

だが生まれたばかりの子供や、働けない老人にまで税を課すと言う今のやり方は気に入らない。

働けるものが税を払うのは分る。

そうでない者から税を取り立てると言うやり方は国を富ませない。

此処は今後、法の改正をして行かねばならないだろう。


その為には人口を更に増やす為に、そして民を富ませる為にやるべき事は沢山ある。

公共事業に着手する事や、今国民が住んでいる石造りの家をどうするか等、課題はつきものだ。

石造りの家は直ぐに壊すことは可能だとは言え、木材で家を建てるとなると木が必要になる。

天日干しでやるにしてもスキルを使えば直ぐだが、実際に全ての家が建て替わるには数年は掛かるだろう。

気の長い公共事業になりそうだが、木材があるという事は炭が作れると言う事。

このシュノベザール王国では昼はうだるような暑さだが、早朝から夜は凍えるように寒い。



「炭を作れる人材が欲しいな……」

「え、炭ですか?」

「ああ、数は少ないが炭師は居ただろう? 彼等を国の公共事業にしようと思ってな。このシュノベザール王国の天候で大分緩やかにはしているが、昼はうだるように暑いが夜から朝方は凍えるように寒いだろう? 木を燃やすにしても国民全員に行きわたるものでもないし、炎の魔石では暖は取れない。そこで、炭を焼いて部屋を温かくするんだ。林業が出来るのなら炭師を雇い、ドンドン作らせようと思っている」

「大体炭は幾ら程になるのでしょうか?」

「値段は安い。何せ元は箱庭の中にある木を使うからな。だが、全ての国民が使えばそれなりに膨大な金額にはなる。それで寒さに凍える夜を過ごすと言うのが無くなれば、【国民の幸せ指数】が上がりより良い国となる」

「「「国民の幸せ指数」」」



聞き慣れない言葉だったようで宰相のサファールですら首を傾げている。

どれだけこの国に幸せが無かったかよくわかる瞬間だな。



「ようは、国民がこの国は素晴らしい、幸せだと思う気持ちと言うべきだろうか。まぁ、小さな一歩だが大きな一歩にも繋がる。後は公共事業で考えているのは、作物が育てば市場を広く構えようと思っている。その為には魚を売りたいのだが、今売るとしても干物や一夜干しくらいいだろう?」

「ええ」

「魚とは大体干物で食べるものですよね?」

「だが、魚とは本来干物になる前の物を焼いて食べるのが美味いらしい。それも塩だけでも最高に美味いのだとか」

「「「ほお……」」」

「その為には氷が大量に必要だが、氷の魔石は高いからな……。【魔石師】は希少だ。このシュノベザール王国にも二人しかいない。その二人で今を賄っているが、その上氷の魔石までは到底出すことは不可能だろう」



そう、魔石と呼ばれる物は魔素から作られるが、その魔素から作る事が出来る【魔石師】はレアスキルでこの王国にも二人しかいない。

その二人で賄えるだけの魔石と言うのも限られていて、半分は輸入に頼っているのが現状だ。

『魔石商人』と呼ばれる商人たちから買う事が多いが、彼らの諸々は謎に包まれている。

だが、決してぼったくりなどはしない。

その分、シッカリとした魔石を購入する事が出来るのは有難い事だった。



「漁業に関しては、先ずは干物関連から作って食糧事情を改善していこうと思う。塩は沿岸地域から入ってくるだろう?」

「ええ、年3回入ってきております」

「まずは様子見でいい。その内年4回に上げてもいいしな」

「畏まりました」

「ですが兄上、そもそも箱庭師と植物師を雇い入れた事で既に公共事業になっていると思うのですが」

「ああ、それは大きな事業にはなるだろう。大元の基礎と言って過言じゃない。そこからどんどん枝分かれさせていくんだ。事業は一つでなくていいのだからな」

「なるほど」

「鉱石が出る箱庭には炭鉱夫として人手を雇うのも決めているし、林業には炭師を雇い炭作りの事も想定として入っている。そうやって『箱庭』の種類によって事業が枝分かれしていくのは大事な事だ。その上で如何に国が儲かり、民に還元されて民も豊かになって行くのがいかに大事か、君たちは嫌でも知る事になる」

「「「はい!」」」

「その為には国民が必要であり、金も必要だ。得た物に関してはその内輸出して外貨を稼ぐと言う事までが目標なんだ。外貨を稼げるようになるまでは何年も掛かるだろうが、ゼロからのスタートなら致し方ないだろう」

「今からが建国……と思った方が宜しいでしょうね」

「そうだな」



そう言って全ての事柄を口にしながら書きなぐり、それを清書してファイルに仕舞うと、ドアをノックする音が聞こえ、テリオットが言っていた二人が到着したとの連絡があった。

その言葉に水を一杯グイッと飲んでから俺は立ち上がり、サファール宰相とテリオットを引き連れ謁見の間へと急ぐ。

王族が入る扉から中に入り、ドアを開けるように指示を出すと重たいドアは開かれ二人の若い青年が姿を見せ、頭のターバンを外して歩み寄り深々と頭を下げて最大の礼を示す。

さて、色々聞かせて貰おうか。

彼らが有益な人物なのかどうなのか――。




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