ルイちゃんの来訪
第30話
『僕たちは結局人間にはなれなかったんだね』
狐の魔怪を討伐した2日後、家で休みを満喫している最中でも、子狐の魔怪が言った言葉が何度も脳内で反芻されている。
「わかんねえ……」
ムリムちゃんの配信アーカイブを垂れ流しながらソファーの上で天井を見上げる。VTuberとしての建前があろうがなかろうが関係なくムリムちゃんも言ってしまえば人間ではない存在だ。
そして人間にはないはずの能力を持っている俺自身も、人間ではない存在なのかもしれない。そんな俺が人間ではない存在を討伐する仕事をやっていていいのかと今になって改めて思う。
するとインターホンがピンポーンとなり来客を告げる。またいつものように先輩が来たのかと思ったらモニターに映る人物は先輩ではなかった。
「マジで来たのか」
俺は玄関に行き、すぐに扉を開けた。するとそこには、銀髪を綺麗な三つ編みに結んで顔の半分近くが丸眼鏡で覆われている年下の少女だった。つーか実際何歳なんだろうか。
「おはよう……ございます」
「ああ、うん」
「本当にここに住んでいたんですね」
「さすがに嘘の住所教えるなんてしねえよ。ま、上がっていけよ」
「初めからそのつもりでした」
「そうかよ」
追い返すつもりなんてなかったけどだからといってそういう言い方はどうなんだと思いつつも、俺はルイを家の中に上がらせた。
*
「そういえばお前、歳いくつ?」
「5歳です」
「は?」
「ですから、5歳です」
「いやいやいやいや……」
確かに幼いとはいっても明らかに5歳よりかは年取っている。せいぜい11歳とかそこらだし5歳はさすがにサバ読みが過ぎるんじゃないだろうか。
「イルカと人間の年の取り方は違いますので。もっとも私はどっちつかずな年の取り方をしているようですが」
ソファーに座り、俺が出したポテチを食べながらルイが平然とそう言った。
「ハンドウイルカの5歳は性成熟を迎える方もいるようです」
「なぜそれを俺に言う!?」
「私はまだですね」
「そうかよ。まあそうだろうな」
「なので残念でしたね」
「別にお前には期待してねえよ!」
「お前には……? つまり他の方――」
「いいだろその話は!」
ちょっとだけ先輩の顔が浮かんでしまったのはこいつには絶対言えない。死んでも言えない。
「そう言うスパゲたんは何歳なんですか」
「16だよ」
「16……高校生ですか」
「高校には行ってない。仕事やってる」
「どんな仕事ですか」
「言えない仕事。お前の秘密と似たようなもんだよ」
「なるほど。私の正体を見抜きかけたのですからね。普通の方ではないのはわかります」
人に言えない秘密というのはこいつも俺も中身は違えど同じだろう。だからか知らないがルイはそれ以上言及してこなかった。それにしても、普通ではない、か。
「一体普通って何なんだろうな」
「突然どうしたんですか病み気ですか」
「まあ……そうかもな……」
ここ最近、そうやって考えさせられることが起こってばかりだからな。嫌でも色々そういうことをつい思ってしまう。
「ちなみに私は普通のイルカではありませんし普通の人間でもありません。特別な存在です」
「特別な存在、か……」
そういや会長も俺のことをそう言ってたっけ。俺は隣に座るルイの柔らかい髪を撫でながら言った。
「俺とお前は、同じなのかもな……」
「どう考えても違うでしょう馬鹿なんですか」
「お前にツッコまれた!?」
「ツッコみますよ私だって」
「くそ……」
立場が逆転してしまったのとかっこつけようとして失敗したのとのダブルパンチで俺は頭を抱えた。
「でも、いつか同じになれたらいいですね」
ルイはそんな俺に対して、わかるようでわからない言葉を投げ掛けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます