ルイちゃんとふれあおう

第27話

 翌日の朝、俺と先輩は東京のビジネスホテルをチェックアウトし、そこから列車に乗り鎌倉市までやってきた。ここに来た目的はただ一つ。俺は目の前にある古いようで新しい建物を見据える。


「鎌倉水族館……?」

「そうです。俺はここにどうしても行かなきゃならないんです」


 あいつをどうにかして泣かさないと気が済まない。それとこれもちゃんと確かめようと思い、破怪銃から取り出した魔壊弾を右手に握る。もし魔怪ならこれが肌に触れれば痛がるはずだ。あいつの痛がる顔も見てみたいしな。


「ははは……」

「な、ナポリ……? なんか顔怖いよ……?」

「大丈夫です。行きましょうか」

「う、うん……」


 若干先輩を怯えさせてしまったため、いけないと思いなんとか表面上は平静を保ちながら先輩の手を左手に持ち、それなりに人が多い入口前へと向かった。


 *


「11時からイルカショー……30分からルイちゃんとふれあおう……これだ。これしかない」

「イルカ好きなの?」

「好きではないですが俺はこいつに会わないと気が済まないんです」

「えぇ……?」


 俺は先輩を連れてドルフィンスタジアムまで来るとそう書かれた看板を見つけた。先輩も同様に看板を見て、少し戸惑いながらも口を開く。


「でもちょっと意外……ナポリがこういうのに興味あるなんて」

「俺もこいつと会うまでは全く興味なかったんですけどね。こいつと出会ってから俺はおかしくなった」

「えぇ……」


 まずい。感情のままに話したら先輩が引いてしまった。何とか軌道修正しなければ。


「とりあえずそれまで他のところ見て回りましょうか」

「う、うん」


 こうして俺は先輩とともに館内を巡り歩き始めた。


 *


「イワシ……一匹くらい食べてもバレなさそう……」

「んんっ!?」


 先輩が大水槽を群れで泳ぐイワシを見てぼそっと呟いたのを聞いてあいつも似たようなことを言ってたのを思い出して変な声が出たが何とか平静を装い、先輩とともに館内を歩いていく。


「ハリセンボン……全然膨らみそうにないね」

「ここに長くいて刺激に慣れたから膨らまなくなっちゃったみたいですね」


 口を半開きにしながらのっぺりした四角い体で泳いでいるハリセンボンを眺める。膨らまなくなったのは成長なのか、あるいは衰えなのか。色々と考えさせられる。俺もあいつの前では膨らまないようにしようかな。


「あ、アシカ!」

「オタリアっていうらしいですよ」

「あぅ……でも同じアシカ科だし……」


 一体何が違うんだと思って解説を見てみるとオタリアの方が顔が丸いらしい。そういやあいつも先輩よりも顔丸いな。


「クラゲ……きれい……」


 でも触れるとチクチク刺してくるんだよなぁ。まるであいつみたいだ。


 つーかあいつのことしか考えてねえじゃねえか! 水槽を間近で眺める先輩のキラキラした横顔とかを見てもっと他のこと考えられただろ!


「あ、そろそろ11時だよ」

「行きましょう。ドルフィンスタジアムに」


 こうして俺は先輩とともにスタジアムへと向かった。俺と手を繋いで暗めの館内を歩くワンピース姿の先輩は、いつもよりも可愛かった。


 *


 既にかなり人が集まっていたスタジアムのちょうど真ん中辺りに空いていた席に先輩と並んで座る。


 しばらくすると、最近ムリムちゃんが配信で歌っていたような気がする曲がスタジアムに流れ始め、マイクで拡声された女性のトレーナーの明るい声が響く。


「大変長らくお待たせいたしました! これより、鎌倉水族館名物、イルカショーの開演です!」


 客席から多くの拍手が送られると4匹のイルカが水面から顔を出した。あいつはどこだ。見分けがつかない。


「それでは、今回のショーのメンバーを紹介します! 左からウイちゃん! リリちゃん! ルイちゃん! アイちゃん!」


 あいつか。俺は3番目に紹介されて水面から顔を出してクルクル回っているイルカに焦点を当てた。


 それからあいつは輪っかをくちばしで回したり吊り下げられたボールを飛んで蹴ったりしてショーは終わった。


「ルイちゃんはこのあと30分からここスタジアムでふれあいイベントを行います!  そちらもぜひご参加下さい!」

「並びましょうか」

「う、うん……」


 そうアナウンスがあると、ショーが終わっても唯一残っていたルイの前に行列が生まれ始めたので俺と先輩もその中に加わる。


 可愛いかったねなんていうカップルや親子連れの声を聞いているとやがて俺たちの番になった。


「背びれ辺りを優しく触ってあげて下さいね」

「はい。……あっ、すべすべ……」


 先に先輩がイルカモードのルイの背びれを撫でる。触ってみなと先輩に顔で促されたので、俺も左手で奴の滑らかな感触の背びれを撫でる。ここで魔壊弾を使うのは色々と面倒なことになりそうだったのでやめておいた。その代わり、俺はルイに近づきこう囁いた。


「全部終わったら来い」


 そうして俺たちは後続の人に撫でられるルイを見ながらスタジアムを後にした。


「あの子に会いたかったの? 確かに可愛かったけど……」

「はい」

「即答!?」


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