第23話

「で、今更なんだよ」

「もっと感動の再会みたいなリアクションをしろ。あとお前らが今も殺されてないのは余のお陰だからちゃんと敬え」


 ペペ子は俺の問いに答えることなくきっぱりと言い放った。色々気になることはあるが先に言いたいことを言わせてもらうとしよう。


「感動する程の関係でもねえだろ。母親らしいこともされてねえし」

「そうだな。だが余も最強破怪師として任務に赴かなければならなかったのだ。世界が滅びればお前も余も全員死ぬからな」

「最強破怪師……!?」

「ただの自称だから気にしないで下さい」


 またしても先輩がとんでもワードに目を丸くしていたが、別に他の人からそう呼ばれていたとかそういうことはないので訂正しておいた。今の現役破怪師が最強破怪師と言われてイメージするのは多分会長の方だろう。


「嗤いたいのなら嗤え。どう足掻いてもお前らは余の足元にも及ばないのだからな。まんまと魔怪に嵌められているのがそれを証明している」

「じゃあなんであんたはここにいんだよ」

「潜入任務だ。椿の魔怪は古来から凶悪な魔怪として知られているからな」

「潜入? そんな話どこからも聞いてねえぞ」

「そうだろうな。今まで誰にも言ってなかったのだからな」

「どうしてだよ」

「言ったら潜入にならないだろうが」


 ペペ子が何食わぬ顔で言う。いつからいんだよとか行方不明になってたのはそのせいかよとか言いたいことはやっぱり大量にあるが、ひとまず本題を切り出すとしよう。


「で、その潜入任務とやらで何かわかったことはあるのかよ」

「あるぞ」

「何だよ」


 俺が聞くと、ペペ子は靴のまま机の上に立ってマントを翻し、俺を指さした。


「この事態を引き起こしているのはナポリ。お前だ」

「……は?」


 何を言っているんだ。俺が?


「厳密には、お前のことが好きで好きで好きで好きで好きで好きで堪らない奴のせいだ」

「先輩!?」

「ええええっ!? いやいやいやいやいやあたしじゃないから! ナポリが好きなのは否定し――むぐあぐあぐ!」


 ペペ子の発言に先輩が驚愕してもがき始める。俺も何がどうしてこうなるんだと先輩を見て思う。


「落第天使のことではない。この京都にいる破怪師の方だ」

「鈴が……?」

「そうだ。結論から言えば、椿の魔怪と結託してお前を潰そうとしている」

「なんでだ……!?」


 その言葉しか出てこなかった。なぜ鈴が俺を潰す必要がある? しかもどうして椿の魔怪と?


「疑問を抱くのは当然だろうな。でなければそもそもこんなことにはなっていない」

「だからどういうことだよ!」

「そう焦るな。答えは屋上に行けば自ずとわかる」

「屋上?」

「そうだ。わかったらさっさと行け。多分ここに群衆が来るのも時間の問題だ」


 俺は溢れ続ける疑問を抱きつつも、教室のドアに手を掛けた。


「あ、待って……!」


 先輩もすぐに俺の後ろについていこうとした。が、ペペ子に体操服の袖を掴まれ制止される。そして耳元で何か囁かれていた。しばらくそうしていると先輩が慌て始め、ペペ子がひとしきり笑い、話が終わったようだった。


「お待たせ……じゃ……行こっか」

「足止めしてやるから可及的速やかにな」


 そうして俺は不敵な笑みを浮かべて札の束を取り出したペペ子を見てから、先輩と共に廊下を走り屋上を目指したのであった。

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