第21話

「なぜだ! なぜ貴様らには我の幻術が効かない!?」

「そっちの先輩には効きまくってたけど俺には効かねえんだよ!」

「ご、ごめんって!」


 動揺しきっている先輩とともに、状況が理解できていないのか慌てふためいている魔怪に追いつき俺はホルスターから破怪銃・六式を――ない! あちこち触って確かめてみるがどこにもない。服装が変えられてるからか……。仕方ない。こうなったら元々俺が持っている方を使うしかないか。


闇影禍霊髏あんえいかれいろ!」


 闇よりも深い黒き無数の糸が、傷ひとつない左手から瞬く間に放たれる。糸が魔怪に触れた瞬間、全身を繭のように縛り上げ、魔怪は床に墜ちた。


「がはっ……」

「お前を倒してさっさとこんな幻術の世界から出ていかせてもらうぞ」


 黒い糸に顔以外を縛られた魔怪の口から空気が漏れる。俺はそいつの胸部辺りを踏みつけながら言った。再度痛烈な痛みと衝撃を感じつつ、右腕に電流を流し込んでいく。


「おい! 何しとるんや自分!」

「ナポリ!」


 青白い火花が散っているのを確かめて魔怪を殴ろうとしたところで何者かから肩を掴まれ激しく横に飛ばされた。先輩が咄嗟に俺の背中を支えようとしてくれたものの支えきれずに一緒に床に倒れた。「ぐぇ」という先輩の変な声を後ろで聞きながら、俺は正面を見据えた。するとそこには屈強な身体つきでジャージ姿の教師らしき男が威風堂々と立っていた。


「大丈夫か!」


 男が黒い繭に近づき、糸に手を掛けようとした時、魔怪が不敵な笑みを浮かべているのが見えて俺は立ち上がり足に力を込めようとするが不意打ちのせいか、上手く力が入れられない。それでも何とか這いずりながらも接近を試みる。


「問題ない……貴様を喰らえばな!」

「な……ぐああああああああああああああああああ!!」


 遅かった。魔怪が男の太い腕に噛みついた瞬間、野太い絶叫が体育館を包んだ。体育館にいる全ての人間の視線が男に向けられる中、男の体がみるみるうちに血の気を失っていき、やがて受け身もせず大きな音とともに床に倒れた。


「不味いな……実に不味い。が、今はこれで良しとしよう! さあ我が下僕共! この痴れ者を排除せよ!」


 魔怪が繭を突き破り体育館にいた生徒たちに指パッチンをしてそう呼び掛けた瞬間、生徒たちが一斉に俺と先輩の元へと体を向けた。そして何かブツブツ呟きながら近づいてくる。


「「「「「「「「「「「「「排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除……」」」」」」」」」」」

「ちょちょちょちょヤバそうだよナポリ!」

「わかってる!」


 とどめを刺せなかったが故に犠牲者を出してしまった後悔を感じつつも俺は先輩の手を再び取り、急いで体育館を後にしたのだった。

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